20.コールスの決意
コールスとアナスタシアはミードクたちの案内で、ディークソン伯爵家の城館を訪れていた。
どうしても礼をしたい、というミードクとクレアの願いを断り切れず、夕食をご馳走になることが決まったのだ。
正直、あまり気乗りはしなかった。
さっき、ミードクがアナスタシアの前に立った時、アナスタシアが怯えた表情をしていたからだ。
だから、コールスも咄嗟に彼女を庇ったのだが……
「ナーシャ、大丈夫?」
馬に揺られながら、コールスは後ろのアナスタシアに声をかけた。
「え?う、うん。どうしたの、コールス?」
「いや、その……ミードクさまを怖がっているみたいだったから」
コールスは先行する馬車を見つめた。
ミードクはアナスタシアに、一緒に馬車に乗っていかないか、と誘ってもいた。
コールスが「いつも護衛対象の傍にいないといけない契約なので」と嘘を言って断ったことと、クレアが「あまりしつこくお誘いしてはいけない」と諫めてくれたので、ミードクも引き下がったのだが。
「大丈夫!心配しないで。確かに、最初は怖く見えたし、失礼な人だと思ったけど。でも、もうすぐ伯爵さまになられる方なんだから、そんな変なことはなさらないんじゃない?」
「まぁ、そうだけど……」
とコールスはため息をついた。
ミードク・セイジュはこの辺りでは有力な金融業者で、商人たちの外に、貴族たちにも金を貸している。
ディークソン伯爵家の領地が彼のものになったのも、借金のカタとしてそれを取り上げたという話だ。
しかもそれに飽き足らず、多額の資金援助と引き換えに、ディークソン伯爵の一人娘である、クレア=ディークソンと結婚し、伯爵とも養子縁組をすることで、正真正銘の貴族になろうというのだ。
確かにそうした大事な時期に、(いち平民とはいえ)コールスたち相手に何かトラブルを起こす真似はしないだろうが……
「本当に平気だから。そもそも、食事のお誘いに乗ったのは私なんだし」
それは、アナスタシアの生みの親・アルクマールにつながる手がかりがあるかもしれないから。
アナスタシアが目覚めた「ディークソン軍事研究所跡」は、元はディークソン伯爵家のものである。
もしアルクマールがアナスタシアをあの場所に残していったとすれば、伯爵家とアルクマールとの間にどんなつながりがあったのか?
それがわかるかもしれない、という思いから、アナスタシアはディークソン家にお邪魔しようという気になったようだった。
「それに、私嬉しかったの、コールスが私を庇ってくれて。……フフッ、なんだか物語の中の騎士に出会ったみたいで」
「そ、そうかな?そんな大したことじゃないよ」
とコールスは赤面しながら頭を掻いた。
けれど、少年の心には火がついていた。
――ここまで言ってもらえたなら、しっかりしなきゃ男じゃない!
絶対に、アナスタシアを守っていこうと決意を新たにするのだった。