第58話 集光塔第二層・モノリスの木立
一同が入ろうとしたその瞬間、雷鳴のような音とともに、門よりも高い場所にあるモノリスが起動して光線を放つ。
あたりを見て見ると黒焦げになったコウモリがそばに転がっているのをみて、タロが憐みの目でそれを見つめていた。
「あー……飛行生物やよじ登る奴対策のモノリスとはいえ、かわいそうに。モノリスに近づくとこうだ。
まあ、ここのは歩いていれば素通りできるし、仮に当たっても皆は一発で即死ってことはないだろうけどかなり痛いぞ」
えらく物騒なもので防衛しているのね、とローゼスが言う。
それだけ、人との共存というのを大事に思っているのだろうと、サンゼンが答える。
「ソウイエバ、どうやってメンテナンスなどをしているのデスか?」
「あれは一回置いたらもうメンテナンスできないよ。壊して置きなおすしかない」
本当に物騒なモノリスに眉をひそめるローゼス。これを突破しないといけないのならば、対処法を知っておきたくて、タロにどうすればいいかを質問する。
「ある程度近づくと空気が震える感じがするからわかるはずだよ。あとは照射準備が始まっても、すぐにその場を離れることができればギリギリ避けられる。小走り程度じゃ間に合わないけどね。それで、サンゼンはなにしてるんだい?」
「ちょっとここら辺のがれきをと思ってな……よし、集めたぞ」
塔に入った一同が目にしたのは緑あふれるロビーだった。
「思ったより平和ね。まあ次の層が本番なのだろうけど」
「そうでもないぞ。見ろよこの階段」
サンゼンが指さした先には埋没した階段。これでは上には行けない。
「なにこれ! これじゃあ上に行けないじゃない! そういえばこのレバーは?」
「ああ、それが最初の仕掛けだよ。正しい順番でレバ―を倒して階段を出すんだ」
順番を間違えるとどうなるのと、陽子は首をかしげる。
「階段を出すのが面倒になるぞ。でも、何もない状態での階段の出し方はオイラ覚えているから心配しないでくれ」
そういって手際よくレバーを引いていくタロ。上がって下がって、また上がる。
最終的に全ての階段が現れ、先に進めるようになった。
「こんなもんだよ! さあ、先に進もう」
「ありがとうねタロさんっ。この先は何が……わぁ」
陽子が目にしたのは高い天井。林立するモノリスに阻まれた迷宮だった。
ローゼスは見上げてタロに問う。この塔は何層なのかと。
「さっきのロビーも含めて五層だ。モノリス区画は三層あって、目標の集光コアがあるのが五層だ」
しかし進もうにも空気が震える感覚をその身で感じて、サンゼンは二の足を踏む。
「ここはしゃがんで這うように行くんだよ。知らなきゃわからないだろ? オイラもやらかしたことある」
と、タロは先導するように這って先に進む。一同も同じように這うようにして最初のモノリスを突破しようとするが、陽子が困ったようにしているのに気づいて、ローゼスが振り返る。
「ヨーコ? どうしたの?」
「あー……えっと……私ちょっと這うのが苦手で……」
「あ、あー……わかったわ。これにつかまって。」
『おっきい』せいで這うのが苦手なようだ。理解したローゼスは、しゅるりと蔦を陽子の元に伸ばし、引き寄せる。
「ありがとう、ローゼスさん。……あのモノリスはなにかな? ここからだと近づけない場所にあるけど……」
「あれはおそらく、飛んで強行突破するのを阻止するためのモノリスね。あっ、気を付けて。そこの足元」
足元がよく見えない陽子がカチと、スイッチを踏んでしまった。
壁から何か出てきた。詠唱器。いわば魔法を自動で詠唱するタレットだ。もちろん魔法弾でこちらを攻撃してくる。
「ひゃっ!? ごめんなさいー!」
「とりあえず逃げるぞ!」
「マスター! サンゼン様! 止まってクダサイ!」
アカリにそう言われて、二人はモノリスの照射範囲のぎりぎり手前で止まる。危うく光線を照射されるところだった。
タロが腕を組んで考える。
「性質悪いよな。詠唱器による攻撃から逃れようと前に逃げるとモノリスがあるんだ」
「魔法弾を削れ! 後ろは大丈夫! 横の階段から上の段差に行けるね。ここは迂回すればいいのかな?」
「そうね。 ここを登れば詠唱器の射線も通らなくなるし。足元に気を付けましょう。」
階段を昇ると、細い通路のずっと先に上への階段があるのが見えた。
「アレが次への階段デスね。ココと奥の凹みにベルが吊るされてマスね」
それを見てサンゼンはどうするか考えていた。ベルを無視して通るのはできない。道が細く、人一人分しかないからだ。
「ここはダーツトラップだよ。ベルの近くを通って鳴らしてしまうとダーツを放ってくるんだ。まずはオイラが手本を」
タロが通るとベルが鳴ると同時に放たれるダーツ。かけぬけて、横のくぼみに入って避ける。
しかし、くぼみにもベルが設置されており、定期的にダーツを放ってくる。
ダーツを見送り、通路へと戻るとそのままトラップのところまで行って段差を登ってこっちこっちと手を振る。
しかしアカリはこのようなことを提案した。
「……こんな面倒なことしなくてもワタシが盾を構えていれば、ダーツトラップ程度突破できるのデハ?」
「素直に登っていくと時間が無くなりそうだしな。ちょっとベル鳴らすから受け止められるか試してみてくれ」
リン、となると同時に放たれたダーツは構えられたアカリの盾に止められる。
許容量だと答えるアカリにサンゼンはガッツポーズする。
「よーし! このまま進もうぜ! ヨーコ!落ちるなよ!」
「うん……わかった。アカリさん、お願いね」
「ハイ、マスター」
アカリが先頭になってまっすぐ並んで通路を突破する。それぞれ段差を登る。
「電撃ダーツ、オイラ提案だったのに……あっさりと突破されると悔しいものがあるな」
ごめんねと謝る陽子だったが、ローゼスはルインメーカーに先を越されたら本末転倒よとタロを説得する。
「ぐぬぬ……それもそうか。行こう。次も仕掛け満載だから気を付けよう」
ベルとダーツの組み合わせ、今度は後ろから撃たれる形になっており、急いで降りないといけないようだ。さらにその奥にはモノリスもあり、再び這って動かないとならない。
「デハ、私がダーツトラップの前に立つので、皆さんサキに向かってクダサイ」
「おう! 助かるぜアカリ! どうしたローゼス?」
「先にモノリスの先に向かって私が引っ張るわ。這って移動する時間も少なくて済むでしょ?」
そういって軽い身のこなしで先に向かうと蔦を一同がいるところまで伸ばす。これを握れば引っ張ってくれるとのことだ。
「……いい連携だな本当に。オイラのパーティーも悪くないと思ってたんだけど」
無事に突破して次の層の階段にたどり着いた。
「この調子でいけば間に合いそうかしら?」
そうだねと時計を見て陽子が答える。
その時塔が揺れた。塔自体が攻撃されているのだろう。急がなくてはいけない。
一同は次の階層への階段を登るのであった。




