64.アフターケア
「なるほど、そんな大変なことがあったんですね!」
とターセンは頷いた。
ここは、アイレーネファミリーのアジト。
朝食の席で、コールスはソフィヤ、ルミナ、ターセンに昨晩のことを説明していた。
昨晩、コールスはアナスタシアを無事に連れ帰ることができた。
パワールの城門は閉まっていたので、中に入るのには少し時間がかかったが、門番の交代の隙をついて滑り込むことができた。
アジトに帰りつき、アナスタシアをベッドに入れるとコールスは自分の部屋に戻ろうとしたが、
「お願い、ここにいて……」
とアナスタシアに涙目で言われたので、彼女の傍にいてあげることにした。
かつての仲間、メイレールが敵に回ったことで、ショックをアナスタシアは受けている。
そんな状態で眠れるわけもない少女に、コールスは寄り添おうと考えたのだ。
とはいえ、朝目覚めると、ベッドの上にいたはずのアナスタシアが床に降りてきていて、抱きしめられていたときはさすがのコールスも驚いたが……
「いや、アタシたちもびっくりしたけどね。朝目覚めたら、別部屋にいたはずのアンタがここにいて、ナーシャが抱き着いてたんだからね」
ルミナはそう言って頭を掻きながら、頬を染めている。
その隣では、ソフィヤもまた杖を握りしめて顔を真っ赤にしている。
「ほ、本当に何事かと思いました!私、お二人が、そ、その、て、てっきり……!」
そう言ってソフィヤは何を想像したのか、頭からシュウっと煙を出して耳を赤くした。
「いや、ホントにやましいことはしてないんだ!さっきも説明したように敵状を探るのに必死だったんだから」
とコールスは手を振った。
不審な行動をするガドゥをこっそり追いかけて、教会が管理する聖領に足を踏み入れたこと。
その聖領で大量の魔草が育てられていたこと。
コールスたちと戦った黒衣の魔術師、ベイゲンがその場にいて、ガドゥと手を組んでいるらしいこと。
そして、アナスタシアのかつての仲間、メイレールもまた、ガドゥたちと一緒にいたこと……
一体、昨晩何があったのかと、思いつめた顔で問い詰めてくる2人にコールスは説明するのに苦労したが、理解はしてもらえたようだった。
その間、アナスタシアはコールスの隣で黙っていて、時折コールスの説明に同意するように頷いたりはするものの、終始浮かない顔で俯いていた。
「それにしても、メイレールか。ナーシャの昔馴染みが関わっているとはね……」
とルミナが腕を組む。
その言葉に、アナスタシアがビクッと肩を震わせる。
――このままにしておいてはいけない。
そう思ったコールスは
「そのことなんだけど……」
と口を開いた。
注目する皆を前にコールスは
「メイレールは僕らの”敵”になっているわけではないと思うんだ」
と言った。