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30.謎の女

コールスは男の後ろ手を拘束しながら、道案内をさせた。



 コールスとアナスタシア、盗賊の男の姿は、コールスの“不可視化”スキルによって、外からは全く見えない。



 やがて、幾つもの分岐を過ぎていくと、比較的大きな空間に出た。



 その一角に明かりがともり、影が動いていることから、人がいるのが分かった。



「あれは……!」



 テーブルを挟んで二人の人間が向かい合っている。



 一人は盗賊の頭領だ。



 そしてもう一人は、細身の体をワインレッドのローブに包んでいる。



深くフードを被っていて顔は分からないが、わずかに見える口に紅い口紅が塗られているのを見ると、女だろうか。



 二人は、酒を酌み交わしているようだ。



「今頃、伯爵の城はどうなっているだろうな?」


 と、女のほうが口を開いた。



「さぁて、それは。しかし、ルミナの中に宿ってる“蟲”の調子が良ければ、今晩にでも屋敷の連中に広がっていくでしょう。2,3日もすれば大半はお陀仏ですよ」


 頭領はそう言って笑った。



――やっぱり、あの蟲はこいつの仕組んだことだったのか……


 コールスは唇を噛んだ。



 女はグラスを揺らしながら、


「しかし大丈夫か?そのルミナという娘、自分の体内に蟲が仕込まれているなどとは知らんのだろう?体の異変に気付き、自分が見捨てられた、と知ったら何をするか分からんのではないか?」


とたずねる。



 しかし、頭領は落ち着いた様子で自分のグラスを傾けた。



「ご心配なく、ミルティースさま。


 あやつには『必ず頭領たちは伯爵家を襲撃して、自分を助けてくれる』と信じ込ませてありますからな。


 蟲が暴れ始めても、『それもまた、伯爵家の戦力を削るための作戦』と勝手に解釈してくれますよ。


 頭領は決して仲間を見捨てない。自分を裏切ったりはしない。そう思い込んでいますからな。


 自分で言うのもなんですがね、あいつにとって儂は親のようなものです。

 

 その親に裏切られた、などと、いきなり受け入れることはできんでしょう」



 平気な顔でそう語る男の横顔を、コールスは殴りつけたい衝動に駆られた。



 ルミナの純粋な信頼を踏みにじって悠々としている男に、彼女が今味わっている痛みの百分の一でも、叩き込んでやりたかった。



 それはアナスタシアも同じようで、コールスの服の裾をぎゅっと握りしめている。



 女は半ば呆れたように首を振りながら笑う。


「だから、きっと蟲のことも自分の都合の良いように思いこもうとする、か。

 

 フン、貴様もなかなか筋金入りの悪玉だな――」



 そこまで言って、女はピクリと何かに気づいたように表情を変えると、傍らにあった杖を取って、コールスたちへと向けた。


――魔法が来る!


 コールスはとっさに、魔法防御スキル(lv.99)を発動させる。


 その直後に炎の波が、コールスたちに押し寄せた。



紅蓮の炎は、コールスの一歩先で大輪の花のように弾けた。



「だ、誰だっ!」


 侵入者に気づいた頭領が叫ぶ。



「“不可視化”のスキルか。これほどの使い手がいるとはな」


と女は呟いてから、ニヤリと口元を歪めた。



 そして、コールスのいる方に顔を向けて、こう言った。


「貴様、もしやその力、“代償効果”によるものか?」



「!」


 コールスの背を冷や汗が流れた。



――こいつ、知っているのか?


 

 もしかして、アルクマールと関係があるのか?



 そう考えたとき、女は頭領のほうに目を向けた。


「もしそうなら、こちらも手加減はできんな。……ダンフォー!」



「はっ!」



 名前を呼ばれた頭領が返事をすると、女は杖を向けた。


「ここは貴様に任せる。わが力で貴様に力添えをしてやるから、存分に働きを見せよ!」



「……はっ!」


 一瞬ためらいを見せたが、頭領は頷いた。



 すると、女は杖で頭領の腕を軽くたたいた。



「ぬ、おぉ、あああっ!!」


 頭領は絶叫し、みる間にその腕の筋肉は隆起しはじめた。



 いや、腕だけではない。上半身全体が急激に膨れ上がり、やがて見上げるような巨人に変化した。



「こ、これは!」


 コールスたちは目を見開いた。



「今、この男の中にある筋力強化のスキルレベルを引き上げたのだ。もちろん、最高レベルまでな」



「え!」



 女はコールスへと杖を突きつけた。



「さぁ、見せてみよ、貴様の力を!我と同じく“代償効果”で得たその力を!


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