14.謝罪と処罰
“暁の鷹”全員が武器を放棄したのを確認すると、レイチェルは5人全員を拘束した。
「くそっ、離せ、離しやがれぇ!!」
3人がかりで押さえつけられて、ギリアムが大声を上げる。
「黙れ、ギリアム。次に口を開いたら骨を折るぞ」
レイチェルは氷のような視線を向けた。
「んだとぉ、おぐあああああぁいででででで!!」
「次こそは、本当に折るぞ?」
女監察官が、凄みの効いた声で再び脅すと、剣士は「うっ」と喉を引きつらせた。
「いったっ、痛いじゃないのよ、この変態っ!」
マーサが抗議の声を上げ、
「やだやだやだ、助けてよぉ~!」
ミリアは泣き叫んでいる。
「私のキャリアが……未来が……」
リュートは相変わらず呆けた様子だ。
「なんで、なんでお前たちまでここにいるんだ?」
ウォレスは、拘束されながら、周りを取り囲んでいる冒険者たちを見渡した。
皆、一様に口を結び、武器をウォレスたちに向けて、妙な動きをしないようけん制している。
彼らは誰もが、“暁の鷹”に対する侮蔑と失望の表情をしていた。
「私が招集したのさ。コールスや私たちの護衛、そしてこの場の証人としてな」
と、レイチェルが言った。
「監察官から話を聞いたときは、まさかと思ったが、本当に仲間を殺そうとしていたなんてな……!」
「おまけに、あんな芝居までうって俺たちを騙しやがって!」
「Aランクパーティが聞いてあきれるぜ。今までも隠れてさんざんあくどいことやってきたんじゃねぇのか?あぁ?」
冒険者たちは裏切られたという怒りから、次々と罵声を浴びせる。
唇を震わせながら、それを受け止めていたウォレスは、
「コールス・ヴィンテ!!」
突然、名前を呼ばれて驚いているコールスに、
「申し訳なかった!非道な真似をして本当にすまなかった!」
そう言って頭を下げた。
「……!」
コールスは息を呑んだ。
「フン……」
今更何を、とレイチェルが鼻で笑う。
ようやく、ようやく、謝罪の言葉が出た。
コールスはそれを噛みしめるように目を閉じる。
「あ、あたしも悪かったよ、あんたを見捨てたりして!ほ、ほら、ミリアも!」
「う、うぁああ、ごめ“んなざい~~~!!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ミリアは突っ伏した。
「ギリアムっ、ぼーっとしてんじゃないわよっ!!」
「お、オレもかよ?」
「あったり前だ!お前が一番、コールスにひどいことしてたでしょうが!」
「ぬ、ぐ……」
プライドの高い剣士は、歯ぎしりしながら唸っていたが、
「わ、悪かった。……その、殴ったりして……悪かったよっ!」
絞り出すような、投げつけるような言い方ではあるが一応は謝った。
「ケッ、土壇場になってから頭下げるのかよ、みっともねぇなぁ!!」
「最初からそうしとけよ、馬っ鹿じゃねえの!?」
相変わらず、冒険者たちは辛らつな言葉を次々に投げつける。
コールスは瞳を開いたが、何も言わずに黙っている。
レイチェルは深く息をついた。
「皆の言うとおりだ。最初に正直に過ちを認めていれば、少しでも罪が軽くなっていただろうがな」
「罪?」
ウォレスの声が震える。
「そうだ。私が裁可するわけではないがな、極めて重い刑になるはずだ、覚悟しておけよ」
「は?け、刑ってなんだよ!Aランクから降格させられるくらいじゃねぇのかよ!」
とギリアムが聞き返した。
レイチェルは呆れてモノが言えない、という表情で
「バカなのか、お前は!?ここまでのことをしておいて、どうして今まで通り仕事ができると思ってんだ?ギルドの規約違反どころじゃない、お前達はれっきとした犯罪者だ!
重罪を問われた冒険者がどうなるか、知っているか?」
レイチェルが昏い瞳をすると、ウォレスはビリっと身体を震わせた。
「……ま、まさか、冒険囚?」
その言葉に一同は戦慄した。
冒険囚とは、囚人の一種で、通常は刑務所や鉱山などで服役して労働するが、冒険囚はダンジョン探索などを労働の代わりに行う。
それ以外は他の囚人と同じく監獄の中で過ごすが、その実態は刑務所以上に過酷だ。
難度の高い場所に送り込まれ、どんな危険があろうとも逃げることは許されない。
刑期を終える前に命を落とすことも珍しくない「冒険者の墓場」である。
「冗談じゃねぇよぉおお!!」
「嘘っ、ウソよぉぉぉお!!」
ギリアムやミリアは喉も裂けんばかりに叫ぶ。
地位を奪われるどころか、冒険者人生そのものが終わってしまうほどの処分を受け止められないようだ。
「無論、私がお前たちの処罰を決めるわけではない。だが、ギルド上層部は今言ったことに近い内容の処分を言い渡すだろう」
「そ、それって、ど、どれくらい長いの……?」
震える声でマーサがたずねる。
「さぁ……だが、少なくとも10年、お前たちは刑に服するだろう」
レイチェルは冷たく宣告した。
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