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15.清算のとき


レイチェルの冷たい宣告に、“暁の鷹”は戦慄した。



「じょ、冗談じゃねぇ!」


 ギリアムは思わず金切り声を上げる。



「いやよ、そんなの!ねぇ、助けてよ、コールス!」



 マーサとミリアは急に、媚びた声を出し始める



「頼む、コールス!戻ってきてくれ、このとおりだ!」


 ウォレスは地面に頭をこすりつけるようにしている。



 コールスはウォレスたちを見つめた。


もし「戻る」といっても、勿論、コールスが彼らと一緒に刑罰を受けるわけではない。


ただ単に冒険者としての「籍」が暁の鷹にある、という形式上の話だ。


 だが、ここで、コールスが「戻る」と言えば、それは彼らの行いを許すという一つのサインになる。



 被害者であるコールスが、今までのことを水に流す、と示したことになる。



“そうなれば、自分たちの罪も少しは軽くなるに違いない”


という、ウォレスたちの狙いは明らかだ。


 

 だから、コールスは


「あなたたちの元へは戻りません」


と言った。



「あなたたちはただ、自分たちの罪から逃れたいだけなのでしょう?


 今まで通りの自由を少しでも早く手に入れたい、それだけでしょう?


 そのために、僕を利用したいだけでしょう?

 

 それならば、今までと何も変わらない。


 踏みつけにされてきた今までと変わらない。


 そんなところに居たいとは思いません」



 そもそも、もうコールスに戻るつもりは最初からなかった。


 自分のことを心から受け入れてくれる存在が、アナスタシアがいてくれるから。


 そして、500年の孤独から目覚めたアナスタシアのそばにいたいと思ったから。




「ぐ……だ、だったら、せめて!「許す」と言ってくれ!俺たちを許してくれ!」



 ウォレスはまだ悪あがきをするつもりだ。



「いい加減にしろよ、クズどもが!」



「虫のいいことばっかり言ってんじゃねぇよ!」



 相変わらず辛辣な罵声が周囲から飛んでくる。



 コールスもそれには同感だった。



「許すも許さないもありません。


 まずは自分自身をよく反省なさってください。


 そして、しっかりと刑期を過ごしてください。


 それを上の方々がご覧になって、ちゃんと反省していると判断されるかどうか、それだけです」



「ぐ……ぬ……」



 ウォレスは腕を拘束されながら、俯いて歯ぎしりしている。



 恐らく、内心では屈辱と怒りが燃えていることだろう。



「フン、ぐうの音もでない、というのはこのことだな。……連れていけ!」



 レイチェルが指示を出すと、彼女の部下たちは“暁の鷹”のメンバーを拘束したまま、泣き叫ぶ一行を、丘の下に止めてある連行用の馬車に乗せようと連れて行った。


 「ふぅ……」



 コールスは大きく息をついた。

 気が付けば、手にはびっしょりと汗をかいていた。


「お疲れさん」


 レイチェルはコールスの肩をぽんぽんと叩いた。



「ありがとうございました、レイチェルさん」



「いや、こちらこそ。……すまなかったな、手を煩わせて」



 いくら“増援”が待機しているとはいえ、自分を殺そうとした相手と1対5になるというのは、気分の良いことではなかっただろう、とレイチェルは気遣ってくれた。



「いえ、良いんです。僕としても、きっちりとけじめをつけておきたかったんです。一応、2年間はお世話になったパーティですから……」



 お世辞にも良い扱いは受けなかったし、決して給料は高くなかった。


けれど、そもそも雇ってもらえなければ、田舎にいる親やきょうだいたちへの仕送りもできなかった。


 少しでも恩義がある相手ならばこそ、しっかりと清算しておきたかった。



「義理堅いねぇ。まぁ、君らしいかな」



と、レイチェルは微笑んだ。



「さぁ、街へ帰ろう!」


「はい!」



 街では、アナスタシアが首を長くして待っていることだろう。


 

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