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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第8章 輝きの塔と狂王の槍
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第61話 ルインメーカー

 その姿を見て、信じられなかった。それは、明らかに事切れていたからだ。はじめは驚きが、その次は怒りが、そして最後には悲しみが堰を切ったかのように溢れ出してきた。そして無意識のうちにナイフを取り出して、何度もその事切れた体に突き刺し続けた。


「返して……返してよお!! おとうさんを! おかあさんを! みんなを! 壊すだけ壊して、死んでいたなんて……わたしはなんのためにいきてきたの……! 返して! 返して!」


「……やめろローゼス……もう……死んでいるんだそれは……だから…もう、やめるんだ……」


 諭すようにサンゼンがそう言って、ローゼスのナイフの握る腕を握る。


「お願い……せめて復讐させて……私は、そのためだけに生きてきたのに……こんな…こんなことって……」


 その手を振り払いながらそういって、深く胸にナイフを突き刺す。

 すると、ロザリオの鎖がちぎれてロザリオが裏返る。そこには「イザベラ」と刻まれていた。


「うそ……そんなことって……イザ、ベラ……さん……」


 ナイフを手放して蹲って泣き始めるローゼス。自分が大好きだったシスターの亡骸に刃を突き立てていたこと、そして今まで気づくことができなかったことを後悔した。


「ローゼス……さん……」


 そんなローゼスを恐怖半分悲しみ半分で見つめる陽子。自分は無力だ。今までこんな重たい気持ちをずっと抱えたままだったことに気づけなかったなんて。あの時の抱擁も、気休めにすらなってなかったのだろうと。


「くそっ……重い過去ってかっこいいって思ってたけど、実際目にするとな……」


 タロも現実を知って頭を抱える。そんな中、アカリだけは何が起きているのかきょとんとしていた。


「ナニが起こっているのデスか……?」


「……準備しておいてよかったな。これで『見える』はずだ」


 そういって、サンゼンはリースを亡骸の首にかける。その時、タロが危ないと叫ぶ。とっさにローゼスを突き飛ばすサンゼン。大槍が体をかすめる。


(なん、だ……体に力が……)


突っ伏すサンゼン。悲鳴を上げる陽子。そして茫然自失のローゼス。それらを前に、槍を手に、ゆらりと立ち上がる痛々しい傷が刻まれた骸。


「おいアカリ! みんなを守れ! あいつヤバイ!」


タロの言葉にハッとして、盾を構えて突き飛ばす。リースのおかげで、ルインメーカーの事を検知することができた。サンゼンのもしもの備えのおかげだった。これで少なくとも、三人は槍の射程外になった。

槍による薙ぎ払いを受け止める。 すると、障壁が掻き消えて展開ができなくなってしまう。


「一体ナニガ……! マスター! 二人を安全なトコロに!」


「……わかった。くろ、空間を削って!」


 槍に持ち替えたアカリが相手の槍の先端を地面に押さえ込んでいるうちに、サンゼンとローゼスの二人の手を握っての瞬間移動して、安全圏へと移動して自分はタロとアカリの元へと戻る。

 今は動けない二人を除いた三人で立ち向かわなければならない。この廃墟作り(ルインメーカー)と。


「くそっ、なんて日だ! 思った以上のバケモノじゃないか!」


「勝算はありマスか?」


「駄目だ! でも、やれるだけやるしかない! 物理的なものをできるだけ使うんだ!」


 双陽棍を素早く取り出し、突撃をかます。何度も、その体に鉄球をたたきつける。

拘束が解けての乱舞。アカリの持つエネルギーの槍がかき消され、ただの棒となってしまう


「……! ソレデモ……!」


 棒になっても武器は武器だ。二人で必死になって槍を弾く。


(アレが武器なら、せめて掴むことができれば……!)


「黒よ、勢いを削れ! あれ…効いてない!?」


 力を行使するが、乱舞の勢いは弱まらない。乱舞終わっての一突きを空間を削って二人を引き寄せて回避させる。


「サンキュ、直観だけどあの槍はヤバイ。異能持ちだからわかる。でも詳しくはわからない」


「ドウシマスカ…?」


「とりあえず、槍だ。槍を対象に行動を起こすんだ。あの切っ先は食らうなよ!」


「わかった。 黒よ、勢いを削れ! ……効いた!」


 それに合わせて、鉄球を外してフレイルのようにして槍めがけて鎖を振り回す。

タロは鎖でぐるぐる巻きになったそれを握った。戦慄した。


(何だこの底なしのどす黒い感情……!? 嫉妬、悪意、羨望、高慢……これは……憎悪か!)


「タロ! 大丈夫!?」


「ヨーコ! これを……この槍だ! これが、廃墟作り(ルインメーカー)の本体だ! 削れ! 削ってくれ! 本当の意味で俺が俺でなくなる前に!」


「……黒よ、槍を……槍の存在を削れ!」


 暴れようとがたがたと震える槍を必死に抑え込むタロ。切っ先を再展開された槍で抑え続けるアカリ。時間こそかかるが少しずつその槍の存在が削られていく。


「もっと早く……できないのか!」


 破壊的な感情が次第にタロを蝕み始める。


(壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい)


「今が限界……! あと少し……!」

 

 さらなる殺戮衝動がタロの心を塗りつぶしていく。


(コロスコロスコロスコロスコロスコロス)


「マスター、タロサマ…! 頑張ってクダサイ…!」


 赤く結晶化した切っ先迄くろが飲み込み、存在を削り切るとようやくその破壊的な感情は霧散し、タロはその場に座り込む。


「はあ……はあ……これで……何とか……なったのか?」


「そう……デスカ? マスター?」


 その場にいない陽子を心配するアカリであったが、先ほど避難させた二人の元にいた。


「黒よ、傷を削れ! 黒よ、傷を削れ! どうして効かないの……?」


 サンゼンの治療をしているようだが、傷口はなくなっているものの、意識が戻らない。

横に座っているローゼスはちぎれたロザリオを手にして虚ろな目で俯いているだけだった。


「集光塔は守れたけど……あまり達成感が無いね……里に帰ろう」


「……帰るって、あのモノリス地帯をまた抜けるの?」


「いや、最上層に下層への転送装置がある。ここでしか使われてない最先端技術なんだ。」


「……そっか。二人を誰かお願い」


 アカリが頷いてサンゼンとローゼスを背負う。帰りはあっさりしたものだったが、空気は重たかった。

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