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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第9章 世界の牢獄クアトラーダム
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第67話 明かりを灯して

 次の日、まずはどこから手を付けるかを考えながら街を歩く。


「フタバさんはもうクアトラーダムに行っちゃったよね……? どうすればいいか、魔王様にまた話してみる?」


「おいおいヨーコ。魔王様は便利屋じゃないんだぞ。太鼓判見せれば兵舎ぐらいは立ち寄れるかもしれないな。こっちだよ」


 タロの先導で魔王軍の兵舎前に来ると黒衣を纏った魔族……妖狐の少女に声をかけられた。


「チームアイリスとチーム野ばらのリーダーがそろい踏み、何をしに来たの?」


 ローゼスは警戒する。その黒衣が浄化者のものだったから。そんな視線に全く動じずに自分は浄化者のコユキであると自己紹介をする。


「浄化者ならクアトラーダムに詳しいのかな? 私たち、パスト・イーリスに行きたいんだけど……」


「タイミングが悪かったね。浄化者の大半を連れた、護衛馬車が向かった後だから次は来月だよ。来月が来るかも怪しいけどさっ!」


「な、なんだよ縁起悪いこというなよ……! オイラ達、今すぐ向かいたいんだ……!」


「ふーん、それじゃあさ。私を連れてってよ。『聖樹の明かり』ならあるしさ」


 聞いたことない物の名前が出てどういうものか気になるといった表情をする一同。


「あー、外のましてやヒトじゃ知るはずもないか。パスト・イーリスに生える聖樹の樹脂を混ぜ込んだ特殊な松明だよ。緑の炎が瘴気を中和するから罪人でもない限り、これを荷車に掲げとかないとあそこを通るのは許可されてないよ」


 聖樹の明かり。これがあれば瘴気満ちるクアトラーダムを突破できるのかもしれない。どうすると一同が顔を見合わせる。


「怪しいと思ってる? こう見えて、本物の浄化者だよ。他とはちょっと違うけどね」


 そういって、棒を取り出すと先端に少女の頭の二回りは大きい氷塊が生成される。打ち付ける頭には複雑な模様が刻まれている。タロはまじまじとそれを見ている。


「オイラの異能は闘技大会のときのインタビューで知ってるね? オイラが握って本物の浄化者の武器か確認していいかい?」


 いいよと手渡されて握ると確かに本物だ。打ち付けることで烙印を刻み込むその武器はかなりシンプルに見えるが、叩きつければ氷塊は砕けてしまう。砕けた破片が食い込むため、破壊力は高いが耐久性が心配だ。取り出したときの氷塊が生成されるのを見るに、コユキの持つ能力に沿って作られた一振りなのだろうと納得して彼女に武器を返した。


「どうだった?」


「本物の浄化者だよ。それも、結構な手慣れだと思う。専用の武器を用意されるぐらいだから」


「それじゃあ、来月まで護衛馬車を待つか私を連れていくか選んで」


「うん、それじゃあコユキさん、一緒に来てもらっていいかな? 私はヨーコ。よろしくね」


「よろしくっ! みんなの馬車はどこ? 早く行こう?」


 水を得た魚のように元気はつらつとして歩いていこうとするのをアカリは物資を買うのが先だと制止した。


「底なしの悪意が相手だもんね。準備したくなるのもわかるよ。荷物持ちぐらいは手伝うから早く終わらせよう!」


 準備を終えたのち、チェーヒロの待つ馬車に戻る。


「やれやれ、またうるさそうなのを連れてきたな。生きて地獄に行くとは思わなかったな。まあいい。出発するぞ」


 聖樹の明かりを馬車に括り付け、衛兵に許可を取って破れた門を通る。すこしツンとする赤い瘴気が広がる薄暗い荒野。この世の地獄、クアトラーダムが眼前に広がっていた。


***


 明かりのおかげか、時折黒い人影がさまよっているのを見るだけで旅は順調だった。コユキは馬車の上にのって何かを探すように終始きょろきょろしていた。


「ナニを探しているのデスか?」


「トロールだよトロール! いくらでも狩ってもいいって、マジシャンに言われたから!」


「なんだか……変わってるね。コユキさんって」


「そうかなー? 私からみたらヨーコの方が変わってると思うな。そんな考え方で旅なんてできないと思うよ普通は」


「はあ……元気ね。緩和されているはずなのにこの瘴気はツンとしてて嫌になるわ……」


「大丈夫? イライラしてない? 幻聴はない? 甘い物食べて横になったほうがいいよ」


 やや真剣なトーンでそういわれてローゼスはたじろぐ。


「……幻聴で何かまずいことでもあるの?」


「『手遅れ』になった罪人はみんな言うんだ。声が聞こえるって。私の知る限りそういってパスト・イーリスを飛び出して帰ってきたのは一人だけだからね」


「オ、オイオイ……手遅れってなんだよ」


「うーん、ひーみつっ。多分皆大丈夫だと思うし……あっ!」


 声を上げたと思えば、馬車の前に飛び出すコユキ。瘴気の奥から六体のトロールが現れる。


「シャンク種とオウガ種が1体ずつ、スプリットしてるからちょっと骨が折れるね。支援ぐらいはしてよね!」


「どう見ても数があってないんだが!?」


 タロの制止もお構いなしにコユキは赤髪のトロールめがけて駆け出す。横なぎのハンマーの一撃を受けると六体のうち二体は霞となって消えた。


「えっ」


「トロールって、分身できるんだよね。本物そっくりで傷つけることもできるけどほんとは見せかけだから烙印さえ押せばこの通り……っと、その手には乗らないよ!」


 烙印を付けられ、氷片で傷だらけになったトロールはフーフーとわけのわからぬことを言いながら命乞いのようなしぐさをするが、コユキは叩き続ける。


「命乞いしてるしもうやめてあげたほうが……」


「何言ってるの? トロールの異名は底なしの悪意だよ! これだってどうせフリなんだから動かなくなるまで叩きのめさないと!」


 もう一方のトロールの群れがコユキの背後に立ってこん棒を振り上げる。喉元に矢が突き刺さり、ギャババと悲鳴を上げてのたうち回る。


「気をつけなさいよ! 今支援しなきゃ後ろから殴られてたわよ!」


「わかってるって! ありがとうね! 次は……こいつ!」


 脛を強打して痛みで屈んだ頭に振り下ろす。コユキはトロールに全く容赦しなかった。


「ふふ、すっきりした! 最近は首都での警備ばかりだったから鬱憤たまってたんだよね! やっぱりこのぶったたく感触がないと楽しくないね! 最後は……どっかーんと!」


その言葉と同時に雷が二体のトロールに落ちて、跡形もなく消えてしまった。


「……浄化者ってみんなそんな感じなのかな。ちょっと怖いかも」


「私ぐらいだと思うよ。楽しんでいるのは。パスト・イーリスは娯楽も少ないしね」


「やれやれ、やっぱりうるさかったな。ゴンも雷にビビって足止めてしまった。ほら、行け」


 戸惑いながらも歩を進めるゴンとそれに牽かれる馬車。再びトロールに襲われないか心配しながらも、トロールを退けたことで一安心する一同。


「トロールって、何なのかしら? 分身とかできるくせに知性が残っているとは思えないんだけど」


「あれはああいうものだと思った方がいいよ。ワイトもだけど、理解しようとしちゃダメ」


「ワイト? ああいう黒い人影のこと?」


「そうだね。トロールと違って害はそれほどないけど本質は近いから。理解しようとした奴から手遅れになっていったよ」


「声が聞こえる……って奴か。誰の声なんだい?」


「みんな揃って王っていうんだ。アイツがそういって消えて数日後に聖域区画見つけて帰ってきたときはびっくりしたなぁ」


 そういえば一人だけ、その状態になっても帰ってきた者がいたという話を思い出して、陽子が誰の事かと聞こうとするとコユキに制止される。


「魔人協定でクアトラーダムから釈放された者は罪を償ったとして、無罪放免とするという決まりがあってね。その決まりには収容者がクアトラーダムに送られたことを口外してはならないってのもあるんだ。だから私からは言えない。情報の伝達の許可されているのはクアトラーダムの実質的な管理者……パスト・イーリスの貴族。彼らに聞いてみるしかないね」


「パスト・イーリスの貴族ってなんでこんな危険なところに住んでいるのかな……?」


「単純にイーリスの技術の発掘のためデハ?」


「アカリ、正解。賢者の石を筆頭として優れた技術を有していたっていうからね。もの好きが大量の資材と人材を犠牲にしながら聖樹の元にたどり着いたんだ。今となっては聖樹の明かりと浄化者がいれば安全に渡れるけど、昔は百の兵とともに向かってたどり着くのは五人とかざらだったからね。罪人は今も明かり無しだから大変だろうね」


「それならあちこちに死体がごろごろしてるはず……だけど見ないわね。変だと思わない?」


「……そう? トロールあたりが巣に持ち帰ってでもしてるんじゃない?」


 彼女の発言に何か違和感を感じたのが、藪蛇でとんでもないことを言い出しそうな気がしたのでローゼスは黙っていることにした。


「うーん、そろそろ着くころかな?ほのかに瘴気が中和されている。聖樹が近いってことだよ。……あーついてない。みんな馬車から出て。戦闘態勢。」


 先ほどのトロール……その倍以上はいる群れが立ちふさがっていた。トロールたちの聞くに堪えない咆哮で戦いが始まると誰もが思った。


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