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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第9章 世界の牢獄クアトラーダム
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第64話 トロールの襲撃

 楽しかった里の観光は瞬く間に時が過ぎてゆき、気が付けば夜。食事を里の食堂で食べて、昼よりも賑やかになった里を通って、鍛冶屋に戻る一同。


「いやあ、うまかった……ホワイトデビルの肉ってあんなうまかったんだな」


「本当は夜の里も見てほしかったけど……ヒトは夜寝るんだってね」


「ふわぁ……そうね、タロにチェーヒロ。昼間に連れまわして悪かったわ」


「なーに、更かしは得意だから! それにタロニアンは昼に活動することも多いから大丈夫!」


「年を取ったら昼も夜も似たようなものだ」


「今日一日だけだったけど、楽しかったね。お土産も買えたし……」


 そういって杖に括りつけられた鉱石のお守りを見て微笑む陽子。それ以外にも集光塔を守ったということでいろんなものをもらったのであった。


「ホワイトデビルの毛皮結構な値段で売れたのが大きかったわね。ヒトの通貨と同じものが使えるのは不思議だけど、かなり価値があるものなのかしら」


「ここは寒冷地だ。あの毛皮はこういう地で重宝する」


「それもソウデスね。物資も補充シマシタし、明日出発デスね」


「ああ」


「わりいが、俺は館でまた療養だ。タロ、頼んだぞ」


 各々が館で眠りにつき、次の日となる。療養に戻ったサンゼン除く一同は里の人々に見送られて出発した。


「夜にはセレネギアに着く。ホワイトデビルも革を吊るしているから寄ってこないだろう」


「行きのときよりも暖かくて快適になったね」


「この毛皮、ふかふかだからね。防寒性が高いのよ」


 その後の旅路は順調だった。関所では復興作業が始まっており、兵士やゴーレムが慌ただしく働いており、少し休憩したのち、再出発した。その後も、何かに襲われるということはなく、もう王都は目前まで迫っていた。


「……で、もうすぐだね。ローゼスさん、大丈夫?」


「ん……仮眠取っていたから大丈夫。今は眠くないわ」


「魔王様に会ってオイラの活躍を話したら、もしかしたら太鼓判も……」


「さあ。でも案外あるかもしれない」


「ああ、でも魔王に会うには謁見の許可をもらわなきゃ……」


「ついたぞ。太鼓判持ってるなら招待なくとも謁見できるだろう。坊主は……まあがんばれ」


「私たちも何か考えてみるから、ね?」


「ありがとうヨーコ。じゃあ行こうか夜のセレネギアに!」


「そんなに意気込まなくても…… とりあえず、魔王への報告ね。タロは待ってもらうことになるかしら?」


「一人ダト危ない可能性ガありマス。私はタロ様と一緒にお待ちしマス」


「こっち側は初めてだね……あれは……時計塔?」


「夜はああやって明るく照らされるから『光の時計塔』なんて言われてるよ」


「そうなの……」


 その時だった。激しい爆発音。しばらくして、照らされていた時計塔の明かりが消え、振動とともに崩れ出す。あちこちで響く悲鳴、駆け出す兵士。陽子達も急いで時計塔の方向へと向かった。そこにいたのはフーフーと鼻を鳴らして、兵士を飽きたおもちゃのように投げ捨てる巨大な怪物だった。

 タロはその魔獣を知っていた。それは、トロール。


「……すごい力の持ち主で一撃で金属の盾がひしゃげるって、サンゼンが言っていた奴よね?」


「つまり、距離を取って戦えト? 槍のモジュールで押さえつけが不可能。かなり困難だと思われマス」


 衛兵が冒険者であるとみなして、一同に避難か援護を頼む。


(オイラ正直やりあいたくないな……でもここで活躍できればカッコイイかもしれない…!)


 どうすると、皆に聞くローゼス。金属の盾を一発でだめにするようなの相手にはさすがのローゼスも二の足を踏んでいた。


「いや、一緒に戦おう。逃げて被害が広がったなんてなったら曾祖父が草葉の影で泣くに決まってる!」


「わかりました!浄化者(ピュリファイアー)が来るまでどうか持ちこたえてください! 盾兵、前進! 掴まれないように盾を壊されたらすぐに撤退を!」


「傷の治療は任せて!」


 陽子が杖を構えると同時にトロールもギャイーと咆哮を上げて街燈を引っこ抜いて握りしめる。


「あんなあっさりと引っこ抜くなんて……遠距離武器作っていたらなあ……!」


「ワタシは魔法銃がありマスが、これはかく乱用デス……!」


 トロールの囲むように陣を貼る盾兵の裏からタロとアカリは様子をうかがう。正直、この場の誰もがトロールを相手したことがない。


「包囲しました!」


「では、撃て!」


 一斉に浴びせられる矢と魔法。もちろんローゼスも一緒になって矢を放つ。攻撃を受けて暴れ始める。横なぎで兵士二人が壁に叩きつけられる。


「おい大丈夫か! 急いで下がれ! 衛生兵、治療を早く! せめて動きが遅ければ……!」


「それなら私が! 黒よ勢いを削れ!」


 ただでさえとろいトロール。動きは止まったかのように遅くなる。


「動きが止まったぞ! もう一度撃て!」


 浴びせられる攻撃。要らないとばかりに街燈を投げ捨て地面を叩くトロール。地面のレンガが散弾のようにまき散らされる!


「うわっ、避けきれ……!」


「アブナイ!」


 アカリの盾で事なきを得て胸をなでおろす。


「トロールって何か弱点がないのかしら……?」


「いかにも。私がトロール対策のスペシャリスト、浄化者だが」


 颯爽と現れた黒衣の男。その両手には魔法銃が握られている。


「それは……魔法銃?」


「パスト・イーリス特製でね、トロールの弱点となる烙印を付与することができるのだよ」


「説明はいいので、早くお願いします!」


「ここはお前の居場所ではない!」


 魔法銃によって撃ち抜かれたトロール。撃たれたところを急いで隠すトロール。


「何も起こらない……?」


「いいや、皆離れろ! でっかいのが来るぞー!」


皆が急いで距離を取ったその瞬間、轟雷がトロールの体を貫き、トロールは倒れた。


「すっげえ……浄化者ってマジでカッコイイ……」


「ありがとうございます浄化者様、そして冒険者も礼を言う。褒賞があるのであとでギルドに向かうように」


「え、ええ…… ほぼあの浄化者とやらがやったようなものなんだけど……」


 あたりを見回す。すると常識を逸脱したかのような重厚で巨大な扉が破られているではないか。奥からは赤い瘴気が漏れ出してきているのを感じた。


「あの先ハ……?」


「クアトラーダムだよ。関わり合いになりたくないから早くギルドに行こう」

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