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第76話 反撃開始

 一同はどうするか悩んでいた。あのようなものを相手に共に戦ってくれるものがいるのかということを。

 タロがいい案があると声を上げる。あの時はフタバに止められたが、聖樹で武器を作れば結晶に対抗しうる手段になるのではないかと。


「ローゼスのその武器、どうやって作ったんだい?」


 タロが指さしたのは、ローゼスの使っていた生木でできた弓。木に再び命を吹き込み、武器に加工する術を知る者をローゼスは知っていた。


「ウィンドエルフたちの魔法で枝から生きた木を作って……そういうことね。ついてきて。ウィンドエルフ達や姉様に話をしてみる」


 そう言って、タロとローゼスは学術都市につながる鏡に手を触れる。

伸びをしてサンゼンは魔族領の方に向かおうと鏡に触れる。


「さーて、俺は魔王に直談判でもするかな。拳で分かり合ったんだ。きっと、わかってくれるはずだ。」


「マスターはどうしマスか?」


「……夜の翼の発煙筒を使って教団に会って、すべてを話そうと思うの」


「わかりマシタ。私が護衛しマス」


「広いところ……サンモニカがいいかな南にいい感じの平原があったはずだから……」


「わかりマシタ」


 各々、鏡を通じて協力者を探す。

 ローゼスとタロは学術都市に。アカリとヨーコはサンモニカに。そして、サンゼンは魔族領へと向かった。


***


「ローゼス、ああ無事でよかった……! 最後にあなたに会えて本当に……」


「姉様、よく聞いて。最後にしないために、私たちは反撃に出ます」


「……話をよく聞かせてください」


 二人はパスト・イーリスにある聖樹のこと、結晶化した憎悪のこと、そして今までの旅のすべてを話した。


「わかりました。にわかに信じられませんが……風の谷に向かいましょう」


 風の谷ではウィンドエルフ達が祈りをささげていた。再び自然の理が戻るように。


「お願い、また力を貸してほしいの。この弓を作ったときのようにとある樹から武器を作りたいの」


「もう手遅れです。太陽が失われれば植物が死に絶えるのも時間の問題。風の谷に潜む魔が再び姿を現すようにもなりました」


「それでも、お願いしたいんだ。世界のため、ではなくオイラの友達のために」


 シルファも同じように協力を請う。名誉回復に尽力する、という取り付けもして。


「……わかりました。あなた達、いえヨーコ様に賭けてみましょう。私たちを許してくれた、あの子に。それで、その樹はどこに?」


「それが……」


「クアトラーダム……世界の牢獄に生える聖樹、ですか……今はもう船も出ていません。空でも飛べない限り……」


***


 一方、サンゼンは魔王に土下座して、協力を頼みこんでいたが……


「……ここまでしても、無理か?」


「ああ、無理だ。私情で魔族の軍を動かす、そのようなことは宣戦布告とみなされても仕方がない。混迷を極めている今、戦争というさらなる混沌を呼び寄せるつもりは俺にはない」


「駄目か……」


「心苦しいが、軍を動かすことはできない」


 重い空気が漂う中で子供が飛び出す。風船を取ってあげた魔族の少女だった。


「あわあわ……あの子が大事な話をしている最中に……どうしましょう……」


「ううん、行かせてあげて。あの子が、きっと空気を変えてくれるから」


 慌てるメイドと魔族の女性がこっそりと謁見の間から少女の様子を覗き見ていた。

 この女性は魔王の妻であった。


「ねえねえお父さん……このおじさん、助けてあげないの?」


「なっ……今、大事な話をしているんだ」


「お父さん、本当は助けたいんでしょ……?」


「だが、元老院が何というか……」


「じゃあ、私研究院に行ってメガスリンガー君つれてくる!」


「ま、まて! ……そうだな、サンゼン。本音では助けたいのだ。だが、魔王としては力は貸せない」


 そう言ってその場を立ち去る魔王。

うなだれるサンゼンだったが、声を掛けられる。


「お前はそこで諦める奴か? 見損なったぞ!」


「お前は……マスクド・ボタン? いや……魔王だな」


「お前は何を言っている。このオレ、最強無敵のマスクド・ボタンが手を貸そう! あの少女のためにな!」


「……話が分かるやつだと思っていたよ!」


 喜ぶサンゼンを横に謁見の間にもう一人現れる。


「その話。俺も乗っていいか」


「エリク!」


「他にも何人か、ともに戦いたいというやつがいるぞ」


 様々な魔族が集まっていた。闘技大会の勇姿を覚えている人たちだった。


「だが、海はかなり荒れていて船が出せない。これはどうするんだ?」


「とりあえず、協力を取り付けたことを知らせてくる」


***


 サンモニカ南の平原で発煙筒を焚く陽子。

すぐに飛行船は現れ、教団が迎えに来る。


「ああ、聖女様……永遠の夜が来てしまいました。我らが女神、メルエール様はご無事なのでしょうか……?」


 娯楽都市での出来事を話す。一同は驚く。女神の行動もそうだが、女神が直々に陽子を導いていたことに。


「女神の心を動かすなんて、やはりあなたはただものではない……何なりとお申し付けください」


「メリーを止めるときに力になってほしいの。そして、その翼で私の友達を助けてほしい」


 そういって、荒れ狂った海を見る。この状況では船は出せないだろう。

 しかし、天翔ける船なら――!


「発煙筒を渡しておきます 友に渡してください。すぐに参ります」


 押し付けるように四本も渡されて困惑しながらもありがとうと頭を下げる陽子。

 そんな陽子をメグたち教団は微笑ましく見守って、再び飛行船を飛ばした。


「今のは……?」


 振り向くと、懐かしい人影を見た。


「エミー! リン! シェリー!」


 夜の教団と話をしていたこと、教団が友達を助けるために力を貸してくれることを話した。


「わあ、凄いですねっ! ヨーコさん、私たちも微力ながら力になりますよ!」


「力を貸してくれる冒険者や貴族を探してみます。発煙筒を一本いただけないでしょうか」


「うん、持って行って! 三人を信じているからね!」


 アカリとともに去る陽子の背中を見送って、リンは思惑する、


「……どれぐらい集まるでしょうか」


「わかりません。でも、ヨーコさんの期待に応えませんと! 行こう! リン! シェリーさん!」


***


 一同は館に戻り、協力者たちの事について話をしていた。

 陽子が発煙筒を手渡していると、来訪者がいた。

 フタバだった。


「ランピィという方に連れられてここに来ましたわ。……なるほど、濃い夜の魔力を感じますわね。本物だった、ということでしょうね」


 フタバは陽子の方に向き直り、話を始める。


「陽子様、さきほどの話は聞きましたわ。エルフたちの魔法で聖樹の枝に命を吹き込んで武器を作るのだと。

 正直聖樹の明かりのための枝の多くを使ってヒトの魔法に賭けるなんて無謀だという声もあがるでしょう、ですがそんな意見は、私が押さえこみますわ。

 陽子様、メルエール様をお止めになるという『選択』はきっと間違ってないと、わたくしは信じていますから」


 その言葉に頷いていると、ランピィが駆け込んできた。


「時の喪失を利用して主殿の時を止めていましたが、もう限界が近いですな……今から迎え撃たないと被害が広がりますぞ!」


「発煙筒を信頼できる人に渡してきて! 私は先にメリーさんのところに向かう!」


「いえ、皆さまで向かってくださいまし。発煙筒はわたくしやランピィ様に任せて欲しいですわ」


「フタバさん、ランピィさん……ありがとう。それじゃあ、皆行こう!」


「ワタシはマスターをお守りします。これは義務ではなく、ココロからの願いデス!」


「俺はサフランシに行ってダチを集めてくる。タロ、ヨーコ達を頼んだぞ!」


 任せてよと、タロはサンゼンの肩をつかんでサムズアップで返す。

その横で珍しく祈るようにして言葉を紡ぐローゼス。


「父様、母様、そして姉様……私、頑張ります」


 陽子は杖を掲げて、決意を固める。


「友達を、そして世界を救うために!」

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