第75話 少女の選択
これまでが、陽子の追憶であった。
陽子達は異形へと姿を変えたメリーを前に立ち尽くしていた。
『終焉率いて双頭の竜は出ずる』この予言は成就し、太陽を失った世界は急速に終焉へと向かっている。
再びの光線。今度は陽子達めがけて……
「させませんぞっ!」
陽子の手を握り、立ちはだかったのはランピィであった。
メリーを助けなきゃという陽子をいつにない真剣なトーンで、主の犠牲を無駄にするつもりですかと言葉を返す。
寸でのところで光線を回避して、一同は馬車の元へと転移する。
「……さて、こうなってしまったからにはすべてをお話いたしましょう」
「メリーさんがメルエール様だったなんて……」
隠していたことに怒りを隠せなかったローゼスだが、もう終わった事、そして世界は終わるんだと思うと怒る気力もわかなかった。
「……世界の時が止まるまでにはまだ時間がありますぞ」
「でも、あんなのどうすれば……」
気が付けば馬車とともに、館にいた。
一同はランピィがどうするか見ていた。
真っ黒な液体の入った瓶を取り出し、見せた。その色は、くろにとてもよく似ていた。
「エターナル。これを使えば、あれを一撃で倒すことができますぞ」
「ちょっとまて、それは一体どういうものなんだ?」
「創造を終わらせる力。諦めと無関心の感情から生まれた魔法。そして……」
「そして?」
「くろの本来の姿です」
一同は絶句する。
そんな一同にランピィはこの中の液体は、世界を無に帰す、そんな類のものであると告げられた。
「神話に語られる物語。イーリスは大崩壊によって終焉を迎えた。それを引き起こしたのは女神メルエールです。その時に使われたのが、このエターナルです」
信じられなかった。メリーたちはずっと黙っていたのだろうか。
「そして、その物語には続きがあります。あの時のエターナルは失敗作でした。それ故、完全に消し去ることが出来ず、今もこの世界が保たれています。
失敗作でさえ、一つの大陸をたやすく二つに引き裂く……それがエターナルなのです。
……精霊の類で魔法が具現化することがあるのは知ってますかな?」
「ラサイト金山の一番下で見たやつらだよな。それがどうしたんだ?」
ランピィはくろを指さしてこういった。それはエターナルの魔法の具現化だと。
一同はそれに驚いたがそれと同時に納得して、
「……これですべてつながったわ。どの属性の流れにも属さないのも」
「『何も感じない』のも」
「様々なものに干渉して削るチカラを持つノモ」
頷いて、陽子の方へと歩みよるランピィ。
「このエターナルは成功品。もしも望むのであれば、これで消してしまえば少なくとも、世界の終焉は止められる――」
そういって、近づくランピィを強く拒絶する陽子。
「嫌だ! メリーさんだって大事な友達! だから……消すんじゃない、止めて見せる!」
しばしの沈黙。
そして、ランピィはエターナルの瓶を消して、拍手を送った。
「さすがお客人……いえ、陽子殿ですな。消すのではなく、止めて見せると……
ですが、今向かっても返り討ちに遭うだけ……」
どうすればいいのと聞く陽子。ランピィはアルバムを取り出した。
「本当にたくさん撮りましたな……」
暢気にアルバムを見ている場合とローゼスは困惑する。
「陽子殿に力を貸してくれる方々を探すのです」
「でも、このままでは世界の時間がトマルのでは?」
「時の喪失と失われた太陽はわたくしめにお任せください。
どうにかして見せます。皆様は力を貸してくれる方々を探してください!」
世界の終わりで終わりにしないために、皆は動き出した。