第8話 冒険の始まり
鏡で移動した先は古びた教会の飾り鏡だった。陽子は行き先がわからずに不安になってあたりを見回す。
すると林道から日傘をさした女性が歩み出る。女性は驚いて目を丸くする。
「まあ! 今日もいい天気ですわね。ごきげんよう」
しどろもどろになりながらこんにちはとあいさつを返す陽子を微笑ましく見ている女性。
陽子は勇気を出して声を出す。
「あの、学術都市ってどうやっていけばいいですか?」
「それならば、私が来た道……この林道ですわね。それをまっすぐ行けばすぐですわよ」
その言葉にありがとうございますと頭を下げて礼をする。
「いえいえ、どういたしまして。困ったときは助け合いですわ。あなた……名前は何と言いますの? わたくし……ええ、フタバと申しますわ」
「ヨーコ……夢宮陽子です。フタバさんですね。改めてありがとうございます」
いい名前ですわねと笑って、ごきげんよろしゅうと陽子に別れを告げる。
彼女に言われた通り林道を進んでいると看板が見つかった。林道をまっすぐ行けばすぐのようで、陽子は安堵する。
林道はよく整備されており鳥のさえずりや風で葉が揺れる音など自然を感じられ、心地よかった。しかし、整備された割には人通りがなくそこはかとなく不穏さも感じられた。そして原因は街が目前といったところで判明する。
「おっとここを通るなら通行料で有り金と貴重品全部置いていきな、へへっ!」
賊が道を封鎖していたのである。
「嬢ちゃんこういうの初めてか?力抜けよ。変な気を起こすとぶっすりだぞ!」
「ぶっすりはいいけどよ、よく見たらあの娘、赤眼じゃねえか?」
「やりましたぜ親分!今までで一番の収穫だ!」
尻込みする陽子をよそに楽しそうに捕らぬ狸の皮算用をする三人の賊。しかし突如、一本の矢が賊の一人を射抜いた。
「てめえ!誰だ!弟分をやったのは!?今から敵討ちだからな!」
「兄者、まだ生きてます……」
木の上から黒い衣を翻し、女性が軽やかに舞い降りてきた。
「今回は生存のみだから生かしてあげる。とっととお縄につきなさい!」
「げぇ!血薔薇のローゼス!」
「親分早く逃げましょう!相手は賞金首は見かけ次第殺してくる鬼畜ですよ!」
「くっそ……そうだ、おいローゼス。これを見ろ!」
そういって、ヨーコを組み敷いて首にナイフを近づける
「動いてみろ、この小娘の首が飛ぶぜ?降参しろとは言わないしそいつは突き出していいから、俺たちの事は諦めて帰れ!」
「親分、そりゃないよ……!」
「ただでさえ卑怯なのに仲間を見捨てるなんて恥の上塗りね貴方達……!」
「おい小娘!『助けて―』とでも言ってくれよあの調子じゃ嬢ちゃんお構いなしにやっちまうぞ」
陽子は今の状況に恐怖で頭が真っ白だった。こうやって組み敷かれるのもナイフを首に近づけられるのも初めてでどうすればいいかがわからない。とその時にてにふわふわした感触……くろの感触ではっとする
「ナイフ降ろすからさ、助けてって言ってくれよ……はい降ろした。言ってくれよな」
「黒よ、意識を削れ!」
「お前なに言ってなんか頭が霞んでうおお――」
その言葉と同時に組み敷いていた賊の意識が削がれ昏倒。
「ひっ……親分が一瞬で……小娘かと思ったらとんでもない魔女……!」
それを見た、最後の一人は土下座して命乞いを始めた。
「ごめんなさい赦してください!殺すのだけは勘弁してください!」
「とりあえず三人仲良くお縄につくことね。法に裁かれるといいわ」
何処からか取り出したロープでぐるぐる巻きにしたのちにローゼスと呼ばれていた女性と目が合ってびくっと身を震わせる。捕まえた人の言うことが本当なら……もしかしたら一緒にいた私もなんていう考えが浮かんでしまう。
「大丈夫?怪我はない?」
「だ、大丈夫です……怖かったけど……」
「おかげで助かったわ。こいつら、なかなか姿を現さなかったから」
意外な言葉にえっと声を出してしまう陽子。
「私はローゼス・フルブルーム。家名は……気にしなくていいわ。貴女は?」
「えっと……夢宮陽子……ローゼスさん、よろしくお願いします」
「へぇ、その名前。夢見が丘から来たのね。街はこっちよ。こいつらを早く突き出さないとね」
えっと……回復しなくても大丈夫ですか?と心配そうに矢が刺さった賊を見る。
「ああ、大丈夫よ。出血抑える薬塗った矢を使ったから。それにしても危害加えようとした奴に気を使う必要ないわよ」
少し難しいアドバイスにうう、とすこし弱気になってしまう。
「それにしてもあなた……機転は利いていたけど、明らかに旅慣れしていないわね。最近旅を始めたの?」
「えっと……今日、かな」
「ああ……運が悪かったわね。少し旅するにはよくない時期よ」
どうして?と首をかしげる陽子に言葉を続ける。
「街では王立聖スパイアー学院で研究されている物が盗まれたって大騒ぎ。関所も封鎖されて冒険者や商人も閉じ込められてしまったってわけ。とりあえず、ギルドにこいつらを突きだしたら、街の喫茶店で話でもしましょう」
(メリーさんが言っていた問題ってこのことなのかな……)
門をくぐり学術都市にたどり着く。正面の巨大な建物が王立聖スパイアー学院だろうか?始めてくる場所に陽子は少しだけワクワクしていた。
街では衛兵があちこちで歩いており、物々しい雰囲気が漂っていた。