31.レベル99のぶつかり合い
頭領ダンフォーは、そばにあった戦斧を持ち上げるとグルグルと回した。
それだけでも剣風が巻き起こり、砂塵がコールスたちに飛んでくる。
「それでは、任せたぞ」
と言って女はローブの裾を翻して、洞窟のさらに奥へと消えていく。
「ま、待て!」
コールスはそれを追いかけようとする。
奴には聞きたいことが沢山あるのだ。しかし――
「フン!」
ダンフォーはコールスたちのいる方角に斧を振り下ろした。
「くっ!」
斧の刃から発せられた風はたちまち地面をえぐり、土砂の嵐がコールスたちに襲い掛かる。
次に、大男は戦斧を横に構えると、一気に振り抜いた。
コールスも負けじと剣を振り下ろす。
それぞれの刃から放たれた剣気が中央でぶつかり、弾けた!
「ぐああぁっ!!」
「コールスっ!」
風で跳ね飛ばされた小石が、銃弾のようにコールスの身体の各所に命中する。
背後のアナスタシアは守ったが、その代わりに手足にダメージを負ってしまった。
コールスは思わず膝をついた。
「フン、相変わらず貴様らの姿は見えねぇが、傷は負わせられたみてぇだな」
とダンフォーは得意げな声を出す。
奴のほうは、ほとんど怪我をしていない。
「クク、スキルレベルが上がったところで、最後にものを言うのは身体の強さよ!」
と、ダンフォーは勝利を確信したかのように笑う。
「……!」
アナスタシアは青ざめた顔をしている。
コールスはその細い手をそっと握った。
「大丈夫、だよ」
「コールス……!」
ダンフォーは再び斧を振りかぶる。
「とどめだぁ!」
コールスはそれをけん制するように、下から剣を振り上げた。
ほとばしり出た剣気は、ダンフォーの方へと飛んでいくが、
「ケッ、どこを狙っている!」
剣気は大きく外れて天井へと当たった。
だが、それこそがコールスの狙いだった。
洞窟の天井から下がった鍾乳石は根元を切られて、ダンフォーへと降りかかり、大きな塊が奴の延髄を直撃した。
「ぐっ!!」
敵は目を白黒させた。
コールスの思った通りだった。
――例え筋肉を増大させ、身体を強化しても、人間の体の構造までは変わらない!
ダンフォーは脳を揺らされて、軽い脳震盪を起こしていた。
コールスは動きの止まった敵へと駆け寄り、その足を斬りつけた。
「ぐぁっ!!」
足の腱を斬られ、ダンフォーはその場に転がる。
「ち、きしょうっ!」
痛みに悶える大男の鼻先にコールスは剣先を突き付けた。
「さぁ、“蟲”の殺し方を教えてもらおうか」
* * *
白々と夜が明けゆく空の下。
コールスとアナスタシアは、伯爵家へと帰りついていた。
その後には、伯爵家から洞窟へと応援に駆け付けたタクトスがいる。
タクトスが握る縄の先には、頭領のダンフォーをはじめ、盗賊団の面々が縛られている。
「おぉ、帰ってきたぞ!」
城にいた兵士たちは声を上げると、一斉に、コールスたちに駆け寄った。
「お疲れ様!」
「やっぱり、すげぇな!ボウズ!」
兵士たちはめいめいにコールスを労ってくれた。
城の中に入ると、使用人たちとともに伯爵やクレアも出迎えてくれた。
「全く、心配したぞ!?」
「ご苦労様でしたね、コールス殿」
優しく声をかけてくれる伯爵たちにコールスたちは頭を下げた。
コールスたちが蟲に罹っていることは、看護師を通じて2人にも知らされていた。
「すみません、ご迷惑をおかけしました。
僕たちはすでにこの薬で体内の蟲を駆除しています。
ルミナの様子はどうですか?すぐに薬を打ちたいのですが」
そういって、コールスはアンプルを掲げた。
ダンフォーを尋問した結果、洞窟の奥から見つけた蟲への特効薬だ。
魔術師の女のほうは霧のように姿が消えていて、探してもみつからなかったので、とりあえず薬だけ持ち帰ることにした。
すると、屋敷のほうから声がした。
「こら、待ちなさいっ!」
看護師に追いかけられながら、ルミナがこちらに駆けよってくるのがわかった。
しかし、蟲の影響で熱が出ているのか、少女はふらふらと途中で座り込んでしまった。
「ルミナっ!」
コールスとアナスタシアは急いで駆け寄った。
「と、頭領……」
抱きかかえられ、うわごとのように呟くルミナの視線の先には、拘束されている頭領ダンフォーの姿があった。
「ルミナ……」
裏切られた少女と裏切った男は見つめ合った。




