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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第9章 世界の牢獄クアトラーダム
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第65話 タロの直談判

 ギルドで褒賞を受け取っても浮かない表情のローゼス。何かつっかえるところがあるようだ。


(なんか、違和感を感じるのはなぜかしら? 光の……時計塔……?)


 ローゼスははっとする。もしかして光の塔とはあの時計塔のことで最初から集光塔の事ではなかったのではないかと。


「ローゼスさん? どうしたの?」


「実はね……」


 その違和感について話すと皆複雑そうな表情をしてこれからどうするかを考えるために館に戻ろうと、陽子は提案する。


「そうね……さっそく……ってあの時の宿、まだ部屋開いているかしら……?」


 そんな心配事とともに戻ってみると給仕のおばちゃんが迎えてくれた。


「あんたたち! 久しぶりじゃない! 部屋は綺麗にしてあるからね」


「あ、ありがとうございます……えっと宿代は……」


「それがね、聞いてよ! 仮面被った男の方がオートマトンつれた黒髪の女の子にって言って数か月分ぐらいのお代を置いて出て行ったキリなのよ! あの仮面の下は結構イケメンじゃないかしらと思うんだけどね、また会いたいわ」


 仮面の男、おそらくランピィの事だろうと。それを知ってひと安心する一同。

しかし、アカリが魔王への報告が先では?といって皆思い出した。


「……トロールの騒ぎで完全に忘れていたわね」


「とりあえずいこっか」


「そうだな。危うく太鼓判じゃなくて大目玉食らうところだったよ」


 うまく言ったわねと少し朗らかな空気になって引き返す。


「思ったんだけど、私たちが貢献者だっていったらタロも通してくれないかな?」


「……やってみる価値はあるかしら。タロもそれでいい?」


「ああ、いいよ。早速行こう!」


 城門前に来ると兵士が止めてくる。


「太鼓判を持つなら謁見は可能だが、今はトロールの騒ぎで魔王様は機嫌が悪い。やめておいた方がいいぞ。それと今は一般人の入城は禁止されている」


「それなんだけど……ルインメーカーの件で報告に来たの。彼も貢献したから一緒に通してあげられないかしら?」


「……いいだろう。ただし、武器防具すべてこちらが一度預かる。それでもかまわないな?」


「うん。構わないよ」


「それじゃあ、持ち物検査を行う」


 すると出るわ出るわ珍妙な武器防具の数々。全部自作なんだといって兵士たちを困惑させたこと以外は問題なく通行許可が出た。かつて通ったルートで魔王城を移動していく。


「やっぱりなんだかみんな慌ただしいわね。あんなことがあったから当然だけど」


 謁見の間の近くへと行くと何かが聞こえてくる。


「はい……ではそのような処遇で――」


「よい。新天地でもその腕を振るうように」


 謁見の間のそばまで行くとタロニアンが歩いてくる。


「! かーちゃん! どうしてここに!」


「タロ! どうしてここに!」


「家族……デスか?」


「ヤム・デ・リシャスといいます。あなた達は?」


 どう言おうかと思っていたローゼスに割り込むように友達だよと答える陽子。


「まあ、素敵なお友達ですね」


「でもかーちゃん、本当にどうしてここに……」


「実はね、第二研究院に左遷されることになったのよ。でも、これでいつでも会えるわよ」


「ちょっと待って! 左遷?」


「ルインメーカーとトロールの件でご立腹でね……ゴーレムが機能しなかったことを咎められたの」


 ルインメーカーは死体だった。ゴーレムが機能するはずがないのだ。


「おいら、直談判してくる! 左遷なんかさせたりさせない!」


「あっ……まあ、なんてこと! タロを止めてあげてください!」


「わ、わかったわ! タロ! 待ちなさい!」

 

 追いかけるローゼス。

 しかしすでに、魔王の元にタロはいた。


「一般の魔族は入れなかったはずだが。俺に何の用だ」


「かーちゃんの……ヤム・デ・リシャスの左遷を取り消して欲しいんだ!」


「何の権利があって、そのようなことを?」


「……っ、オイラのかーちゃんだからだ!」


「親が子を案じるように、子もまた親を案じるか」


 その時、陽子達もタロに追いつく。


「お前たちは……何の用だ」


「ルインメーカーは、滅びました。集光塔も無事です」


「……そうか。いい知らせだ。だが、あらかじめ撃退できていれば関所が破壊されることはなかったはずだ。それについてはどう思う?」


 ルインメーカーと思われていた存在は死体であったこと、本体の狂王の槍は既に存在しないこと、モノリスのおかげで時間稼ぎができてタロニアンの里が滅ぶの遅らせて、結果的に塔と里、両方守ることができたこと。判断材料になりそうなことをできるだけ言っていった。


「死体を動かすほどの強大なアーティファクト、興味深いが無くなったならば仕方がない。だが、事情も分かった。チャンスを与えようでないか。兵士たちよ、アレを持って来い」


「はい……」


 取りに行く背中には哀愁が漂っていた。何を持ってくるつもりなのだろうか。それからしばらくして金属製のかかしともう一つハンマーが持って来られた。


「それは『巨人砕き』という、俺の武具の中で最も重い武器だ。これを振るって、この鉄カカシを破壊して見せよ。見事成し遂げたら左遷は取り消してもよい。やってみるか?」


「やらせていただきます!」


「いい心がけだ。腰をいわすなよ」


 緊張した面立ちでハンマーに触れる。呪いの類はなく、純粋に重い物質で作られただけのようだ。その程度ならば、タロにとっては鍛冶屋のハンマーと同じようなものだった。軽々と鉄カカシに横なぎの一撃を加えて粉砕したのち、バトンのごとくぐるぐると回してから背中に収めた。

 それを魔王は興味深々に見ていた。


「見事なり。約束通り、ヤム・デ・リシャスの左遷は取り消そう」


「ありがとうございます!」


「そして、話に聞いたところルインメーカー討伐の貢献者であるようだな。あの塔は皆が思っている以上に大事な塔である。あれを守った功績をたたえて魔王の太鼓判を授けようでないか」


 タロの前に銀のブローチが現れる。そしてタロはそれを身に着けた。


「これでオイラも……!」


「左様。今日はこちらで客室を用意するのでそこで眠るといい」


 その申し出をサンゼンが心配だから、とやんわりと断る。事情を察したのかそれ以上の言及はなく、もう行ってよいと陽子たちを見送ったのであった。

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