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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第9章 世界の牢獄クアトラーダム
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第71話 憎悪の結晶を超えて

 一同は警戒しながら長い廊下を進む。進むごとに憎悪の結晶が増えていくのを感じていた。イーリスの崩壊はここから始まったといわんばかりに。次第に廊下を埋め尽くすほどの結晶に阻まれ、横の部屋に空いた穴を通って先に進む場面もあった。そして魔術師の塔が目前にといったところで、一同は唖然とする。


「あれは、いったいなんですの……?」


「いやどう見ても結晶の塊だね? 行き止まりだから他に……」


「おい待て! ……コホン、待ってくださいまし。私の記憶ではこの先が魔術師の塔。こんなところに結晶があった記憶は……」


「何か確かめる方法はないかな?」


「マスター。コレ、オートマトンです。信号を発信しています」


 アカリの言葉に困惑する一同。結晶の塊にしか見えないそれは謁見の間で戦ったアレと同じだというのだから。


「物理的な攻撃がほとんど効かないのよね? どうやって倒そうかしら……」


「魔法は効くの? 私とフタバさんで何とかできないかな……?」


「このサイズだと、かなり強力な魔法が必要になりますわよ?」


 そのとき、ガチャガチャという結晶が擦れる音とともにオートマトンは立ち上がる。

結晶の塊がそのまま動いているとしか言えないその姿に一同は気圧される。


「う、動き出したわ!」


「お、落ち着け! おいアカリ! 防御態勢組んで後ろの三人に何とかしてもらうぞ!」


「ハ、ハイ!」


もはやオートマトンらしい腕は失われ、結晶の塊と化した腕を振り回して、タロとアカリを傷つける。


「お、おもてえ! 何だこのパワー!」


「この破壊力、トロールに比類シマス! マスター、フタバ様、ローゼス様、あまり長くはもたないかもシレマセン!」


「大丈夫!? 黒よ、傷を削れっ! 結晶そのものを削るのは槍を削ったときみたいに時間がかかりそうだし……」


「矢は効かない……植物操作もトロールの力ではたやすく……」


「私の攻撃誘導も相手が1体ではあまり有効ではありませんし……」


 手詰まりか、と皆が考えたところに陽子が何かを思い出したかのように声を上げる


「フタバさん、聖樹の明かりを使えば小さな結晶を霧散させられるって言ってたよね?」


「ええ……ですがあの規模の結晶は……」


「わかってる! でも力を合わせれば……! ローゼスさん、あのオートマトンを枯れ蔦でがんじがらめにして! そしてフタバさん! それに明かりを灯して!」


「わ、わかったわ! タロ! アカリ! 聞こえた!? 拘束して時間を稼いで!」


 タロの鎖、アカリの槍による抑え込みで動きを封じた隙を見て、ローゼスが伸ばした枯れ蔦がオートマトンに絡みつき、それを素早くナイフで自らと切り離す。


「……火を放ちますわ」


 神妙な面持ちで足元に落ちた枯れ蔦に聖樹の明かりの火を灯す。

ぱあっと緑の火柱が立つ。


「タロさん、アカリさん、離れて! 煙が広がる前にこっちに!」


「鎖が……仕方がない、すぐそっちに行くよ!」


「五人集まったから……ローゼスさん! サンクチュアリの結界で煙から皆を守って!」


 言葉に頷き、青い力場を発生させて煙から一同を守る。そして、陽子は一歩前に踏み出す。

普通の煙に混じって濃い瘴気が混じったものを感じるがそれでもお構いなしに黒をかざした。


「聖樹の明かりで燃えている間なら、黒の力で削る時間も減るはず……! 黒よ! 結晶を削れ!」


 パラパラと小さな結晶が飲み込まれていく。陽子の読みは正しかったようだ。


「けほっ……! くろ、もうひと頑張り……だから……!」


 しかし、結晶が剥がれつつあったオートマトンが急加速して陽子の元へと迫る。

伸ばした腕を切り落とさんばかりに……


「させませんわっ! 『来たれ、千差万別なる絵画』絵画結界!」


 拒絶する振舞いが描かれた絵画が間に現れて断ち切らんとする刃を受け止め、逸らす。


「これで貸しは返しましたわね! 『不埒な輩はここにいる』攻撃誘導!」


 煙が薄れ、露になったその姿を捉え、目敏くフタバは結晶が薄くなった胸部めがけて紋章をつける。

そこにアカリとタロが飛び出す。タロはグローブを取り出し、熱された自らの獲物を素早く引っ張って絡まった鎖によって転倒させ、喉元をアカリが押さえつける。


「今のうちだよ!」


「ええ、一気に決めるわ! デッドリードライブ!」


 ローゼスは素早く壁を蹴って、空中から紋章めがけて大量の矢を放つ。攻撃誘導の名は伊達ではないようで、意志を持ったかのように紋章へと攻撃は吸い寄せられていき、多くは結晶に弾かれたがある一本が結晶を砕き、残りの矢が全て突き刺さる。その後、半ば結晶化していたオートマトンは痙攣したかと思うと動作を停止した。


「結晶化してますし、もう限界を超えて稼働してたのでしょうね……少し哀れでもあります」


 せき込みながら、地面にへたり込んで頷く陽子。

それを見てフタバが慌てて陽子の元にきて薬瓶を取り出す。


「陽子様? ……結晶から出た瘴気を吸いましたのね!? これを飲んでくださいまし!」


 小瓶の薬を飲まされて、数度咳した後に血ではない、赤い液体混じりのものを吐く。


「これだけ吐き出せれば大丈夫ですわね……」


「ヨーコ! みんな無事に帰ろうっていってたのに無茶して……!」


「けほっ……ごめんね。私、こういった作戦を考えるって、あまり得意じゃないみたい……」


「いえ、陽子様の作戦のおかげで突破できましたから感謝していますわ。自分をもう少し大事にというのは事実ですが」


「これで進めるんだね? ついに魔術師の塔か……オイラちょっと楽しみだよ。何が見つかるか」


「……あまり期待に沿えないと思いますが」


 再びフタバの先導で、魔術師の塔を登り、聖域区画への道がある書斎に向かう一同であった。

少しタロはへこんでいたが。

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