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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第9章 世界の牢獄クアトラーダム
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第69話 深淵歩き

 館を離れ、さらに聖樹から離れるとき、一同はフタバに聖樹の明かりを渡されて、王城の方へ向かう。

 明かりが一本しかなかった先ほどと比べると幾分かましだが、ツンとした瘴気が濃くなっていくのを感じながら、慎重に歩を進める。

 もはやぼろぼろの白磁の城を見上げる距離まで近づいた頃、トロールがたむろしているのに気づく。


「トロールがいますわね……ですが私にお任せですわ。『何物も灯と探求心からは逃れることはできない』ファイアブランド!」


 聖樹の明かりを振ると火の波が放たれ、それがトロールを一掃する。


「すっげえ……コユキのときもすごかったがマジシャンってすごいんだな!」


「ええ、灯の一族の秘儀ですわ。一族の中でも私、一番の使い手ですのよ? あっと、皆様。結晶には近づかないように」


「おっと危ない……そして、ここが古代イーリスの……」


「左様ですわ。ここからは特に危険地帯。気配断ちができるとありがたいのですが……」


「私がやるよ。黒よ、気配を削れっ!」


「感謝しますわ。では、参りましょう」


 説明をしながら、先導するフタバ。彼女の言うには多くの防衛システムの残骸が転がる外郭区画、イーリス城跡の大半を占め、生活関連の技術の残骸が残る城区画、終末の予言を含む様々な予言が刻まれていた教会区画、そしてハディンが見つけた聖域区画の四つの区画から構成されているようだ。


「聖域区画に入るには外郭を通って、城の中央の謁見の間を通り過ぎた先にある魔術師の塔の隠し通路まで行かないといけませんわ。」


「それにしても、あちこちが結晶に阻まれているせいでまるで迷宮ね。この結晶をどかすことはしないの?」


「ええ、最初は試みました。ポーン(罪人)の方々を使って破壊したのはいいのですが……想定外の事が起きたので以降はやらない方針にしたといいますわ。もっとも、小さな結晶程度なら、聖樹の明かりを押し付ければ霧散させることができるのですが」


「じゃあさ、あの聖樹の力をそのまま使えば結晶を壊せるんじゃないかい? あの木から武器を作るとかしてさ」


 そんなタロの提案に顔をしかめてとんでもないと声を荒げるフタバ。聖樹を失えば、すなわちパスト・イーリスの破滅につながる。そのようなことをやってはいけないと強い口調で答えた。


「聖樹の明かりはどうやって作っているのかしら?樹脂を取るなんてそれこそ木を傷つけることに他ならないけど」


「落ち葉や枝をすりつぶして、精製することで取り出していますわ。本当にわずかなのでポーンの方々には配備できないのが現状ですが……落ち葉や枝には結晶をどうにかする力がありませんし……」


 説明するフタバは、ガラスを引きずるような足音を聞き止まるように呼び掛ける。


「暴走オートマトンですわね。ここは小部屋に隠れてやり過ごしましょう。」


 部屋の扉を急いで開き、一同をそこに案内すると赤い結晶を身にまとった白いオートマトンが足を引きずりながら部屋の前を通り過ぎていく。


「ワタシに似ていませんか……?」


「おそらくアカリ様は当時最新鋭の警備オートマトンだったのでしょうね。それも特別製の」


「特別製?」


「ええ、高度な独立思考を持つものを見たことがありません。正直私も驚いたくらいですよ。魔術師の近衛兵として作られた可能性だって考えられるほどですわ」


 魔術師はどんな人だったのかな、そんなことに思いをはせる陽子。


「荒れ地の小国のイーリスに膨大な繁栄をもたらしたと言われていますわ。何せ大昔の事で、発掘した書斎を調べても寝る間も惜しんで魔術の探求を行っていたぐらいしかわかりませんでしたわ」


「狂王は生きているというけど、魔術師の方はどうなのかしら?」


「そこまではさすがに……長命種だとしても四〇〇〇年以上生き続けるのは難しいのではないでしょうか? 鉱石化しているならばともかく……さて、そろそろ進みましょうか」


 扉を開けて、廊下を進む。気配断ちのおかげか、トロールはこちらに気づかずに眠りこけていた。


「起こさないようにそっと進みますわ……そろそろ謁見の間ですから、そこで休憩いたしましょう」


***


 巡回するオートマトンを避けながら、城区画を進む一同。ついに謁見の間までたどり着くことができた。扉はすでに壊れており、視界を遮ることができなかったが休憩を取るには十分な広さがあった。


「前まで壊れてませんでしたのに……! ですが、やむを得ませんわね……」


 毒々しい赤い結晶が散見される謁見の間の中心であらかじめもってきていた薪を組んで、緑の炎をともすフタバ。しかし、壊れた扉が災いして結晶を纏ったオートマトンが二体、謁見の間に入り込んできた。


「タイミングが悪いですわね……! 申し訳ありませんが、皆様の力を貸していただきます!」


 タロとアカリが前に出て、後衛を守る。動きこそは鈍くなっているが、結晶のエネルギーからくるものか、振り回す武器の重さは相当なものだった。


「くそっ、結晶が異常に硬くて通ってる気がしない……!」


「結晶は物理的な攻撃をほぼ受け付けませんわ!しっかりオートマトンの装甲を狙ってくださいまし!『不埒な輩はここにいる』攻撃誘導!」


 紋章を飛ばし、片方のオートマトンにつければタロはハッと気づく。


「ここを狙えばいいのか?助かる!」


「かなり暴れるセイで、拘束ガムズカシイですね……!」


 打撃音が響き渡る。確実にダメージが入った。タロがさらに追撃をと思った時、後ろにもう一体のオートマトンが忍び寄る。


「危ないわよ! これを……こう!」


 青いカランコエの花に念を込めて投げれば、タロを中心に結界を生み出し、オートマトンを後方に押しやった。


「一体ずつ、確実に仕留めてくださいまし! イーリスの技術を侮ってはいけませんわ!『何物も灯と探求心からは逃れることはできない』……ファイーー!?」


 枷の外れた力で束縛から逃れ、狂った機械はフタバめがけ凶刃を振り上げる。


「させないっ! 黒よ、空間を削れっ! アカリさん! もう一度抑えて!」


 陽子が引き寄せて、アカリが再び押さえつける。


「た、助かりましたわ……!今度こそ、ファイアブランド!」


 フタバの放つ炎の波が紋章に引き寄せられ、収束して熱線となり、オートマトンを穿つ。

そしてそれは、機能を停止して床に伏せる。


「威力倍増、ですわ。さああともう一体を! この場所を狙ってくださいまし! 『不埒な輩はここにいる』攻撃誘導!」


魔法弾を乱れ撃つのをアカリが受け止めながら、その背後でフタバが相手の右肩に紋章をつける。タロとローゼスがそこにめがけて攻撃を行う。そして陽子が皆の負傷を治療する。即席ではあるが、一同の連携によって、もう一体も機能を停止する。


「少人数でもなんとかなりましたわね……さすが大会優勝者といったところですわね。改めて休憩いたしましょう。今までは扉を閉めてたのですが……」


 私に任せてと、ローゼスがツタを伸ばして扉があったところにバリゲードを築いていく。


「感謝いたしますわ。陽子様。窓を開けておいてくださいまし。煙が逃げるように」


「うん! 室内でたき火するって聞いてびっくりしたけどこれなら大丈夫だよね」


 フタバが焚いた火を囲んで一同は床に腰を下ろす。

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