23.成敗!
相手の鋭い眼光に、ミードクは額の汗を拭った。
「あれは、儂どもにとっても予想外だった」
「何ぃ?」
盗賊の声は凄みが増した。今にも手元の剣を抜いて斬りかかりそうだ。
「貴殿らに斬りかかった冒険者は、我々も全く知らない者だった」
「そんな言い訳が通用すると思っているのか?」
額に青筋を立てている男を相手に、ミードクは慌てて手を振る。
「ディークソン伯爵殺害のために貴殿らの力は絶対に欠かせない。なのに貴殿らをわざわざ殺す必要がどこにある?そんなことで怒らせたら、本当に儂のほうが殺されてしまう」
「……」
黙って、野獣のような眼光で男はミードクを見つめている。
驚きながらも、コールスは事態の把握に努めていた。
――ミードクと盗賊はグルで、真の狙いはミードクではなく、彼の義父である伯爵の殺害か……
とすれば、昨日の襲撃も自作自演の芝居に過ぎなかった、ということか。
――あぁ、余計なことしちゃったかなぁ。
コールスは落ち込みかけた。
――アナスタシアを危険に巻き込んでまでやることじゃなかったな。
「……フン。仮にその言葉が真実だとして、このままでは俺らの面目が丸つぶれだってことに変わりはない!その落とし前をどうつけるのか、さっきからそう言ってんだろうが!!」
凄みを利かせる男に向かって、
「わかった。では、その冒険者を引き渡そう」
とミードクは言い放った。
「あぁ?」
「貴殿らの仇は今、この屋敷にいる。儂が連れ込んだのだ。救ってもらった礼をしたいと言ってな。そやつを今連れてくる。それで手を打ってくれないか?」
――まぁ、そうなるよね。
コールスは心の中でため息をついた。
――でも、ここで奴らの企みが分かって良かった。
大切なのは、これからどう行動するか、だ。
一番安全で確実なのは、アナスタシアを連れて、こっそりと屋敷を脱出することだ。
“不可視化”と“気配遮断”のスキルを使えば、難なくできるだろう。
――でも、それじゃ伯爵を見捨てることになる!
人嫌いの変人だろうとも、特段の罪もない人を見殺しにはしたくない。
コールスが思案している中、盗賊の男は少し沈黙した後、素早く剣を抜いてミードクに突き付けた。
「10分だ。その間に連れてこい。出来なければ貴様の首を刎ねる!」
ミードクの顔が一気に青ざめた。
「す、す、すぐに連れてくるんだ!」
とタクトスに指示を出す。
――どうやら、迷っている暇はないみたいだ。
コールスは剣を抜いた。
狙うのは、盗賊の男。
スキル“突き攻撃強化”を発動して、壁の向こうめがけて突きを繰り出す。
「フン!」
ズガァアアン!!
飛び出した剣気は壁に大きな穴を開け、そのまま盗賊の腕を切り裂いた。
「ぐあああぁぁあぁ!!」
男は腕を抱えてうずくまり、
「う、うわぁああああ!!」
恐怖の声を上げながら、ミードクもソファから転げ落ちた。
驚きに目を見開きながら、タクトスはコールスのほうを振り返った
「何者だ!」
「私です、コールスですよ」
「コールス殿?」
タクトスは辺りを見回すが、コールスの姿が見えないので困惑しているようだ。
「申し訳ありませんが、“不可視化”のスキルを使っていますので、そちらからは私は見えません」
「な、何のつもりだ、貴様!」
返り血を浴びたミードクは恐怖と衝撃で声を震わせながら、ソファの影から抗議の声を上げる。
「何のつもりって、それはこちらのセリフですよ、ミードク様。賊と通じて、伯爵を暗殺しようとの企み、しっかり聞かせていただきましたよ?」
そういいながら、壁穴から部屋のなかへと入る。
その足音に、ミードクもタクトスもたじろいでいる。
「ぬ……ち、違う、私は脅されているのだ!伯爵の命を差し出さなければ、お前を殺すと!」
――この期に及んで白々しい!
今度は“斬撃力強化”を発動して、剣を振り抜く。
斬撃はミードクのすぐそばを通り抜けて、ソファも部屋の壁も切り裂いた。
「ひ……!」
喉を引きつらせながら、ミードクは白目をむいて気絶した。