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56.後継者争い

 コールスたちが聞き入る中、ガドゥはしきりに水晶玉に頭を下げている。



「はい、わかっております。この件はこちらできちんと対処させていただきます。ゴードセン様には決してご迷惑にならぬよう、隠し子などなかったことにいたしますので、はい……」



 そして、二,三回短いやり取りをしたあと、話が終わったのか水晶玉に布を被せた。



「ゴードセン様?」


 とアナスタシアは首を傾げるが、そのほかの者たちは青ざめた。



「まさか、ゴードセン・ヴィルネイス様?」


 ソフィヤは声を震わせた。



「ヴィルネイス?じゃあターセンのご家族ってこと?」


「あぁ、ターセンのお父さんであるビクセン様の弟、つまりターセンからみて叔父さんになるね」


 アナスタシアの疑問にコールスが答える。



「現在、ビクセン様にはお子様がおられないから、家を継ぐ順番としてにゴードセン様が来られる。

 

 でも、もしターセンの存在、つまりビクセン様に実は男の子がいることが明らかになったら――」



「そっか、ターセンがビクセン様の後を継ぐことになって、ゴードセン様は後継者から外れちゃう。それを、ゴードセン様は恐れているということなんだね」


 とアナスタシアは頷いた。



「危なかったね、今のガドゥの言い方だと、ターセンは殺されていてもおかしくなかったよ」


 とルミナは呟く。



「そんな!ゴードセン様は聡明な方で、ビクセン様の信頼も厚いと聞いていましたのに、そんな残酷なことに加担されるなんて!」


 ソフィヤは信じられないという風に首を振る。



「聡明なればこそ、そうして兄思いの弟という役を演じることもできるってことだろうね」


 コールスがそう言ったとき、廊下をバタバタと騎士たちが駆けてきて、ガドゥがいる部屋の扉をノックした。



「大変です、ガドゥ様!捕えていた例の子どもがいなくなりました!」


 そう言って扉を開けた騎士に続いて、こっそりとコールスたちも部屋の中に入った。



 ガドゥは騎士の言葉を聞くと、途端にギョロリと目を剥いた。


「いなくなったですと!どういうことですか!」


「分かりません、何者かがカギを開けたようで」



 騎士の言葉にガドゥは「くそっ!」と机を叩いた。

 そして、何度か深呼吸をして息を整えながら


「……とにかく建物の中をくまなく探して!それと騎士団長のところに案内してください!今後について話をしなければなりません」



 そう騎士に指示を出しながら、ガドゥはターセンの手紙を急いで手に取ると、手近にあった小さな金庫に入れてダイヤルを回した。


 そして騎士に続いて部屋を出ると鍵をかけて出ていった。



 足音が聞こえなくなると、コールスは素早く金庫に近づき、さっき見ていた通りにダイヤルを回して金庫を開けた。


 金庫から手紙を取り出すと、ターセンに渡した。



「あ、ありがとうございます!」


 ターセンは受け取ると、ほっとしたように息をついた。



「さぁとっととここから出よう!」


 とルミナが呼びかける。



「うん、でもおそらく詰め所の入口は全部封鎖されているはずだから、あの窓から出よう」


 コールスの指示で、全員が部屋の窓から脱出した。



 *       *         *



 騎士詰め所から遠く離れた路地裏まで行ったところで、”不可視化“スキルを解除すると、一行はふぅっと息をついた。



「それで、これからどうしましょう?」


 ソフィヤは困った顔をしながら、表の通りをちらっと見た。



 表通りには、既に騎士団によるターセン捜索の網が張られつつあった。



 罪状は明らかになっていないが、“ターセンは重犯罪者である”ということになっている。



「そうだねぇ、アタシたちもお尋ね者になっちゃったみたいだし」


 ルミナは腕を組んだ。



 重犯罪者ターセンを逃がしたのはソフィヤ・トリステーゼ一行である、という情報は騎士たちによって町中の知ることになり、ソフィヤたちを捕まえたり目撃したものには褒賞が与えられる、という話だった。


 後数刻もすれば、コールスたちの人相書きも出回るだろう。



「本当にごめんなさい、俺のせいで――いてっ!」


 謝罪しかけたターセンの額をアナスタシアがデコピンで弾く。


「もう!そういうのは言いっこなしだよ!」


「そうそう。大事なのはこれからどうするか、だからね」

 

 とコールスは頷いた。



「“不可視化”スキルを使えば、ずっと姿を隠しておくことはできる。でも、それじゃ事態を打開することはできない。


 一番良いのは、ビクセン様にお会いしてターセンを保護してもらうことだけど」



「それは難しいでしょう。今、ビクセン様はお身体が弱くて、補佐としていつもゴードセン様が傍におられますから」


 とソフィヤが首を振る。



 このまま敵の本陣に突っ込むようなバカな真似はできない。



「となれば、なんとかゴードセンたちの企みを暴かないといけないってわけか。でも、どうやって?」


 首を傾げるルミナ。



「まずは情報を集めることが必要だね。一体、この件に関わっているのは誰なのか、何が起きているのか、謀略の全体像を掴まないと」


「情報か……伝手はあるのかい?」


 ルミナの疑問に、コールスは


「……一つだけ。ちょっと賭けに近いけれど」


 と言った。



*       *        *



 そして数十分後。



 薄暗い部屋の中で、アナスタシアと狼姿のコールスは、一人の男と対面していた。



「やぁ、またお会いできてうれしいですよ、アナスタシアさん」


 そう言って、パワールの裏を取り仕切るアイレーネの配下、ジンク・オリスティはニッと笑った。 



少し遅くなりました。

ヴィルネイス家について、名前を「~セン」で統一したために少しわかりにくいかもしれません。すみません……


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