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76.真魔族

ジンクがベイゲンに手錠をかけると、

「ちっ、くそが……」

 ベイゲンは弱弱しく呻いた。


「なぁにが、くそが、よ!それが恩人に対する言葉なのかい?」

 ルミナが呆れたような声を出すと、ベイゲンはそっぽを向いた。


「くっ、離せ貴様らっ!私を縛るなど、神に対する冒涜だぞっ!」

 少し離れた所ではガドゥが騒いでいる。


「全く!冒涜しているのはそっちです!」

 ソフィヤは憤慨する。


「さっきの巨大化はなんだ?」

 とコールスが尋ねる。


「俺が知るかよ。石板を使おうとしたら、ああなっちまったんだ。俺ァ嵌められたんだよ!」


 一同は顔を見合わせる。

 確かにさきほどの様子から見て、ベイゲンが石板についてちゃんと把握していたとは思えない。


 コールスは転がっている石板に近づいた。

「コールス!」

 先ほどと同じように石板が暴走しないかと、心配したアナスタシアが声をかける。


「大丈夫だ」

 と拾い上げた。


 紅い光の蛇は消え去り、今は一筋の光も、そこには見えない。

――何が起こっていたんだ?


 呆然としていると、

「わ、私がお教えしましょうか?」

 知らない女性の声がした。


 コールスたちが振り返ると、ローブを纏った人影が立っていた。

 ローブの裾はボロボロで、元はどんな色だったか、色あせてわからない。


「どなた、ですか?」

 ソフィヤがたずねると、ローブの女性は名乗った。


「わ、私はスミーリャといいます」

「!」


 コールスたちが旅を始めた時から会いたかった人物がようやく目の前に現れていた。



 一方その頃。

 メイレールはヴィルネイス公爵家の屋敷にある地下牢の中にいた。

 大きな手枷と足かせには魔術を封じる効果があり、


 銀の鹿通りの襲撃に失敗し、その責任を取らされる形で彼女は囚われの身となっていたが、その表情に陰りはない。


「ナーシャたちは上手くやっているかな?」

 

 メイレールは、アナスタシアに説明した通り、ゴードセン側の動静を見極めるためにヴィルネイス家に潜入し、彼らに協力すると見せながら内情を探っていた。


 銀の鹿通りでの破壊工作も、勿論、本心でやりたかったわけではないが、ゴードセンたちの信頼を得るためにはやむを得なかった。


「街で騒ぎを起こせば、“王の器”たちをおびき出せるはず。そこを捕えるのだ!」

 というゴードセンの指示に従い、街へ出た。


 実際、アナスタシアたちはやってきたし、メイレールはアナスタシアの能力を封じることができた。


 ただ、もう一人“王の器”が目覚めたことは予想外だった。

 ルシーラ、という少女はアナスタシアと入れ替わるように覚醒し、メイレールの能力を封じてしまったのだ。


 そのことによりメイレールは敗走することになり、ゴードセンから責任を問われた結果こうして牢に入れられているのだが、彼女自身は少しも悲観していなかった。


「スキル無効化、か。なかなかすごい能力じゃないか!?」


 むしろ、いい“掘り出し物”を見つけた、とすら思っている。


「ナーシャと組めば、いいコンビになるだろうなぁ。それをあの少年が上手く使えるなら……」


 そうすれば、ベイゲンやガドゥなど問題なく倒せるだろう。

 いや、それどころか……


 そこまで考えた時、カツカツと靴音が聞こえてきて、メイレールは独り言を止めた。


 ヒールの音高くやってきたのは一人の女。

 女は鉄格子の前に立つと、濃いルージュを引いた唇をほころばせて笑った。

「フフ、ざまぁないわねぇ、メイレール」


 女に向き直ると、メイレールは静かに頭を下げた。

「これはドーゼット様。何か御用でしょうか?」


 ドーゼットは最近ゴードセンの妻になった女で、妖艶な美貌とプロポーションでたちまちゴードセンを虜にしてしまい、今や彼はこの女の言いなりと言っても良かった。


「フン、いまさらそんな他人行儀で話す必要もないでしょう?ここには私とアンタしかいないんだから」


 そういいながらドーゼットの見た目は変化していく。顔色は真っ白になり、頭部からは大きな角が2本突き出している。


 真魔族。

 元々は人間であったが、魔族の血を取り込んで長命と膨大な魔力を得た者たちの事である。


 ドーゼットもまたその一人で、今は正体を隠し、ゴードセンを操り、公爵家を乗っ取ろうとしている。

持ってきた鍵で牢の扉を開けると、舌なめずりをしながら、メイレールに近づいた。


「アンタには数百年来の借りがあるからね。ここでたっぷりと借りを返させてもらおうかねぇ」


 真魔族は、自分たちを人類の頂点に立つものと自負していて、何度も人類を支配しようと暗躍して来た。

 その度に人々は立ち上がり、アルクマールやメイレールはそれに協力して真魔族を撃退してきた。


 彼らにとって、メイレールたちはこの上なく邪魔な存在、というわけである。

 とりわけ、


「そうね。手足を拘束され、武器も魔術も使えない今の私なら、貴方でも勝てるかもね?」


 メイレールの挑発に、

「きっさまぁあああ!!」


 ドーゼットは吊り目をさらに怒らせて、相手の鳩尾に蹴りを叩き込む。


「ぐっ!」

「だったらやってやるよぉ!貴様の手足をぶっちぎって、目ん玉ほじくり出して、城の尖塔にくくりつけてやるわ!そうすりゃ、こそこそ逃げ回ってるアルクマールもおびき寄せられるだろうからねぇぇ!!」


 ドーゼットは女エルフの長い髪を掴んで、何度も床に頭を叩きつける。

 メイレールの額から血が滴りはじめるころ、


 ドタドタと地下へと駆け降りる音が聞こえ、慌ててドーゼットは人間の姿に戻った。


「な、なんですか騒々しい!」

 降りてきた兵士を咎めると、


「も、申し訳ありません!しかし重大なご報告がございまして」

 兵士は汗をかいて畏まりながら続けた。


「ベイゲン及びガドゥが敵方に拘束された、とのことです!」

「な、何ぃ!」

 目を血走らせるドーゼットの手の下で、メイレールはフッと笑った。


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