13.逆転!
ウォレスは槍を携えながら、コールスに近づく。
ギリアムもニヤニヤと笑いながら、剣を鞘から抜いた。
マーサは弓を構え、リュートやミリアも杖を掲げている。
「ここまで戻ってきたことは称賛に値するが、たった一人でここに来るとは、あまりにも間抜けだったな」
ウォレスはそう言って口元をゆがめた。
「へへっ、飛んで火に入るなんとやらってな。今度こそきっちりあの世に送ってやるぜ!」
ギリアムは目をギラギラとさせている。
「くっ!」
コールスは怯えた表情で、じりじりと後ろに下がる。
だが。
今のコールスの胸の中にあるのは、恐怖でも、後悔でもなかった。
ただ、落胆していた。
ただ、失望していた。
自分を落とそうとしたことについて、後悔する気持ちを、彼らも少しは持っているに違いない。
と、コールスは思っていた。
だから、自分が戻った姿を見れば、悔い改めようという気持ちが起きるかもしれない。
“コールスがギルドに事の顛末を報告するだろう”と観念して、自首してくれるかもしれない。
そう思っていた。
しかし、まったくの期待外れだった。
もう本当に、バレなければ何でもやる、自分たちのメンツを保つためには殺しもやる。ということらしい。
“暁の鷹”はそんな外道の集まりだと、はっきり思い知らされた。
心の中でため息をつきながら、
(しかたがない、最後の手段を使おう)
コールスは指をパチン、と鳴らした。
すると、丘の周囲がぱっと光り、次の瞬間には何人もの人間がコールスたちを取り囲んでいるのが分かった。
そこにいたのは、レイチェルとその部下たち十数人。
そして、ギルドに所属する冒険者パーティのリーダーたち数人。
「え……?」
「は……?」
ウォレスたちは事態が呑み込めず、ぽかんとした顔をしている。
「そこまでだ、“暁の鷹”」
レイチェルが低い声で告げた。
「ど、どういうことだ?」
ウォレスたちの顔は、すっかり血の気が引き、真っ白な顔をしている。
「話は聞かせてもらった。
コールスを意図して見捨てたことの“自白”が取れれば十分、と思っていたが……
ダンジョン内での仲間の意図的放棄、ギルドへの虚偽報告、加えて隠ぺいのために殺人まで考えるとは……もはや、救いようもないな」
レイチェルはサッと右手を掲げた。
「緊急措置として、ウォレス・ボレッド以下5名の身柄を拘束するっ!大人しく武器を捨てろ!」
「うわあぁああああああああああああ!!!!」
「うぉおおああああああああああああ!!!!」
「いやあああぁぁあああああああああ!!!!」
「きゃああああああああああああああ!!!!」
ウォレス以外の4人の喉から、絶叫がほとばしり出た。
ダンジョンでコールスが上げた叫びをはるかに上回っていた。
ミリアとマーサは顔を覆ってその場に伏せ、リュートは放心して尻もちをついている。
「おぉい、どうなってんだよぉ、誰もいねぇんじゃなかったのかよぉお!!」
ギリアムが喚きながら、リュートに掴みかかる。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」
リュートは虚ろな目でぶつぶつと呟いているだけだ。
「……それは、僕から説明します」
と、コールスは言って、再びスキル画面を開いた。
「このスキル画面、使用時間が新しいものから表示されるようにソートを変えてるんです。
“気配遮断”、“不可視化”が上に来てますよね?
すみません、実は、この2つはダンジョンの中で使ったんじゃなくて、ついさっき、あなた方が来る前にこの丘で使ったんです。レイチェルさんたち全員の気配と姿を隠すために」
「な……!全員を隠すだと?そんなこと――」
ウォレスは口をぱくぱくさせている。
「それができるのが、レベル99ということです」
コールスはさらりと言った。
「リュートさんやミリアさんが使える“術探知”のスキルレベルはせいぜいで20から30ですよね?それでは、レベル99のスキルが発動していても、感知することはできません」
「お前たちの言動は、ここにいる全員で全て見届けさせてもらった。……どちらが間抜けか、これではっきりしたようだな」
レイチェルが冷たく言い放った。
「ちっきしょぉおおおおおおおあああああ!!!」
ギリアムが再び絶叫するなか、ウォレスは、ガックリと膝をついた。
槍が落ちてカラン、と乾いた音が響いた。