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78.心中

 コールスたちが思わず声を上げると、通りの陰からメイレールが姿を現した。

 

 コールスはとっさにアナスタシアを護るように動く。

 すると、メイレールは神妙な顔をしながら、その場で頭を下げた。


「!」

「君たちに対して攻撃をしたこと本当にすまなかった!それに街を破壊してしまったことも……そのつぐないはするつもりだ」


「公爵様のお屋敷におられた、と聞きましたが……」

 と、ソフィヤがたずねると


「あぁ。だが、襲撃失敗の責任を取らされて牢に監禁されていたんだ。なんとか隙をついて逃げて来たけれどね」

 と答える。


 コールスはそっとメイレールの身体をスキャンする。

 確かに、手錠でついたと思われる傷痕やあざ、すり傷があちこちにある。

――ひとまず嘘は言っていない、か?

 

 まだ罠の可能性もあるが、とコールスが思っていると、アナスタシアはコールスの腕をそっと押さえると、メイレールのほうに歩いた。


「ナーシャ」

「大丈夫よ、コールス……おかえり、メイレール」

 少女は涙ぐんでいる。


「ああ、ただいま」

 メイレールの方も感慨深げにしている。


――まぁ、いいか

 アナスタシアの気持ちを考えれば、このままメイレールを受け入れた方がいいだろう。

 

――石板はどちらもこちらの手にあるし、いざとなれば身体を張って守るだけだ!


*   *   *


「た、助けてくださいっ!」

 公爵邸につくなり、コールスたちは、血相を変えた使用人たちに助けを求められた。


 事情も分からぬまま、引っ張られるようにゴードセンの執務室に行くと、そこは血の海。

 ゴードセンとドーネットはどちらも血まみれで倒れている。


「旦那様が叫ばれたのを聞いて中に入りましたら、このようになっておりまして……」

 と老執事は声を震わせている。


 ソフィヤは急いでゴードセンに駆け寄る。

「……まだ、息があります!」

 そう言って応急処置の準備を始める。


 メイレールはドーネットに近づいて見下ろす。

「こっちはもう死んでるみたいだね」


「その人は?」

 コールスが問う。


「真魔族だよ。この家を牛耳っていたのさ」

 メイレールの言葉に、コールスは目を見張った。

「真魔族……!話に聞いたことはありますけど」


 体をくの字にして倒れているドーネット。

 よく見ると、両手で何かを抱えているようだ。


――いや、違う。ナイフだ、ナイフで自分の胸を刺しているんだ


「ゴードセンを刺した後に自殺した、ってことか」

 とメイレールが呟く。


「メイレールに逃げられて、勝ち目が薄いって思ったのかねぇ。泣く子も黙る真魔族にしては、ずいぶんしょっぱい終わり方だねえ」

 ルミナがやれやれという風にため息をつく。


 だが、メイレールはまだ思案顔だ。


「どうしました?」

 コールスがたずねると、女エルフは


「奴がこれでくたばるはずがない」

 と呟き、なおも考え続けているようだったが、すぐにハッと何かに気づいたような顔をした。

「やはり、ドーネットはまだ生きている……」


「そんな!でも、どうやって?」

 アナスタシアは不安そうな瞳で辺りを見回す。


「奴は憑依術を使える。たとえ肉体がダメになっても、次のターゲットを見つけて乗り移り、乗っ取ることができるんだ」

 メイレールの低い声が部屋に響いた。


 そして、コールスをじっと見つめて言った。

「君は“王の器”についてどこまで知っている?ナーシャたちが武器に変化することは?」


「はい、ナーシャとルシーラが変身した弓で巨人を倒しました」

 コールスの答えに、メイレールは微笑む。


「上出来だ。けれど、弓になるだけじゃない。“王の器”はあらゆる武器に変化できる。剣や杖にもね」


「へぇ、杖にねぇ!じゃあコールスは魔術師にもなれる、ってこと?」

 ルミナは半ば冗談めかして言ったが、メイレールは真顔で頷いた。


「あぁ、もちろん。そして実際、コールスには魔術師としての仕事をお願いしたいんだ」


「わかりました」

 とコールスは頷く。

 魔術もまたスキルの一分野だ。今のコールスならレベル99の魔術も十分に使えるはずだ。


「ありがとう。じゃあ早速準備をしよう!」

 メイレールを中心に作戦をたてることにした。



 十分後。

 メイレールは、ビクセン=ヴィルネイスの居室の前にいた。

「旦那様、お客人のメイレール様が面会を申し出ておられます」

 共に来ていた老執事が扉をノックしてそう呼びかけると、


「入ってくれ」

 部屋の中から弱弱しい声が聞こえた。


「失礼します」とメイレールが中に入ると、天蓋つきのベッドに身を横たえていた男が「ううむ」と唸りながら体を起こした。


 ヴィルネイス家現当主、ビクセン。

 その顔はやつれていて、40歳近くだという年齢よりも老けて見える。


 メイレールは挨拶もなしに切り出した。

「先ほど、ゴードセン様とドーネット様がお亡くなりになられました」


「……なんだと」

 その瞬間、驚いたように、虚ろだったビクセンの瞳に光が宿った。


「お気づきだったとは思いますが、ゴードセン様はあなた様がお家のことに携われないのを良いことに権勢を欲しいままにしておられました。そして自分たちの悪行が白日の下にさらされる危機を前に、自刃を選ばれたのです」


「なんということだ……」

 メイレールの言葉を聞きながら、ビクセンは眉間を揉んで深いため息をついていたが、


「ならば今一度、私自身が家のことを取り仕切っていくしかあるまいな……」

 と言った。


 メイレールは「えぇ」と頷きながらも、眼をすっと細めてこう言った。

「しかし、その権利があるのはビクセン様ご本人であって、貴様ではないぞ、ドーネット」


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