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黒鉄の戦士  作者: 松山みきら
第一章 黒鉄の戦士降臨
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異世界の家族と仲間




 しばらくして、村を襲った戦魔族を追っていた部隊が戻ってきた。

 隊員全員が暗い青色の鎧やローブを着ている。制服みたいなものか。

 俺を看てくれていたアルシャロッテが青色の集団に気づいて、

 張りつめていた表情をわずかに緩ませた。


「お、戻ってきた」

「例の特務部隊ですか?」

「うん。対戦魔族特務部隊、蒼穹隊」


 青い衣装の集団に一人、

 ローブを纏い、背中に白い宝石がついた杖を背負った少女がいた。

 彼女は俺の顔を見るやいなや、

 他の隊員を追い越して駆け寄って抱きしめてきた。


「ああ、兄さん! 無事で良かった!」

「いでででで! ま、待ってくれ、まだ傷が痛むんだ」

「あ、ご、ごめんなさい!」


 茶髪を後ろに結った、まだ十代半ばの少女だ。

 まあ、妹キャラらしく可愛い顔立ちをしてるな。

 アルシャロッテは美人、この子は可愛い、そういう具合だ。

 って、兄さん? 俺が?


「ごめん、マリー。彼、記憶を失くしちゃったみたい……。

 一時的なものなのかもしれないけど……」


 アルシャロッテが苦々しく首を振る。

 俺の妹だというマリーは、一度ハッと目を見開いたが、

 涙を浮かべながら穏やかな笑顔を浮かべた。


「それでも! 生きているなら、私は十分です!」


 嗚咽をもらしながら、もう一度俺の身体を抱きしめる。

 今度は優しく。よかった、よかった、と何度も言いながら。


「ごめん。えっと、マリー……で、いいのかな」

「はい! 妹のマリエルです! よかった、本当に!」


 感動の再会に続いて、マリーの後ろから男らしい顔立ちの青年が姿を見せた。

 蒼穹の鎧に白いマント、オールバックの金髪が上官らしさを漂わせていた。

 彼は小さく息をついて安堵したように表情を緩ませた。


「ご無事であったか」

「手放しで喜べないよ。彼は記憶を失ったんだ」


 英雄が険しい表情で言う。

 上官らしき青年の緩んだ表情はすぐに硬く戻った。

 強い眼差しが俺を見据える。


「何ということだ……。

 マリエル、兄上殿の治療に当たれ。

 施された魔法陣が影響を残していないかどうかも確かめるのだ」


 マリーは俺の身体から離れると、

 立ち上がって背筋を正し、胸に手を当てる礼をした。


「はっ!」

「アルシャロッテ殿は二人を王都に送り届けてもらいたい。

 現場の収拾は俺が行う。命を散らせた隊員もいるゆえ、な」


 青年は瞼を強く閉じ、腰の長剣に添える手を震わせた。


「……分かった。殿下への報告はしておく?」

「頼む。村を襲った一団は投降した者を除き、殲滅した。

 奪われた作物は一部を除いて取り返せたが、検査が必要だと伝えてくれ」

「ん、了解。行こう、二人とも」


 マリーの肩を借りて立ち上がる。

 歩く足は重たかったが、回復魔法の効いているのか、

 痛みはずいぶん良くなっていた。


「ああそうだ、レクソール殿」


 青年が思い出したように声をかけてきた。

 間抜けな返事をして首を傾げると、彼は明るく自己紹介をしてくれた。


「俺は蒼穹隊東空長とうくうちょう、セト・ヴォーマンだ」

「……レクソール・フォルナイトです。妹がお世話になってます」

「なに、気になさるな。

 俺も兄上殿が作る野菜には世話になっている」


 セトは俺の肩を強めに叩き、他の隊員たちへ指示を出しに行った。

 こっちの俺は割と認められてるんだな。

 妹のためにも、失望されない生き方をしなくては。




 被害を逃れた荷車に、ケガ人の俺とわずかな物資を載せ、

 三人で王都ロンダリスを目指した。

 アルシャロッテは涼しい顔をして荷車を引き、

 その横をマリーが歩いている。

 年頃の若い娘に運ばせるのは何だか落ち着かなかった。


「二人ともありがとう。

 二人を載せて運んであげたいくらいだ」


 マリーがこちらを向いて微笑んだ。

 荷車の俺に並ぶように歩調を合わせる。


「兄さんは小さい頃、私を荷車に乗せて散歩に連れて行ってくれたんですよ」

「へえ?」

「父さんには、お前は兄さんに甘えてばかりだーって、怒られました」


 懐かしむマリーに返す言葉が見つからない。

 俺はただ「そういうこともあったのか」と笑うだけ。

 悲観はしない。俺が覚えてなくても、俺を覚えている人がいる。

 一緒に過ごした時間を記憶している誰かがいるだけで、幸福だ。


「いいじゃない、仲良しで。ご両親もきっと喜んでるよ」


 黙って歩いていたアルシャロッテがこちらに笑みを向けていた。


「そうですね。父も母も、天国できっと」

「……父さんと母さんのこと、教えてくれないか」


 両親のことはマリーが教えてくれた。

 父は王国北方の寒村出身、母は王都生まれだった。

 王国の政策で、王都に近いバルガ村を農作拠点の一つにすることとなり、

 二人は仕事で村を訪れた際に出会った。

 その後、政策は成功して村は発展。二人は結婚して村に永住することに決めた。

 しかし、俺が十二歳、マリーが十歳の頃、

 王都に出かけた帰りに魔物に襲われて、殺されてしまった。


「そうか……」

「両親に同行した村の自警団員もやられてしまうほどの凶悪な魔物でした。

 事態を重く見た王国は騎士団に捜索と討伐を命じるとともに、

 冒険者ギルドへも協力要請を出しました」


 協力要請を受けて討伐に赴いた冒険者の中に、英雄アルシャロッテがいた。

 俺とマリーはそのときに英雄と知り合った。今から五年前の出来事だという。


「アルさんが英雄と呼ばれるのは、

 この魔物に単独で挑んで、無傷で討伐したからなんですよ」

「すごいな。両親の仇を討ってくれた恩人だったのか」

「その恩人に毎月、大量の野菜を送りつけるのがレックスなの」


 呆れたように笑うアルシャロッテ。

 マリーも小さく肩を震わせた。

 両親の話で沈んだ空気が、少しだけ和んだ気がした。


 青空の下、三人の短い旅路は順調だった。

 俺たちがたどり着いたのは、白い城壁がまぶしい王都。

 城壁の向こうには低い山が見え、そこに城がそびえていた。

 今日は快晴だから、王都の景色がよく映える。


「ロンダリア王国の王都、ロンダリスです。

 山に建つ城には王族とその家臣が住んでいます」

「おお……」


 見事な建物だ。日差しを受けてきらめく姿が美しい。

 こういうのは写真やテレビでしか見たことがない。

 ヨーロッパの城なんかはこんな雰囲気だった。


 王都に入り、俺は青い旗が掲げられた建物に運ばれた。

 蒼穹隊本部に併設されている救護施設だった。

 荷車が止まったら、アルシャロッテが両手を伸ばして俺を抱き上げた。

 すごい力持ちだ。


「うわ、歩けるって! ちょっと!」

「照れちゃってぇ。マリーからも言ってやってよ」

「兄さんはケガ人なんですから、安静にしてください」

「……はい」


 入り口の受付からすぐ隣の救急室へ。

 清潔なシーツのベッドに寝かされて、青いローブを着た人々に囲まれた。

 その中にマリーも混ざっている。

 マリーはここの連中より階級が高いのか、

 用意するものなどの指示を与えていた。


「それじゃ、私は報告に行くね。またあとで寄らせてもらうよ」


 アルシャロッテが微笑みを投げてきた。

 俺も笑顔を返してうなずいた。


「ありがとうございました」

「敬語はいらないよ。気軽にアルって呼んで」

「……分かった。ありがとう、アル」

「へへ。どういたしまして」


 手を振って、大剣を背負った英雄が去っていく。

 いつぞやのゲームで見たことのある英雄も、あんな風に可愛かったっけな。


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