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68.襲い来る巨人

「なんなんだ、こいつは!?」


 アイレーネファミリーの一同は突然現れた怪物に驚いていた。


 飲めば筋力や魔力が上がる強化薬というのはよく知られているが、こんな風に巨大化する薬は聞いたことがない。


「かなり大量の魔力を取り込みましたね」


 とソフィヤが解説する。

「人の身体にはそれぞれ魔力の許容量があります。魔術師や私のような法術師ならば、普通の人の数十倍~数百倍の許容量がありますけど……」


 コールスは首を振った。


「けど、さっきの薬の薬の魔力量はそんなものじゃなかった!例えあの男が魔術師だったとしても耐えられるものじゃない!」


 だから今は魔力が暴走している状態。


 許容量を超えた魔力は、まるで風船を膨らませる空気のように男を巨大化させたのだろう。


「ヌ、オオオオオ……!」


 巨人はくぐもっと呻きをもらし、頭を抱える。


 緩んでいた表情は一変し、だらしなく涎が垂れていた口元も、今は食いしばっている。


 やがて巨人の足元に魔法陣が現れた。


「!」


 驚く間もなく、巨人の周囲にいくつもの火球が現れて、ジンクたちに襲い掛かった。


「うわぁ!」

「ぐわぁ!」


 ジンクの部下のうち、2,3人が炎に巻かれて、周囲が慌てて消火する。


「くそっ、こいつ魔術も使えるのかよ!」


 と舌打ちをした部下の横をジンクは走り抜ける。そして、


「ハッ!」


 気迫とともに曲刀を振り抜くと、巨人の足から鮮血が噴出した。


「グァアア!」


 巨人は膝を折りながらも、大岩のような拳を振り下ろしてジンクを叩き潰そうとする。


 ジンクはその拳をひらりと躱すと巨人の腕に飛び乗り、駆け上げる。

 そして巨人の肩まで登ると、相手の頭めがけて横薙ぎのスイングを繰り出した。


 ギィンと金属音が鳴り、衝撃を喰らった巨人は仰向けに倒れた。


「すげぇ!」

「さすがっす、ジンクさん!」


 部下たちは口々に賞賛したが、本人は「クソッ」と小さく呟いた。

「思ったより皮膚が硬ぇ」


 どうやら首を落とせなかったことを悔いているらしいが、


「なかなかやるじゃん」

 とルミナは笑みを漏らした。


 コールスもそれには同意だった。

 度胸も剣捌きも目を見張るものがある。

 特にスキルを持たずにこれだけの力を出せるとしたら大したものだと思う。


 だがその時、戦いを遠巻きに見ていた他の襲撃者たちが、ふらふらとこちらに向かって歩き始めた。


 奴らもまた、懐から小瓶を取り出すとその中身を飲み干した。

 そして先ほどの男と同じように巨大化した。


「ひぃ!」


 とジンクの部下たちが小さく悲鳴を上げると、ジンクは後ろを振り返り、


「ビビってんじゃねぇぞ、お前ら!デカくなりゃそれだけ小回りも効かねぇし、動きも鈍くなるんだ!

 足元を走り回って攪乱しろ!隙を見てバランスを崩せ!そうすりゃ勝機はある!」


「は、はい!」

 部下たちはジンクの言葉に従って走り始めた。


 しかしそれをあざ笑うかのように、巨人の一人はぐっと膝を曲げ、次の瞬間宙へと飛び上がった。


「!」


ズンという地響きを残して、巨体は空中に舞う。


「くっ!」


 青ざめる一同に、


「散れ!」


 とジンクが声をかける。


 その直後、降り立った巨人の衝撃によって地面は激しく揺れ、石畳が大きく割れた。


「きゃあ!!」


 体の軽いルシーラが宙へと投げ出される。


「危ないっ!」


 もはや悠長に見守っているわけにはいかなかった。


 コールスはステルススキルを解除して駆け寄り、地面に落ちる前に少女の襟元を咥えて着地した。


 急にその場に現れたコールスたちに、ルシーラもジンクも目を円くした。


「どうして!待っていてくださいとお願いしたのにー―」


 そう咎めるジンクの背後に巨大な影が迫る。


 コールスはすぐさま獣人形態に変身すると、ジンクの頭上へと飛び上がる。


「はぁっ!」


 襲い掛かろうとしていた巨人の脇腹めがけて思い切り足を振り抜くと、巨人は通り向こうまで一気に吹き飛んだ。


「……!」


 息を呑むジンクたちに、


「話は後です!今は敵に集中しましょう!」


 と言って周囲を見渡した。


 探索スキルによって、かすかだが気配が感じられた。


 コールスは確信した。


――ここにいる敵は巨人だけじゃない!ベイゲン達が、例の魔術師たちも潜んでいる!


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