25.スキルレベルの差
1時間後。
盗賊たちは皆捕えられて、城の広間に拘束されていた。
縛り上げられた集団の中心で、
「くっ、貴様ら、一体何をしたんだっ!」
盗賊の頭領らしき人物が、悔しそうに叫んだ。
どうして伯爵家の兵士たちが、自分達を捕えることができたのか、まったく信じられないという様子だ。
コールスは進み出ると、頭領と対峙した。
その少年の姿に、盗賊たちの一部から悲鳴があがった。
コールスが昨日、すさまじい剣気で盗賊たちを葬る様子を目撃した者もいたからだ。
「難しいことはしていません。“領域探知”と“気配遮断”、そして“不可視化”のスキルを使っただけです」
コールスの言葉に、頭領は、ケッっと唾を吐いた。
「バカな!それは俺たちが最も得意とする術だ!貴様らごときに後れを取るわけがない!」
「ですが、lv.99まで極めておいでではないでしょう?」
「な、何っ!」
「訳あって、僕はいずれも最高レベルで使うことができるんです。
まず、“領域探知”によってあなた方の“気配遮断”と“不可視化”を見破ります。
そして、最高レベルの“気配遮断”と“不可視化”で兵士の皆さんの姿を覆い隠して、あなた方の背後に送り込んだんです」
「……!」
頭領の脳裏を、自分たちが捕まった瞬間がよぎったようだった。
実際、火矢を城へと放とうとしていた盗賊たちは皆、刃を首元に突き付けられるまで、兵士たちの存在に全く気づいていなかった。
悪魔に遭ったかのような目でコールスを見ていた頭領は、やがてため息をついた。
「くそっ、こんな化け物を敵に回すとわかってたなら、暗殺計画になんぞ乗らなかったものを!……そのあげく、ジェイクまで無駄死にさせちまうとはよ!」
ジェイクとは恐らく、コールスに敗れて自害した仲間のことだろう。
頭領はがっくりとうなだれた。
そして、
「盗賊に身を堕とした時から、いつでも死ぬ覚悟はできてる。
俺の首はくれてやる。
だが、その前にもう一度だけ、ジェイクに会わせてくれねぇか?」
と言った。
コールスは傍にいるタクトスに視線を送った。
彼は盗賊捕縛作戦の指揮者として、クレアからこの場を任されていた。
「いいだろう、ここに遺体を持ってこさせよう」
とタクトスは頷き、部下に指示した。
間もなく、自害した盗賊の遺体が運ばれてきた。
「もっと近くで見せてくれ」
と言う頭領のために近くに持っていく。
「あぁ、ジェイク!こんなになっちまって、すまなかったなぁ……」
遺体を前に泣いている男の姿を、アナスタシアは痛ましそうに見つめている。
たとえ敵であった者にも、憐れみをみせる少女を、コールスは
――優しい子だな。
と思った。
その時突然、頭領は死んだ仲間の顔にフッと何かを吐きかけた。
その何かは見開いたままになっていたジェイクの胸元に当たった。
すると突然、遺体のあちこちからシューっという音とともに煙が噴き出して、辺り一面を瞬く間に覆った。
「こ、これは!?」
「爆発するぞっ!」
誰かの声が響き、
「ひぃ!」
「危ねぇっ!」
兵士たちは一斉に遺体から離れるように逃げ出した。
コールスもアナスタシアを逃がそうとしたが、すぐにハッと気づき、鑑定スキルを発動させて、遺体を“鑑定”した。
そして驚きの声を上げた。
「これは、爆発なんかしない、ただの煙幕だ!」
そのとき微かに足音が聞こえて、コールスは反射的に剣を抜いた。
ギィイン!!
銀色のナイフが閃き、コールスはそれを素早く弾いた。
「誰だっ!」
アナスタシアを庇うようにしながら剣を構えるコールスの目の前に、一人の覆面が立っていた。
ナイフを構えた小柄な姿。
その瞳には見覚えがあった。
昨日、コールスを追いかけてきた、あの少女だ。
「ルミナ!?」
コールスの声を聴くと、少女は襲い掛かってきた!