36.ソフィヤとの出会い
レオネアについては気になるが、それよりもソフィヤの様子が気になったので、コールスたちは“不可視化”スキルで姿を隠したまま、彼女を見守ることにした。
「ら、ライト……」
ソフィヤが呟くと、杖の先に白い光が灯った。
少女は杖を掲げると、身を縮こませながら、とぼとぼと歩き始めた。
コールスは領域探知のスキルを発動させると、洞窟全体に問題がないか調べた。
その結果、洞窟のあちこちにトラップが残っていることがわかった。
ただ単に広い道を歩いているだけなら問題はないだろうが、『洞窟を調べろ』という命令を受けているソフィヤなら、脇道に入って探索しようとしてトラップに引っかかる可能性は高い。
――仕方ない、解除して回るか。
コールスはアナスタシアと一緒に、ソフィヤの横をそっと通り過ぎると、罠を一つ一つ解除することにした。
「うぅ、怖いよぉ……」
藍色の聖衣を引きずるようにしながら、ソフィヤは歩いている。
水色に輝く大きな瞳は既に涙目になって、小さな肩はぶるぶると震えている。
そんな少女を怖がらせまいと、コールスたちは慎重に動いてトラップを解いていたが、
突然、バサバサという音が少女の後ろで響いた。
恐らくこうもりが羽ばたいた音だったのだが、その音に驚いたソフィヤは、
「キャアアァアアア!!」
と悲鳴を上げて、コールスたちの方に走ってきた。
――マズい!
と思う間もなかった。アナスタシアを庇うのに精いっぱいのコールスは、狭い道の途中でソフィヤとぶつかってしまった。
ズン!
「ぐふう」
ソフィヤの杖の先がコールスの顔面にヒットした。
「ひ、ひぃああああああ!!!」
コールスの声に驚いた少女は杖を取り落とすと、その場にうずくまってしまった。
「いやっ、いやあぁああ!!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
コールスは慌てて“不可視化”のスキルを解除し、2人の姿をあらわにした。
しかし、お尻を向けて頭を抱えているソフィヤに見えるはずもなく、ガタガタと震えているばかり。
仕方なく、アナスタシアは
「ソフィヤ、大丈夫、私たちは味方よ」
と優しく呼びかけた。
自分の名前が呼ばれたことで、ソフィヤはビクッと肩を震わせると、恐る恐る後ろを振り返った。
コールスとアナスタシアが優しく微笑みかけると、少女は何度か目をパチパチさせた後、
「あ、あなたたちは誰ですか?」
と問いかけた。
「僕は、コールス、コールス=ヴィンテ」
「アナスタシアよ」
「お、お化けじゃないんですよね?」
「うん、驚かせてごめんね。さっきまで“不可視化”のスキルを使っていたから、見えなかったと思うけど」
「本当に、怖がらせてごめんね」
そう言ってアナスタシアはソフィヤに近づいた。
「う……」
と、少女は杖を握りしめて身を固くしたが、アナスタシアは相手の小さな手をそっと握った。
「もう、大丈夫だから」
アナスタシアがそう微笑むと、
「……はい」
人の温もりを感じて、ようやく幽霊ではないと実感したのか、ソフィヤはほっと息をついた。
すると今度は、
「ギャアアアアアアアア!!」
と悲鳴が聞こえてきた。
それは、さっきの修道女たちがいる方角からだった。
「レオネア様!?」
ソフィヤが振り向くよりも先に、コールスは修道女たちを助けるべく、走り出していた。