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63.見逃し

かつての仲間、メイレールが“敵”として登場したことに、アナスタシアはショックを受けている。


 口を両手で押さえ、大きな瞳は潤み始めている。



――マズいな


 とコールスは思った。今はとにかく、この場を離れたほうが良い。



すると、メイレールはハッと何かに気づいたような顔をして、


「誰かいるのか?」


と言った。



「!!」


 今度はコールスも血の気が引いた。


――不可視化スキルを見破られたのか?



 息を殺していると、壁向こうのメイレールが扉のほうに歩いてくるのが見えた。建物の外に誰がいるのか、探ろうとしているのだろう。



コールスはアナスタシアに「しっかりつかまってて!」と言ってすぐに方向転換すると、元来た道を駆け戻った。



 その際には、畑の中から魔草を口で加えて一本引き抜くのを忘れなかった。


“証拠の品”として持ち帰り、調べるためだ。



 足音を消しながらコールスは走ったが、途中で尻尾がピリッとするのを感じた。



――見られてる!


 とコールスは背筋が凍ったが、構わずに走り続けた。



 メイレールがコールスたちの存在に気づいたことは確実だった。

 


 教会でのときと同じように矢を射かけられるのではないかと生きた心地がしなかったが、

不思議なことに特に攻撃はされなかった。



 そのことを不審に思いながらも、とにかくアナスタシアを乗せてコールスは夜道を走りに走った。



 山道を抜けて“聖領”を脱出する。


 パワールの街の光が見えると、コールスはようやく息をついた。



「ナーシャ、大丈夫?」


 と背中の少女に声をかける。



「……う、うん」


 その声に元気はないが、ともかく彼女を温かな寝床へと戻すために、コールスは街道を急いだ。



*    *      *


 

「どうした、メイレール、敵か?」


 扉を開けて外の様子を伺っている弓術師に、ベイゲンが声を掛ける。



 メイレールは遠くの方に視線を投げていたが、やがて扉を閉めると


「いや、気のせいだったようだ」


 と言った。



「本当ですか?」


 僧侶のガドゥがこわばった声を出す。



「あぁ、いたとしても狐か何かだろう」


 とメイレールが答えると、男二人は小さく息をついた。



 気配を察知することについては、メイレールのほうが彼らより優れている。その彼女が言うなら間違いないだろう、と判断したのだ。



「……にしても、獣人のガキを追いかけるのを止めろってのはなぜだ?」


 不満げな視線を投げるベイゲン。



「誰だって止めるさ。頭に血が上ったままで勝てる相手ではないからな」


 そう言ってメイレールが微笑む。



「今度こそ遅れはとらねぇよ!こっちだって対策は打ってるんだ!」


 ベイゲンは拳を握る。



「そうだな。だが、向こうだって以前のままではないだろう。さらなる強さを手に入れているかもしれない」


 メイレールの言葉に、



「“王の器”の力をさらに開放させる、ということか?」


 ベイゲンは、獣人のそばにいた少女のことを思い起こした。



 “魔空間干渉”というレアスキルを獣人に与え、ベイゲンの仲間の魔術師、ミルティースを瞬く間に撃破した、あの少女。



 彼女こそは、かつて“王の器”と呼ばれたモノであり、他にも多くの、そして未知のレアスキルを有していると推測される。



「それだけではありませんよ。奴らは、ビクセンの隠し子を連れています。恐らく、今後の後継者争いでその子どもを擁立しようとするでしょう」


 とガドゥが口を挟んだ。



 その言葉にベイゲンは目を見開いた。


「何、ゴードセンとやり合おうってのか!」



「あぁ。まだ背後にどんな奴らがいるかは分からない。

 今は相手の状況を探る時だ。

 そのうえで、確実にヤツと1対1になれる状況を作れるように考えてもいいんじゃないか?」



 メイレールの言葉に、ベイゲンは少し沈黙していたが、やがて「フン」と鼻を鳴らすと、元の席に腰を下ろした。



 メイレールはその様子を満足げに見つめると、


「私も、もう少し休ませてもらうよ」

 

 と言いながら元いた部屋へと戻った。



*     *        *



 扉を閉めると、女弓術師は目を閉じた。


 思い起こすのは先ほどの光景だ。



 建物の扉を開けて外を伺ったとき、彼女は懐かしい姿を見つけていた。


 大きな狼の背に乗り、長い銀髪を揺らしていた少女。



「……ナーシャか、久しいな」


 メイレールはそう言って息をつくと、微笑んだ。


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