第5話 温泉洞窟
「温泉洞窟からゴブリン……これは調べなければならないな。それに魔獣というのも気になるな……よし、私が調査してこよう」
陽子の報告を聞いて、チョウフ先生は獲物の刀を手にして町に出る。
チョウフ先生なら大丈夫と思って、自分の役目は終わりかなと思い終わったよと懐中時計に語り掛けてみる。
『本当にこれで終わりだと思っている? あなたも洞窟に行くのよ』
「う……私、自信ないなあ……」
『契約したからには、最後までやってもらう。手抜きは、許さない』
「う、うう……」
懐中時計が跳ねるかと思うような圧にいやいやながら、自分も洞窟に向かう。
ゴブリンと戦うのかな、嫌だなと思いながらだがランタンを手に、洞窟の入り口にたどり着いた。
洞窟の道は整備されており、ランタンなどに照らされた道はそう危ないものでもなく、ゴブリンもいなかった。
そろそろ温泉かな、といったところの横道で閉鎖されている洞窟深部への柵が壊れているのを発見した。
雑な破壊からして、ゴブリンや魔獣がやったものなのだろう。
調査した冒険者によると特に危険なものはないとの事だったが、ランタンで照らしながら慎重に前に進む。
「ギャギッ!?」
「わっ、ご、ごめんねっ!」
足元の不注意でのびていたゴブリンを踏んづけてしまった。
気絶したゴブリンがいるということはチョウフ先生は既に先に進んでいるのだろう。
少し広い場所に出たが、ゴブリンは一掃されていた。
「先生はどこまで進んでいるんだろう……」
ランタン片手に奥に進みながら、そんなことを考えていると戦闘音が奥から聞こえてくる。
壁の裂け目から、娯楽都市で見たあの魔獣が見えた。回り込めば奥にたどり着ける。
急いで奥に向かう。
「くっ……ぬかったか……! 援軍を呼ぶにもこいつを放置するわけには……!」
チョウフは片膝ついて、魔獣を見据えている。
魔獣の片角を両断したのは良かったが、その後に暴れるのを避けきれずに傷を負っていた。
片角を失ってから攻撃が激しくなった気もする。
蹄で踏みつけようとするのを避ける。
「この傷で戦い続けるのは危険だが、死力を尽くしてでも奴を……!」
そんなことを考えているところに陽子が駆けつけてくる。
「先生!」
「ヨーコ! ダメだ! こいつは危険だ!」
「先生こそ、そんな傷で戦ったらだめだよ! 『黒よ、傷を削れ!』」
チョウフの負った傷から粒子が飛び出してくろへと飲み飲まれていく。
「その力はそんなことも……とにかく、助かる。後方支援でいいからな。前に出ては駄目だぞ」
「は、はい……!」
魔獣が角で突きあげるのを刀で往なしながら、すれ違いざまに切る。
常に魔獣の意識が自分に向くように、陽子に気を遣っていた。
おかげで陽子も戦いやすく、ルナボルトを何度も撃ち込んだ。
しかし魔獣が後ろ足でチョウフを蹴り上げて、壁に叩きつけて陽子の方へと近づいてくる。
「く、黒よっ、勢いを削れ……!」
ゆっくりになっても迫ってくる。
「うう、どうすれば……」
ふと、思い出す。
『戦いで重要なのは『心の力』と『活力』だ。それらが欠けると心が挫けて戦いを続けられなくなる』
それが魔獣も同じだとしたら……
「これだ……!『黒よ、活力を削れ』!」
ありったけに念を込めてくろに命じる。すると大量の粒子が飛び出して吸い込まれていく。
そして、弱った隙に、魔法を撃ち込む。
魔獣はついに倒れた。
先生の手当をしていると、懐中時計から声がする。
『……及第点。勇者としてやっていける事をあなたは証明した』
それにどう言葉を返せばいいのかわからなかった。元々勇者になることに気が進まなかったからだ。
『修行を積まないと冒険は難しい。これからの戦いは今回の比ではない』
少女の言葉をを聞きながら手当を続ける。おそらく無理といっても、勇者も修行もすることになるのだろう。
それが契約なのだから。
「ヨーコ、大丈夫か? 一緒に町に帰ろう」
「その前に寄っていきたいところがあるんです。森の前で別れてもいいですか?」
「夜だからあまり好ましくないな。ついていこう」
「わかりました……出てきてくれるかな」
二人でぬんの森に訪れ、例の茂みの前に行くと一匹ぬんがいた。
「えっと……もう、ゴブリンがいじめてくることはないと思うから……」
「ぬ? ありがとうだぬ。みんなに伝えておくんだぬ」
チョウフが呆れたように頭を掻いて、これだけかと聞く。
「これだけ……ぬんがゴブリンのこと教えてくれたから」
「……そうか」
今度こそ町に戻り、陽子は家に帰る。