54.捕縛
「どういうことなの?」
とアナスタシアがたずねると、ルミナは鼻を鳴らした。
「フン、あのケチ坊主め、アタシたちの話をきくなり『それって本当の話なんですかねぇ?』って言いやがったのさ!」
ターセンも、
「俺と相手の商人がグルになって、教会から金をだまし取ろうとしているんじゃないか、って思われたみたいです」
と言って肩を落としている。
どうやら、応対した教会の担当者は、
『“損害を与えた”ターセンと“被害者”の商人であるマウチが口裏を合わせていて、実際には被害がないのにも関わらず教会に弁償金を支払わせ、後でターセンとマウチでその金を山分けしようとしているのでは』
と疑っているらしい。
「実際、昔にそうやってだまし取られたことがあって、それ以来教会もお金を渡すことに慎重になってるみたいなんです……ごめんなさい、ターセン。私の力不足であなたのお役に立てなくて……」
ソフィヤが暗い顔でそう言うと、
「そんな!ソフィヤ様が謝らないでください。俺が身寄りのない孤児だからいけないんです。身元がはっきりしない人間を信用できないのは当たり前のことだと思いますから」
とターセンは庇った。
「あれ?でも、それならあの手紙を見せれば良かったんじゃない?ターセンが公爵家の隠し子だっていう証明になるでしょ?」
アナスタシアは首を傾げた。
公爵嫡子の署名が入った手紙があれば、何よりの身分証明になるはずだ。
「えぇ、私もそう思って、手紙をターセンから預かって担当者の方にお渡ししたんです。そうしたら、向こうは急に顔色を変えられて、
『こんなニセモノの手紙まで作って公爵さまの隠し子などと騙るとは!ますます信用できませんっ!』
と言われまして、手紙は没収されてしまったんです……本当にごめんなさい!大事な物だったのに」
ソフィヤは今にも泣きだしそうな顔をしている。
――まさか、こんな事態になっているとは!
とコールスは愕然とした。
――でも、ターセンとマウチが共謀しているという疑いについては、実際にマウチがここに来てくれれば即座に否定できる話だ。
とも思った。
マウチは、ターセンと裏でつながってなどいないときっぱり否定してくれるだろう。
“教会だって、ちゃんと身元がわかっている人間の言うことは信用してくれるはずだ”
とコールスが念話でアナスタシアに伝えると、
“そうだよね”
アナスタシアは同意し、
「とりあえず、マウチさんを待ってみようよ。あの人が来てくれたら話も通りやすいはずだから」
と提案した。
「まぁそうするしかないね。マウチは『まだ教会と話がついてないのか!』って怒りそうだけど」
ルミナはため息をついた。
しかし、それから時間が経って約束の昼過ぎになっても、マウチは教会前の広場に来なかった。
「どうしたんだろうね?」
一同が不安に思っていると、後ろの教会からぞろぞろと人がやってきた。
一人の僧侶の周りを、複数の騎士が護衛している。
その僧侶はコールスたちを指さして、
「あ、あの者たちです」
と言った。騎士たちは足音高くこちらに駆けよってくると、
「貴様がターセンというものか?」
とたずねた。
「あ、はい。俺ですけど?」
ターセンが答えると、騎士は槍を突き付けた。
「公爵家の者と身分を偽り、人心を惑わそうとした罪で貴様を捕える!」
今回は少し短めです。
続きは、20日に投稿します。