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80.後片付け、そして

それからは慌ただしく日々が過ぎていった。

 まずは、ヴィルネイス公爵家の立て直しが必要だった。


 ビクセン氏とその妻は、ゴードセンによって日常的に弱い毒を盛られていたことが判明し、ソフィヤたちによって治療が行われた。


 張本人のゴードセンもまた、ドーネットに刺されて瀕死の重傷を負っていたが、一命をとりとめたため、治療と並行して尋問が行われることになった。


 ドーネットに裏切られ、新魔族という後ろ盾を失ったゴードセンはすっかり意気消沈し、素直にコールスたちの尋問に答えた。


 彼の供述に寄れば、ドーネットが近づいてきたのは2年ほど前のことだという。

 それまでも真魔族という存在は知っていたが、実際に会うのは初めてだったらしい。

 しかし、ゴードセンはたちまちドーネットの魅力の虜になり、彼女を妻に迎えた。

 

 それ以来、ドーネットは領地経営に口を出し、ヴィルネイス公爵家の誰も止められないようになっていた。


「儂はすっかり、あの女に操られていたのだ」

 とゴードセンは自らも被害者であるかのようなことを言っていたが、それ以前に魔草の密売を黙認し、その見返りに密売グループから賄賂を受け取っていたのはゴードセン自身であり、弁解の余地はない。


 ゴードセンは治療が終わり次第、王都に送られて裁判にかけられることになった。


 魔草の毒に中てられていたビクセン夫妻は、治療を受けてすぐに回復した。

 無論、ソフィヤたちの手当てが良かったこともあるが、愛息であるターセンが自分たちの元に戻ってきた、ということが二人にとって何よりの良薬であったろう。


 特に喜んだのはターセンの母親だった。

 やむを得ないこととはいえ、産んですぐに引き離され、10年もまともに会うことができなかったのだから、それは当然のことと言えた。


 そして、健康と実権を取り戻したビクセンは、近日中にターセンを正式な後継者とする式典を開くと発表した。


*     *      *


 一か月後。

 アイレーネファミリーのアジトにいたコールスたちの元に吉報が届いた。


「え、アルクマールと連絡が取れそうだって?」

 コールスが驚くと、ルシーラは頷いた。


「はい!例の神殿跡をスミーリャさんが調べておられて分かったらしいんですが……」

 アナスタシアのほうを振り返ると、彼女は緊張した面持ちで頷いた。


 それを見てコールスはアイレーネに言った。

「すみません、アイレーネさん。少し席を外したいのですが……」


 今、コールスたちはアイレーネやジンクたちと一緒に魔草販売ルートの解体に取り掛かっている。


 密売ルートを仕切っていたのはスゲイルファミリーだったが、ゴードセンやガドゥといった後ろ盾を失ったことで奴らの勢いは完全になくなり、パワールの裏社会の実権はアイレーネファミリーの手に戻った。


 今日も、コールスたちは逃げた売人を追跡し捕縛した。

 今はその報告をアイレーネにしているところであった。


 アイレーネは微笑んで頷いた。

「あぁいいよ、行っておいで。後の処理はこっちでやっておくからさ」


 馬に乗って神殿跡に行くと、スミーリャとメイレールが迎えてくれた。

「お、お越しいただきありがとうございます」

「いらっしゃい、話は中でしようか」


 地下に降りながら、スミーリャは説明してくれた。

「こ、この神殿跡はアイレーネさんの夢に出てきた場所ですよね。そ、それで閃いたんです。も、もしかしてアルクマールさんはこの神殿に来て、ここを中継基地にして、アイレーネさんの夢に干渉したんじゃないかって」


「なるほど、ここには念話を遠くへ飛ばす機能があって、アルクマールはそれを利用したんじゃないかってことだね!」

 コールスの言葉に「そう、そうです!」とスミーリャは頷いた。


「スミーリャがそれらしき機能を見つけたからね、君たちを呼んだというわけ」

 とメイレールが言った。


――それを使えば、こちらからもアルクマールに念話を飛ばせるかもしれない……!

 期待に胸を膨らませながら石段を降りると、目の前に空間が開けた。


 縦横10歩ほどの四角い部屋の中心には古びた銀の水盤が置かれている。大きな花のような形の水盤は透明な水を湛えて、鏡のようにコールスたちを映していた。


「せ、石板はお持ちですか?」

 とスミーリャがきくと、アナスタシアは頷いて石板を取り出した。


「じゃあ、そのくぼみに置いてね」

 今度はメイレールが指示する。

 確かに、水盤の“花びら”の一つにくぼみがあり、そこに石板がすっぽりおさまるようになっていた。

 

 アナスタシアが石板を置くと低い音とともに石板は緑の光を放ち始め、その光は水盤全体に広がった。


「で、ではここに立ってアルクマールさんによびかけてください」

 アナスタシアは目を閉じて両手の指を組み合わせて祈るようにしながら、


「アルク、アルク聞こえる?」

 と呟き始めた。


 すると鏡のようだった水面にさざ波が立ち始めた。

「アルク、アルク……!」


 水盤の光は強くなり、さざ波はやがて渦巻へと変化していくが、まだアルクマールには繋がらないようだ。


「では、私も協力しよう」

「私もやります!」

 メイレールとルシーラがそれぞれ声を上げ、水盤を囲むように立つと祈り始める。


 すると渦巻から水柱が立ち上がり、雑音の中から途切れ途切れに声が聞えてきた。

「……シャ、ナー……シャ」

 微かに聞こえる女の声に、アナスタシアはハッと顔を上げた。

「アルク!」

 砂嵐のような雑音が消え、水柱は人の形へと変化した。


 それはローブを纏った女性の姿。

 女性が猫耳のような飾りのついたフードを脱ぐと、ふわふわとした銀髪が現れた。

「久しぶりだね、ナーシャ」


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