7.代償効果
ふいに足音がしてコールスは振り返った。
アナスタシアがこちらに駆けてくるのが見えた。
慌てて少女に駆け寄る。
勢いあまって抱きかかえるようになってしまう。
「大丈夫でした!?」
と息せき切ってアナスタシアは聞いてきた。その勢いにコールスの方がおされそうになる。
「え、えぇ、もちろん!……あなたのおかげで助かりました!」
コールスの答えに、少女は心底ほっとしたような表情をした。
「よかったぁ~!……ごめんなさい、私の大声のせいであなたを危険な目に遭わせてしまってたから……」
「いや、まぁ無理もないですよ。確かに、いきなりレベル99って出たら誰でもびっくりします」
そう言いながら、コールスは自分のステータス画面を開いた。
「こうなったのには訳があって。ついさっき、トラップに引っかかってスキルが1回しか使えないようになったんです。それが原因なんじゃないかなって……」
すると、アナスタシアは途端に目を輝かせた!
「あぁ!それなら分かります!それは“代償効果”ってやつです!」
「代償効果?」
コールスは首を傾げた。初めて聞く言葉だ。
「はい。何らかの理由でスキルや魔術に不具合が起こったとき、それを埋め合わせるようにスキルや魔術が変化するんです」
「埋め合わせる、ですか?」
「本来、制限なく使えるスキルが1回しか使えないとなったら、それは“マイナス”ってことですよね。だから、その代わりに”プラス“になる効果がスキルに加わるんです」
「……それが、僕の場合はスキルレベルの上昇、ということですか?」
アナスタシアは頷いた。
「その通りです!あ~、なんだか仲間を見つけたみたいで嬉しい!」
「仲間?」
「はい。実は私も呪いのせいで、“自分では自分のスキルを使えない”んです」
「え、あれだけスキルを持っているのに?」
コールスが驚くと、アナスタシアは眉を下げて苦笑した。
「そう、ものすごい”マイナス“でしょう?でも、だからこそ、ものすごい”プラス“を得られたんです」
「なるほど。それが、スキルの転写と無限複製……でも、どうしてこんなことを知ってるんですか?」
アナスタシアは小さく首を振った。
「知ってるってほどではないんですけどね。私もアルクが大雑把に話していたことしか知りませんから」
「アルク?」
「あぁ、ごめんなさい、アルクマール=ムルガルのことです」
「アルクマール?」
コールスは心底驚いた。
なぜなら、魔術師アルクマール=ムルガルは500年前の人物だから。
そんな歴史上の人物と知り合いだなんて!
(この子は一体、何者なんだ?)
そう思ったとき、
ブオオオオオオオオ!!!
再び、凶暴な声が聞こえてきた。
「またか……」
血の匂いは、新たなモンスターを呼ぶ。全く、際限がない。
(とりあえず、話はあとにしよう)
「アナスタシアさん、また力を貸してもらえませんか?」
コールスがそういうと、アナスタシアは琥珀色の瞳を細めて頷いた。
「もちろん!あ、あと、言いにくいと思うから、私のことはナーシャって呼んでくれたら……それと、もっとフランクに話してくれたらうれしいかなって」
「あ、わかりまし、じゃなくて、わかったよ、ナーシャ!」