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62.思わぬ相手

 思わぬ敵の出現に、二人は息を呑んだ。



「ど、どうする?」


 アナスタシアの問いに、



「少し、様子を見よう」


 とコールスは答えて、慎重に近づいた。不可視化スキルで見えなくしているとはいえ、相手も高レベルの魔術師である以上、気づかれる可能性があるからだ。



 黒衣の魔術師はガドゥを招き入れると、すぐに扉を閉めた。



 耳をそばだて、透視スキルで建物中を覗き見る。



「どうですか、ベイゲン殿。ケガの具合は?」


 とガドゥが問うと、



「おかげさまで。治ってきているよ。ここには魔力が満ちているからな、草の香が傷によくなじむ。

 まぁ、この魔草を持ち込んだのは俺たちだからな。当然と言えばそうだが」


 ベイゲンと呼ばれた魔術師の男はそう答えながら、自分の右の懐を手で撫でた。



「そうですか、それは良かった」


 ガドゥは鷹揚に頷く。



「ところで、今夜は何の用だ?魔草の乾燥作業なら進んでいるから、何箱か出荷できると思うが」


 ベイゲンがそういうと、僧侶は首を振った。



「いえ、今日はあなたにお聞きしたいことがありまして。今、パワールのほうにちょっと厄介な連中が来ていましてね」



「厄介?」



「はい。ソフィヤってひよっこ修道女の一行なんですがね。子どもばかり4~5人の連中で大きな狼を連れているんですが――」


 ガドゥがそこまで言ったところで、魔術師はギロっと目を剥いた。



「……奴だ!コールスとかいう、あンのガキィ!!」


 歯をむき出しにして怒りを露にすると、ベイゲンは立ち上がってガドゥの胸倉を掴んだ。



「奴はどこにいる!」


 ガドゥはベイゲンの怒気に動ずる様子もなく、



「いやぁ、手を尽くして探してはいるのですが。何せ、現れたかと思えば煙のように消えてしまいますので。おかげで、大事な品が奪われてこちらも大変なのです」


 と答える。



「奴はレベル99のスキルが使える。それを駆使してコソコソと隠れ回っているんだ、あの野郎!!」


 ベイゲンはそう言って歯ぎしりすると、ガドゥから手を離してドアの方へと大股で歩く。



「どちらへ?」


「決まっているっ!あの獣人のガキを探し出して息の根を止めてやるっ!!」



 鼻息荒く答える魔術師に、ガドゥは声を掛ける。


「探していただけるのはありがたいのですが、お身体は大丈夫なのですか?」



「うるせぇ!てめぇごときに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇ!」


 と、唸るように声を出すベイゲンの後ろで、ガドゥはニヤニヤとにやけている。



――コイツ、心配するような声を掛けておきながら、ベイゲンがボクを倒すために飛び出していくことを期待しているのか?



 眉を顰めるコールスの上で、アナスタシアが


「どうしよう?」


 と声を掛けてくる。


 

 ベイゲン一人が相手なら、今ここで叩くこともできなくはないが、法術(治癒術)がつかえるガドゥが傍にいるのは厄介だ。



 それにここは“聖領”。


 現状では、許可なくこの場所に入っているコールスたちのほうが悪者だ。



「まずは、ベイゲンの後をついていって、聖領を出よう。それから獣人形態になってヤツと戦う。それでいこう!」


「うん!」



 アナスタシアが頷いたとき、



「やめておきなよ」



 と建物の奥から声がした。



「!」


 ベイゲンとガドゥがそちらを振り返ると、扉を開けて一人の人影が入ってきた。



 ほっそりとした身体の女で、長髪から長い耳が覗いているところからして、妖精族だろうか。


 左手には大きな弓を携え、腰から下げた矢筒には太い矢が何本も入っている。



 それを見てコールスは息を呑んだ。


――あれは、教会でベイゲンと戦っていた時に飛んできた矢だ!



 コールスの探知領域外から矢を飛ばして、ベイゲンの逃走を手助けしたのはこの女だったのか。


――だとしたら厄介だ。



 今も、声が聞こえるまで、コールスはその存在に気づけなかった。


 強敵の出現に冷や汗を流していると、



「あ……!」


 背中に乗ったアナスタシアが小さく呻いた。


 どうしたの?と声をかけようとして、コールスは彼女が真っ青な顔をしているのに気づいた。



「そんな……メイレール?」


「え?」


 信じられない、というように小さく首を振り、アナスタシアは声を震わせた。



「……メイレールはアルクマールの、私たちの仲間だった人なの!」


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