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74.二つの石板

ログジュを追ってコールスたちは路地に飛び出した。

 見ると、街路の彼方を、馬に乗った大男が逃げていく。

「野郎!」

 

 駆け出そうとするジンクに、

「僕が先行します!」


 そう言ったコールスにアナスタシアたちが追いついてきた。

「ナーシャ、行こう!」

「うん!」


 コールスは狼形態にあると、アナスタシアを背中に乗せて街路を走り始めた。

 見る間に距離を詰めると、ログジュが小脇にルシーラを抱えているのが見えてきた。

 少女は気を失ってぐったりしている。


 コールスは大きくジャンプして、相手の頭上を越えると、馬の前に立ちはだかった。


「くっ!」

 ログジュは慌てて手綱を引いて引き返そうとする。

 だが、瞬時に獣人形態に変身したコールスは、アナスタシアに持たせていた弓を受け取ると、素早く矢を放った。


「ひっ!」

 矢が頬を掠めて、ログジュは喉を引きつらせた。


「動くなっ!」

 コールスは再び弓を構えて、男に狙いを定める。

 ログジュは苦虫をかみつぶしたような顔で馬を止めた。


「ルシーラを渡せ」

 コールスは低く告げる。


 そこにジンクやソフィヤたちも馬に乗って追いついてきたのが見えた。


 突然、コールスはぞくりと殺気を感じて、その場からアナスタシアを連れて飛びのいた。

 次の瞬間、地面に魔法陣が広がって中心から火柱が立ち昇った。


「チッ、外したか」

 その声の方を見ると、ベイゲンが杖を構えていた

 奴の傍には、ガドゥもいる。

「フン、また性懲りもなくやってきたね!」

とルミナが言うと、


「それはこちらのセリフだ。銀の鹿通りに続いてここでも騒ぎを起こそうとするなど、言語道断!」


「はぁっ!?あれはお前たちがやったことだろうが!」

 とジンクが反発する。


「何を言っている?我々はメイレールと名乗る女エルフと貴様らとの争いに介入し、奴を捕えたのだ」


「なっ!!」

 コールスたちはあきれてものが言えなかった。


 どうやらメイレールは裏切られたらしい。

 銀の鹿通り襲撃が失敗したことで、その首謀者に仕立てられ、罪を被せられようとしている。


 ベイゲンたちはそれを鎮圧して街を守った側だ、と市民たちに印象づけるつもりのようだ。


――よくもまぁ、ぬけぬけとそんなことができるな!

 その卑劣さにコールスは拳を震わせる。


「卑怯者っ、恥を知りなさい!」

 珍しくソフィヤも声を荒げる。


「フン、意味が分からんな。まぁいい、ここで貴様らも捕縛してやる、覚悟しろ!」


「はっ、お前らみたいな雑魚に何ができるってんだい!」

 ルミナが鼻で笑うが、ベイゲンは


「だったらこれを見やがれ!」

とローブの下から何かを取り出して掲げた。

 

 奴の右手にあるのは、さきほどの戦いでメイレールが使っていた石板だ。


「この石板を使えば、そこの人形は動けなくなる!そうなれば貴様もスキルを使えない!そして!」


 今度はガドゥが手をサッと上げると、通りに面した家々の陰から、何十人もの騎士が剣や槍を持って飛び出してきてコールスたちを取り囲んだ。


「どうだ!これで身動きとれまい!」

 ガドゥは勝ち誇ったような表情を浮かべている。


 だがコールスは怯まなかった。

「石板がどうしたって言うんだ?」


「何?」

 ベイゲン達が気色ばむと、

「そんなのこっちにもあるもん!」

 アナスタシアはかばんから石板を取り出して見せた。


「は!?……あぁっ!!」

 ベイゲンとガドゥは間抜けな声を出したあと、徐々に目を見開き口をあんぐりと開けて叫び声をあげた。


「な、なんでてめぇらがそれをっ!」

 指をさすベイゲンの声は震えている。


「なんでって言われてもね。とにかくこれがあれば、その石板でナーシャを操ろうとしても、こっちの石板を発動させれば、打ち消せるってわけ」


 アナスタシアから石板を受け取り、その表面に触れると、ぼうっと緑色に光り始める。

「石板に頼れない以上、あとはそれぞれの実力での勝負だ!」


「ぐっ……!」

 ベイゲンとガドゥは一瞬顔を見合わせる。

二人とも(こんなことになるなんて、聞いてないぞ!)とでも言いたげな顔だ。


 だが、そこからは速かった。

 ガドゥが左手を素早く下ろすと、騎士団が一気に駆け寄ってきた。


「ぐっ!」

 ジンクたちは急いで剣を構える。


「ナーシャ!」

「うん!」

 

 コールスはアナスタシアから「速射」「命中率」のスキルをもらうと、スキルはレベル99へと変化する。


 そして、地面を蹴って高く空へと舞い上がると、宙返りして弓を構える。

 スキルを発動させると、コールスの視界に映る数十人の騎士たち一人一人すべてに、赤いマーカーが付いた。


――いくぞ!

 

「はぁああっ!!」

 コールスは弓を素早く引きまくり、地面へ向かって矢を雨のように降らせる


「うわっ!」

「ぐぁ!」


 騎士たちはジンクたちに襲い掛かる前に手足に矢を受け、全員が地面に転がった。


 しかし、その隙にベイゲンとガドゥは一目散に逃げようとしている。


「コールス!」

「あぁ!」


 軽やかに着地したコールスは、逃げる男どもへと2本の矢を放った。


「ひぃ!」

「くそぉ!」


 ガドゥもベイゲンも、ローブを貫いた矢によって地面にくぎ付けにさせられる。


「さぁ、お前たちこそ観念しろ!」

 コールスの声に、ベイゲンはギリっと歯噛みすると、


「ふざっけんなぁあ!!」

 抱えた石板に手を当てる。


 だが石板から溢れた赤い光は蛇のような形になって、ベイゲンの身体へと絡みついた。

「なんだこれは……ぐあぁっ!!」


 赤い蛇は男を縛り上げると、首元に噛みついた。

「ぐ、があああああぁ!!」


 地面に転がりもだえ苦しむベイゲン。

 すると、その体は見る間に膨れ上がり巨人へと変貌していった!


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