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53.スミーリャの足跡


「ん?もしや、スミーリャさんとお知り合いだったりします?」



 アナスタシアの反応を見たジンクは身を乗り出してきた。



「え?いえ、知り合いというわけでは……」



 アナスタシアは目を逸らすが、もう遅い。



 取り入るスキができた、という顔をしてジンクは近づいてくる。



「いやぁ、それならどうぞ一緒に来てください!きっといい話が聞けると思いますよ!」



 ジンクが馴れ馴れしく少女の肩を押そうとするので、コールスは「ガウ!」と吠えて二人の間に身体をねじ込んだ。



――彼女に指一本、触れさせるものか!


 と牙をむいて威嚇する。



「っとと!怖いねぇ~」


 コールスの様子に一瞬怯んだ顔をしたものの、男はすぐに笑顔を取り戻した。

 


「まぁそう警戒しないでください。それに、このまま何のお詫びもしないままお返ししたのでは、俺が怒られちまいます!」


 

 そう言ってジンクは哀れっぽい顔で懇願してくる。



『どうしようか?もし今この街でスミーリャと会えるとしたら――』


 とアナスタシアがコールスに念話で話しかけてきた。



 コールスは少し考えたあと、



『いや、今はもうスミーリャはいないだろう。慌ててこの男について行くことはないよ』



 と答えた。



 スミーリャがアイレーネという人物のもとを訪れたこと自体は間違いないだろう。


 

 だがそれはかなり前のことだろうと思われた。

 


 このジンクという男がすぐにはスミーリャのことを思い出さなかったからだ。



 かなりの変わり者であるはずの彼女のことを鮮明には憶えていないということは、長い時間の経過を示す証拠だ。



『今はソフィヤたちを待たせているし、後から行くと言って引き取ってもらったほうが良いだろう』


 コールスの言葉に、アナスタシアは『うん』と返して、ジンクのほうに向き直った。



「すみません、今は教会のほうに人を待たせていまして。時間があるときにお伺いできればと思いますが……」


 と答えると、ジンクはアナスタシアを見つめて何か考えているようだった。

 

 

 そのとき、通りの向こうから一人の男が駆け寄ってきた。



「ジンクさん!例の食い逃げ野郎が――」



 部下らしい男の言葉に、ジンクは「わかった」と答えると、アナスタシアへにこやかに微笑んだ。



「わかりました、ではまたお会いしましょう。

 

 御用の時は、そこの店に行ってジンクの紹介だと言えば、俺が迎えにまいりますので」



 通りに面した一つの店を指さしてそう言った後、頭を下げると、部下とルシーラを連れてどこかへと駆け去っていった。



 アナスタシアとコールスは小さく息をつくと、手元の石板を眺めた。



 石板から出る光は徐々に弱くなりつつあった。



『ねぇ、コールス。この光って、もしかしてあのルシーラって子と関係があるのかな?』



 アナスタシアの声に、コールスは頷いた。



『たぶん。もしかして、最初に石板が光ったのは、ルシーラが近づいてきたからかもしれない……』


 

 別段、ジンクの顔を立てるつもりもないけど、一度アイレーネのもとに行ってみるのも一つの手かもしれない。


 

 スミーリャのこともだが、ルシーラについてもっと知りたい、とコールスは思いながら、大教会へと急いだ。



 荘厳なつくりの大教会の前で、コールスたちは、ソフィヤ、ルミナ、そしてターセンの出迎えを受けた。



 だが、3人の表情はさえない。



「どうしたの、ソフィヤ?」


 とコールスがたずねると、ソフィヤは泣き出しそうな、消え入りそうな声で答えた。



「すみません。実は、弁償金の支払いについて教会から協力を断られまして……」



「え、えぇ!?」



 弱者を助けるはずの教会がどうして?とコールスは驚いた。


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