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第7話 旅立ちの試練

 それから一週間の間、陽子は修行に打ち込んだ。ある時はメリーと共に魔法書を読み漁った。


「闇の魔法は月の魔法でもある。月明かりは変ではあるけど闇の力を帯びた光。闇の魔法で基礎となる『ルナボルト』を練習してみて」


「わかった……こうして……えいっ!」


「悪くない。ヨーコは魔法使い。だから相手に近づかれないように離れながら戦う。その方が集中力を維持できる」


「ありがとう。距離を取りながら戦うんだね……練習してみないとね」


 またある時はランピィの指導の下、くろと一緒にゴーレム相手に実戦さながらの練習をした。


「縦振りのときはできるだけ左右に避けるのですぞ!」


「うっ、これ結構難しい……」


「どうしても避けられないときはくろの力で空間を削って一気に移動するのも手ですな」


「ありがとう。次やってみる」


 さらに、休憩時間には音楽を欠かさなかった。


「広がるような歌で拡散していくようなイメージで……」


 そして最後の日の夕方、その成果を見せる時が来た。


「お客人、今日はよろしくお願いしますぞー!」


 木刀をくるくると回しながら気さくに挨拶するランピィ。一方陽子はガチガチに固まっていた


「よ、よ、よろしくお願いします……!」


「フム、あがってますな。しばらく深呼吸をして気分を落ち着かせるといいですぞ」


 深呼吸をしてしばらくして、ようやく落ち着いた


「改めて、よろしくお願いします……でもやっぱり実戦となると怖いな……」


「大丈夫ですぞ。手加減をしますから」


「……わかった、頑張る」


「陽子が落ち着いたところで準備はいい?」


 その言葉に両者頷く。


「始め」


 真っ先に仕掛けたのはランピィ。木刀を振り上げながら陽子へと迫る。それに対して後ろに下がりながら紡いだ音で魔法弾を撃つ陽子。目前までせまり木刀が振り下ろされんというとき、


「黒よ、空間を削れ!」


 空間を削ることで一気に後ろへと距離を離す。剣相手に接近戦は不利だ。


「ほほういい引き撃ちですぞ。ですが負けませんぞー!」


 そういって木刀を横に放り投げ、今度はパチンコを取り出す。

しかし、黒の力でみるみるうちに弾の勢いを削がれ、落ちていくのをみてほうと感心する。


「見事な連携ですのぉ!それではこちらも少し気合出しますぞ」


 その言葉と共に魔法陣が陽子の後ろの地面に現れる。


「ほほほ、後ろですぞ!」


 声に振り返れば、手刀を振り下ろすランピィが肉薄していた。なんとか躱して手刀が空を切る。


「これならどうです?どこを向いても後ろを取りますぞ!」


 指パッチンと共に魔法陣が陽子を囲むように現れる。繰り返される後ろからの手刀を避ける、往なす。しかしそれも数回が限界で、次は避け切れず、何とか杖で受け止める。


「ですが、力ではこちらのほうが上! そうれ!」


 杖は弾き飛ばされ魔法陣の円のそとでからからと空しく音を響かせる。さらに運の悪いことに弾き飛ばされた衝撃でそのまま尻もちをつく。


「あっ、うそっ……」


「なかなかやりましたね。でもこれで勝負ありですぞ」


 拳を突き付けて勝利を確信するランピィ、しかしメリーがあることに気づいて声を上げる


「まだよ、ランピィ。足元をよく見て」


「ん?私の足下にお客人の影……まさかっ!?」


 何かを察したランピィが距離を取る。その隙を陽子は見逃さなかった。


「今っ!ルナボルト!」


 月光の矢がランピィに直撃。そのままダウンを取った。


「いや~やりますのお客人……私はしばらくここで眠りますぞ……ぐう」


 ふうと息をついて座り込む。そこにメリーがやってきて、


「お見事。すこし手助けしたけどランピィに勝つのはすごい」


「手助け? 足元を~っていってたこと?」


「……ええ。闇の魔法の中には影を操る魔法もある。まだ教えてないけど、ランピィはもう使えると思ってたみたい」


 それっていい事なのかなと首をかしげる陽子。


「それだけ貴女の才能を高く買ってるってことよ。とりあえず貴女はもう戦えることを証明した。今日は休んで。明日から旅を始める」


陽子は部屋へと戻り、くろと戯れる。


「くろも頑張ったねー」


 優しく抱きしめながら一緒に眠りにつく。明日からは旅になる。厳しい旅になるだろうがきっと大丈夫。


「メリー様のハッタリがあったとはいえあそこまでよく頑張りましたな」


「ええ。短い時間でよくあそこまで頑張ってくれた。でもこれからが本番」




 朝、ノックの音で目が覚める。


「ん……誰かな?」


「私。……メリー。旅の準備ができた」


 今行く、と急いで着替えて廊下に出る。

メリーと共に鏡の並ぶ廊下を歩くとある鏡の前でランピィが待っていた。


「ようこそお客人。この鏡に手を触れることで異変が起きている場所付近へと出ることができますぞ」


「うう……廃墟みたいになっているの?」


 厳しい旅になると思い、娯楽都市での光景を思いだして顔が曇る陽子に違うというように首を横に振るメリー。


「今はそこまで荒廃した場所ではないから大丈夫。ただ、問題が起きている。それを解決するのがあなたの役目」


「うん……何が起こっているの?」


「一言でいうと盗難ですな。情報を集めて盗難されたものを本来の場所に戻し、その上で異変を解決する。大変な仕事ですがお客人はこのランピィを倒したお方。きっと成し遂げられますぞ」


 ありがとう、といって鏡に触れようとしたところをメリーに止められる。


「まって。ひとつ大事なことを言っておきたい。私とランピィはあくまでこの館で後方支援に徹する。もしものことがあれば時計を介してここに連れ戻すぐらいはできるけど、それ以外は陽子、あなた自身の手で切り開かないといけない」


「う……一人は怖いな……」


「……大丈夫ですお客人。この拠点に戻れはいつでもメリー様とこのランピィがおります。それでも心配でしたら、まずは学術都市のギルドに向かうことをお勧めします。そこで仲間を募るのです」


「ありがとう……まずは、学術都市に向かえばいいんだね?」


 そうですぞと頷くランピィ。一方で何か考え事しているメリー。


「そういえば、あれがあった。ランピィ。書庫に『アルバム』があったはず。写真を入れるのに最適」


 すぐ取ってまいりますぞ~と駆け出すランピィ。


「アルバムに私たちの写真を入れる。寂しい時に写真を見れば元気になる」


「ありがとう、メリーさん!ランピィさんが戻ってきたら写真を撮ろうか」


 噂すれば影、即座に戻ってきたランピィの手にはアルバム。それにはまだ一枚も写真の入っていなかった。


「二枚目になるけど……皆で撮ろう?」


 賛同して並ぶ三人。今回はゴーレムが撮影してくれるようだ。


「トレマシタ」


「ゴーレムさんも、一週間の間ありがとうね……よしっ、アルバムに入れたよ!」


「ええ。きっと大事なものになる」


「旅立ちに乾杯ですぞ」


「それじゃあ、行ってきます」


 二人に礼をして、ここではないどこかを映す鏡に手を触れる。

これが彼女の冒険への第一歩となるのであった。

ここまでの登場人物紹介


メリー


闇の女神、メルエールの遣いだという謎の少女。


女神と同じ、銀髪でヨーコと同じ「玉眼」を持つ。




ランピィ


闇の女神の館の執事を自称する謎の仮面の男。


陽子の事をお客人と呼び、普段はひょうきんな振る舞いをしているが……?




ここまでのなぜなに


・ヨーコは魔法とは無縁?


この世界では自分の属性に適した魔法を行使することで『魔術の目覚め』というものが起き、様々な魔法を行使することができるようになるが、ヨーコはヒトの間ではほぼ失伝している闇が適正だったため、今まで魔法が使えなかった。




・音紡ぎ?


音紡ぎとはもとは複数の音楽を一つにつなぎ合わせる演奏技術だったが、


ユキ・ブリーナという吟遊詩人が何十もの歌を紡いで強力な魔法を行使する音紡ぎを作り出したことで音や歌のイメージから魔法を行使することができる戦闘用の技術としても発展していった。


呪文を介さない代わりに基本的に効果は控えめといわれているが、非常に強力であった古代魔法に近いという持論を持つ学者もいる。

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