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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第9章 世界の牢獄クアトラーダム
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第68話 瘴気満ちる街で

 しかし実際は想定外の状況となった。轟雷とともにあたりを覆う土煙とそれに混じるかすかな炎の匂い。土煙が晴れて姿を現したのは……


「陽子様、浄化者一人で聖樹の明かりも1本でここを渡ってくるなんて……無謀なことを致しますのね。正直意外でした。外が騒がしいので様子見に来てよかったですわ」


 聖樹の明かりを掲げたフタバであった。


「フタバさん……今のは……?」


「私、トロール相手では負けなしですの。さあ、少し遅れましたがパーティーにご招待しますわ」


「パーティー?」


「ええ。きっと気に入っていただけると思いますわ」


 どうすると目配せして皆の反応をうかがう。


「まあ……いいんじゃないの?」


 ローゼスがそう答えれば他の面々も賛成して、廃墟のような街並みを見ながらフタバの案内で街の中央に向かう。中央に近づくにつれて瘴気は薄まり、逆に清浄さすら感じさせるほどに澄んでいく。見上げれば緑に輝く大樹が街の中央にどっしりと構えていた。


「これが聖樹だよ。この木がなければ、この街も存在できないからね。とても大事なものなんだ」


「綺麗ね……こんな樹、外では見たことがないわ……」


「世界でここにしかありませんから当然ですわ。ここに馬車を置いて、館においでくださいまし。ここならトロールも近づいてこれませんわ」


「荷物やゴンがいるから、俺はここで待つ。お前たちは楽しんでくるといい」


「う……でも……」


「忘れたか? ここは世界の牢獄だぞ。罪人がどれほどいるかわかったもんじゃない」


「今回のパーティーで皆集まってますわよ? それにここでは危険ですので、マジシャン以外の単独行動は認められていませんわ」


「御者の居場所は馬車なんだがな」


 しぶしぶついてくるチェーヒロ。フタバの先導についていくとこの場所に似つかわしくない大きな館が見えてくる。


「ここが、フタバさんの館?」


「左様ですわ。皆さんお入りくださいまし」


 館に入れば様々なヒトや魔族が食えや飲めやの大騒ぎであった。皆が陽子達を見ている。


「皆様と一緒にパーティーを楽しんでくださる、特別なゲストですわ」


 館が震えるほどの歓声が上がる。ローゼスとアカリは陽子が変な奴に絡まれないように気を張りながら、フタバの案内を受けて席に座る。

 こんな場所にどうやって運んできたのかわからない、様々な食べ物飲み物が彩るテーブル。

 部屋に飾られた優美な絵の数々。

 ここにいる皆がそれを楽しんでいるように見えた。

 一同はフタバに促されるままにそれをゆっくり食べていたが、次第に違和感を抱き始める。チェーヒロの言ったように、ここは世界の牢獄。魔族の祝日というわけでもなさそうなのにも関わらず、罪人も一緒になって豪華な食事。

 これじゃあまるで……


「どうされましたの? ……お口にあいませんでした?」


「フタバさん……なんだか、変だよ。何かのお祝いでもあったの? それともこれは……」


「……皆さん、私たちは席を外しますがパーティーはまだまだ続きますわ!」


フタバに引っ張られるようにして、陽子はフタバに連れ出される。


「あっ、こら! 何するつもりなの!」


蔦で足止めして、食って掛かるローゼス。怪しい。何か隠している。それを彼女の態度で確信した。


「そんなに怒らないでくださいまし。皆さまにも来ていただきますわ」


「あー私はパス。こんな大盤振る舞いなんて珍しいし。食べれるだけ食べるよ」


「コユキ様……わかりましたわ。それでは、他の皆さんはついてきてください」


 一同はフタバについていく。鍵のかかった扉を開けてさらに階段を上って。二階に行くと先ほどまでの華やかな雰囲気はどこに行ったのか、寒々とした暗い廊下に出た。


「ここでお話いたしましょう」


 そういわれて通された部屋の椅子に座ったフタバは、寂し気に下の階の喧噪を聞く。


「……陽子様。先ほどの言葉の続きを当てて差し上げましょうか?」


 そういって、最後の晩餐みたいと言うフタバに驚いた。図星であったからだ。


「やはり、表向き明るくふるまってもわかる人にはわかってしまいますのね。

 聞きたいことが山ほどあるという顔をしてらっしゃりますが、まずは自己紹介を。わたくしはフタバ・アントルチェ。このパスト・イーリスの三大貴族の一つ、灯の一族の令嬢で、マジシャン……古代イーリスの調査をしていますわ」


 各自自己紹介をしたのちに、ローゼスが切り出す。


「単刀直入に聞くわ。あなたは世界の終わりについてどこまで知っているの?」


「予言に今の時期を現すものがありました。その後に書かれていたもの……これを見てくださいまし」


「コレハ……」


 メリーたちから聞いた予言とほぼ同じ予言、『悪狼星を手に禍解き放ち、光の塔は崩れん。星降る夜、始まりの地で終焉率い双頭の竜出ずる』と書き記されていた。


「待って、これには続きがあるの」


「……それを確認する術を取るにはもう遅いですわ。

 なので私は、この予言を発掘した数か月前に旅に出て、世界各地の絵を遺すことにしたのですわ。

 この地に縛られた人たちがせめて外の世界が見れるものをと思って」


「それで、私たちと度々出会っていたのね……私はあなたが暗躍していたと思っていたけど、あの吟遊詩人……ハディンが動いていたなんてね」


 その言葉を聞いてぴく、とフタバは小さな翼を動かす。


「……ハディン? もしかして、ハディン・スコールという名前ではありませんか?」


「チョット待ってクダサイ。ハディンを知っているのデスカ?」


「ええ。忘れることもできませんわ。唯一のクアトラーダムの釈放者。聖域区画の発見者。どうして知っていますの?」


「実は……」


 ハディン・スコールが娯楽都市で宮廷楽士をしていたこと、チームマリーゴールドのリーダーで闘技大会で星を降らせたこと、音紡ぎ『流星群』の楽譜を持っていること。今までの旅のいきさつも含めてフタバに話した。


「……予言をどうやって知ったかはあえて聞きません。ですが、前半の予言の解釈がようやくできましたわ。悪狼が星を手にした……ハディンは狼の一族所属でしたから。彼が流星群の楽譜を手にした時にすでに禍の芽が撒かれていたのでしょう。」


「ハディンの釈放はいつ?」


「一五年ほど前でしょうか。あいにくそこそこ昔の話でして。ローゼス様、どうかされました?」


「もう一つ、聞くわ。狂王の槍」


 ローゼスの言葉に、フタバが目を丸くした。


「あれは機密事項ですのに!? なぜ知ってますの!?」


「ルインメーカーが持っていたんだよ。あれを握ったときびっくりしたよ。えげつないほどの憎悪がこもっていた」


「それで、それで、その槍は……!?」


「私が削ったよ。もうこの世界にはないと思う……」


 それを聞いてほっと胸をなでおろすフタバ。


「おそらく、最初に聖域区画を発見したハディンが盗んでいったのでしょう。禍を引き起こすために……」


 ぐっとこぶしを握り締めるローゼス。自分があの時すべてを失ったのはハディンの暗躍のせいかもしれないと思うと、許せなかったのだ。自分だけでなく他に犠牲になった集落の分の怒りもこもっていた。


「ローゼス様、因縁がおありですのね。彼は共鳴現象を抱えていましたからね。おそらく狂王にそそのかされたのでしょう。そして今もその声に従って活動をしていると思いますわ」


「共鳴現象? 声が聞こえるようになるって奴か?」


「左様ですわ」


「狂王ってもう神話の時代の奴じゃなかったかな? オイラ、そんなのが生きているとは思えないんだけど……」


「残念ながら、生きていますわ。ほぼ鉱石となっていますが、その強い念はいまだに瘴気を介して共鳴現象として干渉してくるほどにはいまだに強いですわ」


 皆の会話を聞いて、ある事に気づくアカリ。狂王をどうにかしないと、第二のハディンが生まれないかと。

 頷いて、言葉を続けるフタバ。


「左様ですわ。なので、狂王の槍を何とか出来たあなた方と取引がしたいのです」


 陽子は取引という言葉に首をかしげる、


「ええ、取引ですわ。危険ですので、気が進みませんが……聖域区画にある賢者の石の間の狂王を槍のように削っていただけませんか?」


 何か危ないものがいるかのような言い方ねと、ローゼスは答える。


「逆にどこが危険でないか、と言いたいところですわね。結晶化した憎悪があちこちにありますから。

 この地の赤い瘴気の濃縮されたようなもので、悪感情の増幅が非常に激しいのです。それに、トロール以外にも、結晶化して暴走したオートマトンが跋扈していているので。

 他の方々に悟られないように護衛の浄化者もつれていけませんし……発掘済みのところを通っていくとはいえ、あなた達に負担を強いることになりますわ……」


「それで、あなたは私たちに何を与えてくれるの? その危険に見合うだけの物なのかしら?」


「私たちからはこれを開けることができるのは鍵の一族だけですので、見せるだけになりますが……」


 そういって、数字が光る奇妙な板が張り付いた箱を見せるフタバ。

 中には古ぼけたスクロールが入っていた。

 それに陽子が反応する。


「あっ! これって……!」


「左様ですわ。音紡ぎ『虹』……かつては七色と称された伝説の音紡ぎの一節。

 いかなる攻撃も跳ねのける強固な障壁を発生させる……と聞きましたわ。完全とはいきませんが、流星群への対抗手段にはなるでしょう。

 私の望みをかなえたか否かにかかわらずやっていただけるならこれをお渡しいたしますわ」


「危なそうだけど、ここに来た目的と交換なら、やるしかないよな……?」


「うん……私たちに何ができるかはわからないけど、行こう。そして今度は皆無事に帰ろう」


 陽子の言葉に頷く一同。それを見てフタバは小さく微笑んだ。


「感謝しますわ。ここの窓からロープを降ろしますのでそこから抜け出しますわよ。」


「俺はパーティーに戻っていいか? あいにく戦うことはできないのでな」


「構いませんわ。私たちのことは、うまいことごまかしておいてくださいまし」


 チェーヒロと別れて、パーティーが続く裏でこっそり抜け出して、一同は聖域区画があるイーリス王城跡に向かう。

パストイーリスの貴族

狼の一族、灯の一族、鍵の一族の3つの血筋によって統治されている。

フタバは灯の一族の令嬢。

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