8.役者たち
コールスとアナスタシアがモンスター相手に奮闘しているころ。
ウォレスたちは、自分たちのギルドがある冒険者の街に戻ってきていた。
ギルド経営の酒場の戸をくぐると、たむろしている冒険者たちが口々に声を掛けてきた。
「“暁の鷹”だ!」
「ずいぶん早かったな!」
「ミリアちゃん、元気?」
パーティ5人は男たちの間を通り抜けると、カウンターの前で立ち止まった。
「よぉ、おかえり……」
と、酒場のマスターは怪訝な表情で、カウンターの向こうから出迎えた。
それもそのはず、いつもなら意気揚々としているウォレスたちが、今は一様に暗い顔をしていたからだ。
「どうかしたのか?」
黙っている“暁の鷹”にマスターがたずねると、
「うぅ……あぁああああぁん!!」
突然、ミリアが泣き崩れた。
いつもぼ~っとしていて、泣き顔など見せたことのない魔術師の号泣に一同はざわついた。
ウォレスは重々しく口を開いた。
「……コールスを、失った」
冒険者たちはどよめいた。
「え、コールスって、あの獣人の探索師か!?」
「そういや、ここにいないな」
「失った、ってどういうことだ?」
とマスターが問いかけると、リュートが答えた。
「第20階層で、アーマーミノタウロス5体と遭遇。退却する際、空堀にかかったつり橋に来た時に、敵の重みで縄が切れて橋が落ちた。それにコールスが巻き込まれたんだ」
「くそっ、俺がもう少し早く手を伸ばしていたら……!」
ギリアムが悔しそうな表情で叫ぶ。
「いや、あの状況では無理だ。下手をすれば、君の命も危なかったんだ」
「それがなんだってんだ!!仲間一人助けねぇで何が冒険者だ!」
「君だって仲間だっ、もちろん彼も!だがどちらかしか選べなかった!」
言い争う男たちの後ろで、ミリアは顔を覆って泣き続け、マーサがそれを慰めている。
ざわつく空気の中で、
ドン!
と地響きがした。
片膝をついたウォレスが拳で床を叩いていた。
「……俺はリーダー失格、いや、冒険者失格だ!」
そう言って懐を探り、一枚のカードを取り出した。
「おい、ウォレス……」
「仲間の放棄は、重大な規約違反だ。ここでギルド会員証を返上する!」
「リーダー!」
「ウォレス、そんなっ!!」
会員証を返そうとするリーダーに駆け寄り、仲間たちが口々に叫ぶ中、
「だが、罪は俺だけが被る、だからほかの仲間は見逃してくれ!」
ウォレスは必死の形相だ。
マスターは慌てて「落ち着け!」と手を振った。
「仲間の放棄といっても、やむを得ない場合だってある!お前たちの話を聞く限りは、避けようがない事態だったんだろう?そんなところまで罰せるわけがない」
「マスター……」
「いいから、カードはしまえ!事情は分かった。とりあえず、ギルド長には俺から話しておく。とにかく、お前たちは休め」
「っ、ありがとう……すまねぇ!」
ウォレスはじめ、ギリアムたちも頭をがっくりと垂れた。
「そうだ、よくやったよ、お前たち!」
「お前らが仲間思いなのはよく知ってるぜ!」
「しっかし、ミノタウロス5体なんて、聞いただけで恐ろしいな!」
「しばらくは、ダンジョンに近づけねぇな」
冒険者たちが、“暁の鷹”を慰めたり、ダンジョンの今後を心配している中、じっと一人の男がウォレスたちを見つめていた。
そしていつの間にか、ふらっと酒場を出ていったのだが、ウォレスはじめ、誰一人それには気づかなかった……