第6話 旅立ちの時
親は陽子を待っていた。
「お父さん、お母さん……ただいま」
「おかえりなさい陽子」
「ああ、よく帰ってきてくれた……チョウフ先生から話は聞いた。頑張ったようだな」
おそらく洞窟に行く前に話をしたのだろう。
「ねえ、お父さんお母さん……私、気になったことがあるの」
「どうしたの陽子? 何でも話してね。お母さんもお父さんも陽子の味方だからね……」
椅子に座って家族で話をする。
「私ね玉眼……らしいの」
ざわつく両親。闇を恐れず光の元で暮らすヒト、英雄の眼。様々な戯言だと思っていた夜の教団の言葉が現実となって襲い掛かってくるような気分であった。
父は黙り込んでしまった。
「……そして私、勇者に選ばれたの。もう友達をかばって契約もしてしまったから、もう避けられない……」
「昨日、上でどたばたしてたのも、もしかして……」
陽子は頷く。友達想いと、母に撫でられた。
「私、勇者なんてできるのかな……」
「大丈夫よ。陽子はみんなを幸せにできる。町の異変だって解決したじゃない」
「そうだけど……」
父親が口を開く。いつ旅に出るのかと。
「それについては、私が説明する」
謎の少女がどこからともなく現れる。
「なっ……一体どこから……!?」
そんなことはどうでもいいと冷たく返す少女は、ここから旅立つのは明日の朝と告げて消えてしまった。
取り残された陽子達は悩む。突然の別れになってしまったからだ。
どうしようと悩んでいる陽子だったが、父に今日は寝なさいと言われて、自室に行くことにした。
「……うん、おやすみなさい。」
マイも自宅に帰って、静かになった自室のベッドでくろを抱いて眠りにつく。
「くろ……私にできるかな、心配だよ……」
朝目覚めて、陽子はやはり自信がなかった。
階段を下りて、食事をとって、身支度をと思って立つと。
母にぎゅっと抱きしめられる。
「大丈夫よ。自分を信じて……」
「お母さん……ありがとう……少し、頑張ってみる」
「ええ。きっと、上手くいくわ」
優しく微笑む母が名残惜しいが行かなくては。自分なりに旅支度して、お気に入りの杖を手に取って玄関を出る。くろももちろん一緒だ。
「それじゃあ……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
謎の少女は家の外で待っていた。
「契約通り、あなたに力を与えるために拠点となる場所に連れていく」
そういって、手を握られて困惑する陽子をよそに少女は目を閉じる。
すると、空間が歪み意識が薄らいで――
「気が付いた?」
いつの間にか見知らぬ館の前の庭で横になっていた。穏やかな陽気に緊張がほぐれる。
「ここはどこ?なんだか不思議な場所」
「……女神様の館。間借りの形になるけど部屋は沢山あるから問題ない。あなたの部屋に案内する」
再び手を引かれて移動する。移動した先は華美なシャンデリアが照らす、エントランス。館自体は古いものの、掃除がしっかりとされており、さながら人形劇の中に入り込んだようなアンティークな雰囲気が漂っていた。
「わあ……とてもきれいなところ……そうだ、写真撮っておこうかな」
「そう。それならば私が撮るわ」
ありがとうと微笑んでカメラを手渡して笑顔を見せる。
「いい笑顔。ほら、撮れた」
写真に写る陽子はクラシカルな服と相まって館に住まうお嬢様のように見えた。
「ありがとう。……えっと」
「……メリー。女神の……遣い。改めてあなたの部屋に案内する」
ここはこういう部屋といった説明を聞きながらゆっくりと廊下を歩いていく。いくつかの角を曲がったところでメリーは部屋の扉を開ける。
「ここ。ここがあなたの部屋よ。欲しいものがあったら館の執事に頼んで」
綺麗と感嘆の声を上げる陽子。部屋はエントランスの雰囲気とはうってかわって落ち着いた雰囲気があった。机と椅子、ベッドにクローゼット、そして覆いを外すと姿鏡が姿を現した。
「これだけあったら十分だよ!ありがとう!」
「そう、ならしばらく休んで。庭で待っている」
しばらく休んでから、庭に行くとメリーと仮面をつけた男性らしき人物が待っていた。
「おーっと、この美少女が主が選んだ勇者様と?いやはや確かに外見は重要ですがどちらかというと物語の結末で勇者と結ばれるヒロインではありませんか?いかにも守ってあげたいそんなオーラが出ていますぞ」
「ランピィ、うるさい」
困惑する陽子をみて奇妙なテンションでべらべら喋る男を止めるメリー。
「紹介を忘れていたけど、ランピィ。この館の執事」
「えっと……よろしくお願いしますね?」
いやはや光栄です!と大喜びしたようで握手をするランピィ。
「契約の通り、あなたを鍛えてこれからの旅に備える。最低限の戦いはできるけどまだ未熟。ランピィ、魔法書を取り繕ってきて」
はいはーいただいま!と飛ぶように駆け出すランピィ。まるで台風みたいな執事だなと思いながら陽子は彼を見送っていた。
「それと……戦い以外で何かできることはある?」
優しく問いかけるメリーに、陽子は家事、炊事……とできることを少しずつ言っていたが、どれも戦うには役に立たなそうなモノばかり。次第に記憶の底へと遡り、ようやく一つ使えそうな特技があったことを思い出す。
「……音紡ぎ。触りだけだけど」
「音紡ぎ。ある吟遊詩人が作り出した、新しい詠唱スタイル。どれだけ使える?」
陽子は悩みながら返事を返す。
「えっと……歌や音をイメージして、ちょっとした魔法を行使できるぐらい。本当だったらもっと子供でも使えるようなものばかりだけど……」
ランピィが本をもって戻ってきてそれを受け取り、陽子は礼を言う。
どういたしましてと返事をしてランピィは陽子に語り掛ける。
「お客人、自分が何かをできると事に自信を持った方がいいですよ。故郷の異変を解決したのは事実ですからな」
「……ランピィ。どうしたのいきなり真面目に話して」
さて何のことやらとそそくさと退散するランピィをきょとんとした表情で陽子は再び見送った。
「……とりあえず闇の魔法から始める。私は……闇の女神の遣いだから私が教えればもっとまともに戦えるぐらいにはなるはず」
「ありがとうメリーさん、あとでランピィさんにもお礼を言わないとね」
「とりあえず、一週間の間にあなたを戦えるようにしてみせる」