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45.丘の上の語らい

「なんだって!」


 アナスタシアがいないことに、コールスは青ざめた。


 ミルティース戦の後、気を失ってしまったアナスタシアはそのまま眠り続けていた。


 

 診断をしたソフィヤによれば、身体や精神に問題があるわけではなく、あくまで体の機能が休んでいるだけ、ということだったが、初めての事態にコールスは戸惑うしかなかった。



 コールスは一日中、アナスタシアのベッドの横で寝顔を見守り続けていた。



――このままナーシャが目覚めなかったらどうしよう!



 そんな不安から一睡もできず、ろくに食事もとれないまま、ずっと病室にこもっていた。



その様子を見かねたルミナが、



「そんなしょぼくれた顔してたからって、アナスタシアが目覚めるわけでもないだろ。ちょっとは気分転換したらどうだ?」



と声をかけてくれて、ようやく腰を上げたのだった。



 確かに、こうして別の仕事をしている間は不安から少しは解放されていたのだが……



「今朝、お見舞いに伺おうとしたら、ベッドが空になってまして。靴も一緒に無くなってましたから、自分で出かけられたんだと思いますが」



 元気になった、ということなら本当は喜びたい、ホッとしたいところなのだが



「あぁ、ナーシャ、どこに行ったんだろう!?」



 コールスはうろたえて部屋の中をうろうろし始めた。



「落ち着け、コールス!まずは、スキルを使って探してみたらどうだ?」



 タクトスの言葉にハッとして、



「あ!そ、そうですね……」



 赤面しながら、領域探知のスキルを発動させる。



 目の前に、光で作られた地形図が広がった。

 アナスタシアの居場所はすぐに分かった。



 教会の裏手にある丘の頂上だ。



*   *    *



「ナーシャ!」



 丘の展望台にたどり着くと、白いパジャマ姿の少女が見えた。



 アナスタシアはゆっくり振り返ると、



「コールス……」



と呟き、視線を逸らした。



 とりあえず、身体的な異常がないらしいことにホッとしながら、コールスは少女に近づいた。



「どうしたの?」



 コールスが優しく声を掛けると、アナスタシアはペコっと頭を下げた。



「心配かけて、ごめん……ちょっと一人になりたくて」


「そっか。お邪魔だったかな?」



 コールスが寂しく笑うと、アナスタシアはハッとして首を横に振った。



「あ、ごめん!そうじゃなくて……その、今コールスが来てくれたのはすごく嬉しかったの!でも目覚めたときは、あまり誰かに会いたい気持ちがなくて……」



 うまく自分の内面を言い表せず、もじもじとしている少女に、



「隣、行ってもいいかな?」



と声をかけると、「うん」とアナスタシアは頷いた。



 歩み寄って、少女と一緒に展望台からの景色を眺める。



 コールスはそのまま何も言わなかった。



 無理に問いかけず、向こうから話してくれるのを待った。



 いや、もっと言えば、話してくれなくてもいいとも思った。



 アナスタシアにとって、コールスの隣が、居心地の良い場所であったらそれで良いと。



 それでも、アナスタシアは何度かためらった後、口を開いた。



「“王の器”って、何なのかな?」


今回は、少し短めです。次話は本日夜7時に投稿予定です。

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