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41.剥がされた仮面

 コールスたちはソフィヤを連れて、教会内の療養棟へと来ていた。



 病室の扉をくぐると、病人の様子を見ていた修道女の一人が駆け寄ってきた。



「あぁ、ソフィヤ!ようやく来たのね。……レオネア様は?」



 その問いかけに「えっと」と答えに詰まるソフィヤを(かば)うようにしながら、コールスが



「今日は、ソフィヤが治療をします」



 と答えた。



 修道女は豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしたが、すぐに眉をひそめてため息をついた。



「冗談を言っている場合ではありませんよ!?すぐにレオネア様を呼んでくださ――」



「冗談なんかじゃないですよ。じゃあソフィヤ、お願いね」



 そう言うアナスタシアに連れられて、ソフィヤはベッドにいる病人に近づく。



「ちょ、ちょっと何を勝手に!患者さんに近づかないで!」



 修道女は慌ててソフィヤを止めようとするが、



「すみませんが、大人しく待っていてください」



 と逆にコールスは彼女を通せんぼする。



「何をするんです!誰かっ、その子たちを止めてっ!」



 その声に、部屋にいた他の修道女たちが慌ててベッドに駆け寄ろうとするが、



「はいは~い、近づくんじゃないよぉ~!」



 今度はルミナが身を呈して、ソフィヤとアナスタシアを庇う。



 急に騒がしくなった病室の中。



 ソフィヤは緊張した顔で病床に近づくと杖を掲げて、病人の容体を調べた。


 

「う、く……」


 横たわっている中年の女性は、必死に胸を押さえている。



 ソフィヤの眼には、胸に巣食っている腫瘍から出る“毒”が全身に回っているのが分かった。



「まずは、毒を中和しますね」


 とソフィヤは杖を高く掲げた。



 杖を握る手から法力(ほうりき)が放出され始めると、杖の先から白光が溢れて、病人の全身を包んでいく。



「こ、これは……!」


 それまでコールスたちに組み付こうとしていた修道女たちは、ソフィヤの姿に目を見張った。



「あの子、法術が使えたの?」



「なんて膨大な法力なの、信じられない!」



 呆気にとられる修道女たちの目の前で、ソフィヤは治療を進めていく。



 法力の出力を上げながら、杖の先を病人の胸元へと近づける。



 すると、身体の奥にあった腫瘍は、氷が融けるように小さくなりやがて消えていった。



「ふぅ……すぅ……」


 苦悶の表情は消え去り、やがて女性は安らかな寝息を立て始めた。



 それを見届けると、ソフィヤは額の汗を拭った。



「病巣は取り除きました。あとは体力を回復させてあげてください」



 そう言って振り返ったとき、ちょうど病室の扉が再び開けられた。



「ソフィヤ!ここにいたのですか、何をしていたのです!?仕事を放り出してまで――」



 入るなり大声でソフィヤを叱ったのは、さきほどレオネアからソフィヤを探すよう言われていた修道女だ。


 彼女は病床の傍に立っている少女を見て叫んだ。



「ちょっと、そこで何をしているの!?レオネア様の許可なしに患者に近づくなんて……まさか、あなた――」


 修道女の言葉はそこで遮られた。



 後ろからそのレオネア本人が駆けこんできたからだ。



「……!」


 ソフィヤの姿を見るなり、レオネアは一瞬、青ざめた顔をした。



 ここで何が起こったのか、瞬時に悟ったのだろう。



「いやぁ、遅かったな、レオネアさま。治療なら今、ソフィヤが済ましちゃったんだけど」


 とルミナが言うと、駆け込んできた修道女は、「はぁ!?」と声を上げた。



「何をバカなことを、その子に治癒術などできるわけ――」


 だが、レオネアは小走りで病床に近づくと、横たわる病人の様子を見て目を見張った。


 

 確かに治療が行われたことに気づいたらしい。



 聖女は青ざめた顔のまま、ソフィヤの方を見た。


「これは、あなたが治療したのですか?」



 レオネアが少し震えた声でたずねると、ソフィヤは感情のこもらない声で



「はい」


 と答えた。



「……!!」


 レオネアは一層顔を青くして病床を見つめていたが、やがてフッと表情を緩めると、パチパチと拍手を始めた。



「そう!ついにあなたも治癒術が使えるようになったのですね!あぁ、良かった~、わたくしも指導したかいがあったというものですわ!」



 パチパチパチパチ



 にこやかに笑いながら教え子の成長を祝福する姿につられて、そのほかの修道女たちも拍手を始める。



 その様子に、コールスは苦い顔をした。



――なるほど、自分の指導の賜物ということにして、自分がソフィヤから法力を奪っていたことはごまかすつもりなのか!



 どこまでも往生際が悪い、とコールスたちは呆れていた。



 ソフィヤも同様に思っているのか、じっと据わった目のまま、レオネアを見つめている。



 拍手を終えると、レオネアはソフィヤにゆっくりと近づいた。



「……でもね、ソフィヤ。あなた忘れてしまったのかしら?私、言っていたはずよ?私の許可なしに法術を使ってはいけない、って。


 一刻も早く病気の人を救いたい、という気持ちは分かりますが、だからといって約束を破っていい理由にはなりませんよね?


 そのことについて、一度あなたとちゃぁんとお話をしなければなりませんね?」



 そういって凄もうとするレオネアに、



「へっ、よく言うね!ソフィヤの法力を盗んでさんざん良い思いをしてきた奴がさ!」



 とルミナが吐き捨てる。



「は?法力を盗む?なんのことですか?」



 とぼけた表情をするレオネアに、コールスが答える。



「あなたには、そもそも“奇跡”を起こす力なんてない。


 だから、いつも傍に仕えさせているソフィヤから法力を吸収して自分のものにして、それで法術を使っていたんです」



 コールスの言葉に、レオネアと、事情を知っているお付きの修道女は顔をひきつらせたが、すぐにレオネアは



「……ホ、ホホホ、オホホホホ!」


 と高笑いを始めた。



「オホホホホホ、何を言い出すかと思えば!法力を吸収するなど、いくら法術に長けたものでもそんなことできるわけがないじゃありませんの!」



 そして細い目をさらに吊り上げると、杖をコールスへと突き付けた。



「妙ないいがかりはおよしなさい!例えあなたが命の恩人であろうとも、そのような誹謗中傷、見過ごすわけには参りませんよ!」



 ヒリつきはじめた空気の中で、コールスはレオネアを見つめ返した。



「言いがかりなどではありませんよ。何でしたら、ここで証拠をお見せしましょう」


 

 そう言って、コールスは一つのスキルを発動させた。


 

 途端に、コールスの身体から白い光が帯状になってあふれ出した。



「こ、これは、法力!?」


 驚くレオネアに



「はい。レベル99の“法力強化”を使ったんです。普通、法力は目に見えないものですが、“束”にすることでこんな風になるんです。


 そして、これをあなたへと向けると――」



「や、やめ――」



 レオネアの制止を無視して、コールスは自分の法力の束を彼女へとぶつけた。



 たちまち聖女の身体は白い光に包まれる。すると、



「あ、あれは!」


 修道女たちは目を見張った。



 聖女のローブの下、腹部のあたりから赤い紋様が浮き上がってきたからだ。



「く、しまった!」


 レオネアは慌てて隠そうとするがもう遅い。



「あれは、まさか、“逆理(ぎゃくり)蛇紋(じゃもん)”?」


 呪術について詳しいのだろう、眼鏡をかけた一人の修道女が叫んだ。



「ぎゃくり?」


 他の修道女の疑問に、眼鏡の修道女は頷く。



「そう、あの紋様は本来の原理を逆転させるもの。だから本来、身体の内から外に向かう法力の流れを逆転させて、自分へと法力を集めることができる、というわけ!」



「ぐっ……」


 秘密を暴かれ、歯をむき出しにして悔しがるレオネア。



「その蛇紋は強い法力に対して自動的に働くものですよね?


 だから、今のあなたに蛇紋の働きを止めることはできない。


 そして、強い法力を受ければ、その分強く反応して光り出す。


 普通は服の上からわかるほどに光りはしませんが、今の僕の法力は規格外ですからね、ご覧の通りと言うわけです」

 


「じゃ、じゃあ、本当にレオネア様はソフィヤから法力を吸収して利用していたの?」


「私たちも騙されてたってわけ?」


 と、修道女たちはざわめき始める。



「ぐ、ぎ……!」


 レオネアは顔じゅうに汗をかき、ギリギリと歯ぎしりしている。



「いい加減に観念しな、レオネア!」



 とルミナが言うと、



「ぐ、ぐ、くそぉおおおおおおっ!!」


 聖女は杖を振り上げて、ソフィヤへと殴りかかる。



 だが、その前にコールスが立ちふさがると、


「せいっ!」



 剣の柄頭で鳩尾(みぞおち)に思いっきり突きを喰らわせた。



「ぐっぼおああああぁ!!」


 口から虹を吐きながら、レオネアは吹き飛んで床に転がった。



 そしてビクビクと身体を痙攣させていたが、やがて気絶して動かなくなった。



 それを見届けてコールスが踵を返すと、



「フ、フ……」


 と低い嗤い声が聞こえた。



「こ、コールス!」


 アナスタシアの叫びに、コールスは振り返る。



 いつの間にか、レオネアは立ち上がっていた。



 だが、その様子がおかしい。



 上から糸で吊られたように腕を上げて笑っている。



「フ、フフフ……ざまぁないわねぇ、レオネア」



 少ししわがれた声は、レオネアのものではない。



 だが、コールスには聞き覚えがあった。



「……お前は、ミルティース!!」




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