12.再会
その日の夜のうちに、コールスとアナスタシアは密かに街へと帰っていた。
そして、レイチェルに取ってもらった宿で身体を休めた。
あくる日の早朝。
街はずれにある、1本の杉が立つ丘の上に、コールスは一人で立っていた。
今、この場にアナスタシアはいない。
恐らく、彼女を危険にさらすことになるからだ。
そのため、今は別の場所にいてもらっている。
やがて、馬に乗って街の方からこちらに駆けてくる一団が見えた。
それは、ウォレスたち“暁の鷹”だった。
彼らは丘の上に来ると、青ざめた顔でコールスを眺めた。
「信じらんねぇ……ほんとにお前かよ!?」
ギリアムの声は震えている。
「お疑いは無理もありませんが、正真正銘のコールス・ヴィンテですよ」
と、コールスは抑えた声で答えた。
「どうやって生き延びたんだ?」
リュートが疑問を投げかけてくる。
「答えは、これです」
コールスは自分のスキル画面を開いて拡大し、皆に見せた。
「な!レベル99ぅ!?」
「嘘、なんで?」
一様に驚いているパーティに、コールスは説明した。
「原因は、あの呪いです。
スキルの使用回数が1になってしまった代わりに、全てのスキルが上限レベルになったんです。
レベル99の緊急身体強化によって僕は無傷でした。
その後は、持っているスキルをやりくりして、ここまで戻ってきたというわけです」
スキル画面には、気配遮断、透明化、領域探知などのスキルが並び、それらは“Lv.99 使用済”となっていた。
「なるほどな……納得した」
ウォレスは頷いた。
コールスは5人の顔を眺めた。
「ちゃんと全員で来てくださったんですね」
昨夜、コールスは“暁の鷹”宛てに一通の手紙を書いていた。
人に頼んで、その手紙をウォレスたちが泊まる宿まで運んでもらったのだ。
手紙には、
「明朝、一本杉の丘で、一人で待っています。全員でいらしてください。もし来られなければ、ダンジョンであなた方がしたことをギルドに報告します」
と書いておいた。
「何かの罠だろうから自分一人で行く、ってリーダーは言ったのよ。
けど、罠だったらなおさら危ないからって、あたしたちも行くことにしたの」
と、マーサが言った。
「そうですか」
(やっぱり、仲間同士の絆があるんだな)
と、コールスは思った。
「そっちこそ、ちゃんと一人なんだろうな?」
ギリアムが低い声で問いただしてくる。
「お疑いでしたら、どうぞ調べてください」
すると、リュートとミリアが杖で周囲を調べ始めた。
もし誰かがスキルを使って身を隠しているなら、“術探知”のスキルで分かるからだ。
ほかのメンバーも馬の上から周囲を見渡した。
草丈が短く、見晴らしの良いこの丘に身を隠せる場所はない。
「異常なし、だ」
と、リュートが報告した。
「よし、いいだろう」
ウォレスが頷く。
「……で?犬っころの分際で、俺たちを呼び出して、どうしようってんだ、あぁ!?」
馬を降りながら、ギリアムは露骨に態度を変えて威嚇してきた。
周囲に他人がいない、となると、すぐにこうして高圧的になるのだ。
怯むことなく、コールスはウォレスを見据えた。
「一つ、聞きたかったんです。
どうして、あの場所で僕を見捨てたんですか?
どうして、わざわざ縄を切ったんですか?
モンスターに追いかけられていたとはいえ、あんまりじゃないですか!?」」
他の仲間と一緒に馬を降りたあと、ウォレスはコールスに向き直り、
「見合う価値がない、と判断したからだ」
と、言った。
「確かに名前は売れ始めていたとはいえ、君を雇う前の我々は、まだまだ金が足りなかった。
探索師を雇うにしても、あまり金はかけられなかった。
だから、安い給料で働いてくれる獣人の探索師が必要だった。
……まぁ、悪くはなかったよ。君を仲間扱いしていれば、“獣人を大切にする人権派パーティ”として、我々の株も上がったからね。しかし――」
ウォレスはため息をついた。
「呪いで役立たずになったのでは、もう意味がない。
解呪するにしても、どれだけ金がかかるか見当もつかない。
だが、解呪しないまま君をクビにするわけにもいかない。
パーティのために不利益を被った者について、何の補償もせずに解雇すれば、ギルドの規約違反になるからな」
例えば、メンバーがほかの誰かを庇ってケガをした場合、ちゃんとパーティ側が治療費や賠償金を払わないといけない、と定められている。
そうでなければ、『冒険者を雇って、どんどん盾や捨て駒に使おう!使いもにならなくなったら、また補充しよう』などという悪質なパーティが出てくるからだ。
「だが、古くからの仲間でもない君のために、そんな金を使いたくはなかった。だから切り捨てたのさ」
ウォレスは平然とそう言ってのけると、コールスの方に歩き始めた。
「さて、聞きたいことはそれだけかな?」
ウォレスは持っていた槍の覆いを取ると、コールスへと穂先を向けた。
「なっ!?」
コールスは後ずさった。