9.懸念
それからしばらくして。
宿に戻った“暁の鷹”は、貸し切ったフロアに集まっていた。
「周りには誰もいないな?盗聴はされてないか?」
ウォレスがたずねると、杖を使って辺りを探っていたリュートとミリアが振り返った。
二人は、のぞき見や盗聴の魔術が行われていないか、探っていたのである。
「問題ない」
「ばっちりよぉ~」
リュートとミリアが頷くと、
「っはぁああ~~~!しんどかったぜぇ~!」
ギリアムはソファに仰向けになってもたれた。
コールスが転落したのは“事故”である、と周囲に思い込ませるための芝居は、案外うまくいった。
「なかなかの名演技だったぞ」
とリュートが笑う。
「へっ、そっちこそ、素人役者とは思えなかったぜ?」
「ミリア、あんたも頑張ったよねぇ」
「あれくらい、なんてことないわよぉ~」
マーサのねぎらいに、ミリアはけろっとした顔をしている。
くつろいだ雰囲気の中、ウォレスだけは険しい顔のままだ。
「酒場の連中はあの芝居でごまかせるとして、後はギルド上層か。今後、直にギルド長たちが話を聞きに来る可能性がある。しっかり口裏合わせをしておくぞ」
「そうだな。それに、恐らく現場の様子も確認するだろう。つり橋の縄はあれで大丈夫だろうか?」
リュートの呟きに、ギリアムが答える。
「問題ねぇよ。両方ともナイフでしっかりと切りほぐしておいたからな。ちゃあぁんと自然に切れた風に見えるようによ」
剣士はへへっと笑って酒瓶に口をつける。
「全く……アンタがつり橋の縄を最初に切ったときは、何をするのかと思ってビックリしたけどね!」
マーサがにらみつけると、ギリアムは片眉を上げる。
「仕方ねぇだろ。急に思いついちまったんだよ。今なら、あいつを厄介払いできるってな。だいたい、リーダーだって後から切っただろうが」
仲間の抗議に、ウォレスはため息をついた。
「そうするより他にない、と思ったからだ。全面的に賛同したわけじゃない!」
ウォレスはあの時を思い出していた。
つり橋を落とした自分を、信じられないという目で見ていたコールスの顔。
魂を振り絞るような奴の絶叫は、今も耳の奥に残って離れない。
(オレとしては、地上まで連れ帰ってから解雇したかった。
当然だ、故意に仲間を落としたなんてこと、バレれば一巻の終わりだ!)
(だが、あいつの呪いを解こうとすれば、かなりの金がかかったことは事実だ。その分の経費が浮いた、とは言えるか……)
「いずれにせよ、起こったことは仕方がない。一度決めた道は貫き通すぞ、いいな!」
「おう!」
「あぁ!」
「えぇ!」
「はぁ~い」
4人の返事を聞きながら、ウォレスはどこかで胸騒ぎを感じていた。
(大丈夫、俺たちがコールスを落としたという証拠は残っていない、ギルドの信頼も厚いし疑われる余地はない……計画に穴はない)
なのに。
どうしても、全てが崩れてしまうのではという懸念を拭えないのだった。




