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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第8章 輝きの塔と狂王の槍
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第57話 タロニアンのタロ

 陽子達を迎えたのはいくらか損壊はあれど、いまだ平和な村だった。

タロと名乗った、あの選手と似たような姿をした魔族が慌ただしくぽてぽてと歩いていたのだ。


「お客さんだ! 遠かっただろ。でも、悪いときに来たね。さっき襲撃があって復興中だよ」


 これに驚いたのはローゼス。いくつもルインメーカーに滅ぼされた集落を見てきたので、襲われてなお健在な集落っていうのは初めて見た。


「姉さん、なんか驚いた顔をしているね。ここは重要防衛ポイントだからね。魔王軍の精鋭が防衛を務めているんだ。あのエリクだって務めていたことあるんだ」


 どうして重要防衛ポイントなのと陽子が首をかしげる。

 この魔族の言うには、集光塔とは太陽の光から、光の魔力を集める施設なのだという。

 かつて闇に潜んで暮らしていた魔族が、今こうやってヒトと大して変わらない生活ができ、ヒトと交渉できる程度には共存できるようになったのは、光の魔力を照明などから経由して取り込んでいるおかげなのだと。

 もしこの塔が崩れるようなことがあれば、再び魔獣のように闇に潜んで暮らすしかなくなる。

 それ故、集光施設を守るように、外部にも内部にも仕掛けがされて、防衛隊が配備されているというのだ。

 その時、バチィと雷鳴に似た轟音が鳴り響き、爆発音が続く。


「ああっ! またモノリスがっ! 再配備大変なのに!」


 魔族が頭を抱える。

 ローゼスが、なぜ自分たちはここに来たのかを説明する。


「私たちはルインメーカーを追って、ここに来たの。今暴れているのはルインメーカー……槍を持ったシスターで構わないのかしら?」


 魔族は頷いて、こうも話してくれた。


「魔力が集まっているところに無秩序に襲撃しているみたいなんだ。だから、街よりも先に、モノリスを狙っているんだろう。待機中のモノリスが内包する魔力はすごいからな」


 モノリスがみんなを守ったのかな、と陽子は首をかしげる。

 それにアカリは頷き、サンゼンは頭を掻く。


「そうかもしれないデスね。モノリス自体が機能しなくても、こうやって守ってくれたのデスか」


「魔王様からの命でこっちに来るように言われたんだ。ルインメーカーがまだ暴れているなら、止めなければならない」


 魔族はサンゼンの言葉にうーんと唸って、ある提案をする。


「そうだ、それならうちの息子を連れて行くといい。見習いだが、集光塔の修理をいくらか手伝っているから、仕掛けを解くのに役に立つはずだよ」


 そういわれてハンマーの音が鳴り響く、鍛冶屋に通される。

 一同は、そこで思わぬ出会いをすることになる。


「おーい、タロ。お客様だぞ」


「分かったよ親父。って君たちは!?」


 そこにいたのはチーム野ばらのリーダー、タロであった。

 見知った顔を見て、にっと笑うサンゼンに、怪我が無事に治ってよかったと安堵する陽子。

 

「ほらタロ。自己紹介しなさい。変な言い回しはせずに」


 もう闘技大会の時に自己紹介はしてもらったから大丈夫と、ローゼスは答える。


「闘技大会……もう忘れさせようと思ってたんだが、仕方がない」


 もう一度英雄になるチャンスが欲しいと願うタロに、

 父親は集光塔で活躍できたのならばと、少し悩みながらも承諾してくれた。

 こうして一時的だが新しい仲間が陽子達に加わったのだった。


「塔に急ぎマショウ。魔力に反応して襲い掛かっているトイウコトハ、日が昇ると集光塔ニ向かう可能性ガ高いデス」


 それもそうだが、とサンゼンはアカリを止める。


「休みなしで大丈夫か? 少し心配だ。特にローゼス。もう寝てる時間だろ?」


 大丈夫とローゼスは言うが、復讐の事を考えているのもあってか、少し気が立っているようなそぶりだった。

 その様子を見て、無理してそうだと心配する陽子。

 会話を聞いていたタロは、ふっふっふと笑いながら何かを持ってきた。これは何と聞く陽子によく聞いてくれたとばかりに笑顔になって答える。


「これはヌポ茶ベースにオイラが作ったスペシャルドリンクだ。『スーパーヌポ』って名付けているんだ。徹昼したいときとかにこれをグイっと飲んで、シャキっとさせるんだ! 効果は実証済みだからさあさあ!」


 といっても、ヌポ茶に栄養ドリンクとタロのお気に入りの木の実を干したやつ(レーズンみたいなもの)を混ぜてはちみつで調整しただけの物なのだが。

これ大丈夫なのと心配そうにするローゼスと陽子をよそにグイっと飲み干すサンゼン。


「くっ……キクなこれは……でも確かに、眠気と疲れが吹っ飛ぶな」


「そうだろう! そういう思いっきりいい兄さんみたいなの、オイラ嫌いじゃないぞ!」


 それを見て飲み始める二人。苦い。苦いのに甘い。それでも頑張って、底に沈んでいた木の実まで飲み干すと、確かに力が湧いてくるような気がした。


「……ありがとう。これなら今夜は戦える」


「へへっ、姉さんも頑張ってたな!」


 ローゼスにサムズアップするタロ。

 顔をしかめて苦かったと答える陽子に、タロはこんなことを言った。


「リリちゃんが一番頑張ったな」


 どういう経緯でついたかわからないあだ名に首をかしげる陽子。


「ほら、闘技場で……」


 といわれて初心夢魔(ピュアリリス)からとったのだと気づくと、顔を真っ赤にしてその話はやめてー!と叫ぶ陽子。陽子なりにあれはかなり恥ずかしかったのだろう。


「そ、そんな叫ぶほど嫌だったのか……じゃあよろしくなヨーコ」


「う、うん……私こそ叫んじゃってごめん……夜なのに」


「なあに、魔族は夜が本番だから。みんな行こう! 集光塔へ!」



集光塔へと一同はお互いを知るために話をしながら向かっていた。


「改めて、オイラはタロニアンのタロ・デ・リシャスだ。タロって呼んでくれよ」


「おう、よろしくな。俺はサンゼン。まあ、見ての通りスティックメンだ」


 ちょっと軽くジャブ撃ってくれよとタロが興味津々にしているのを見て、こうか?とサンゼンはジャブを撃つ。それを見て感心する。


「剣でついた時のような風切り音。全身が武器のような体を持つヒトがいるって聞いたけど本当だったんだな」


「おうよ、魔法はてんでだめだけどな。で、こっちの金髪がローゼスで黒髪がヨーコだ。そういえばローゼスの方は異能を持っているんだったな。何て名前だったか?」


 そんなものはないと答えるローゼスに、タロはもったいないと答える。異能ならもっとかっこよくないと、とも。

 それを聞いてローゼスは少し困ったようにこう答える。


「もう血薔薇で名前が通ってる今となってはもう意味はないけど、無名のときに悪目立ちするとライバルに潰されやすいのよ。影薄く、堅実に成果を積み立てていくのよ」


「冒険者? って難しいんだな……そういえばヨーコも異能持ちなのか?」


「私? 私は違うよ。でも玉眼なの……不思議な力はこの子が持っているの」


 そう言いながら、くろを撫でる陽子に、タロは悔しいようなうらやましいような感情を吐露する。


「玉眼ってことは、ヒトだった……ってことか!? 夜の教団が言ってた通りなら、本物の英雄じゃん! ヨーコ、かっこよすぎるだろ!」


 夜の教団の活動範囲は二つの大陸中に及んでいるようだ。


「玉眼って不思議な力を使えるのが普通なのか? ――サキュバスだと俺も思ってたからさ」


 その言葉に反応して首根っこ掴むローゼスにビビったのか、そういう意味じゃなくて!とじたばたして降ろしてもらったタロが続ける。


「闇の魔力が濃いからさ……オイラなんかよりもずっと」


「闇の女神の祝福を受けているから、ってクイックシルバーの人に教えてもらったな」


「ヨーコ、クイックシルバーにまで乗ったことがあるのか…どうだった?」


「うーん……気が付いたらって感じだし、割と忙しく色々していたからあんまりどうだったっていうのは感じる余裕はなかったかも。あっ、でも乗ってる人たちと酒場で話したけど皆優しかったよ。そういえば……これももらったっけ。」


 そういって発煙筒を見せる。

 それは陽子が、聖女の務めを下りて皆と再会する前に悩みを打ち明けた時、メグという巫女から力を貸すからと渡されたものであった。


「夜の翼の発煙筒!? これを焚けば夜の教団がやってくるっていう……」


「だって、聖女のお仕事をしてたし……」


 それを聞いてローゼスは少し冷めた目でそんなことしてたんだ、と陽子に言う。

 あの時を思い出して、あの時ランピィさん来てくれなかったら……と俯く。


「ランピィ? 誰だい?」


 長くなりそうだからルインメーカーをどうにかした後に話すとローゼスが答える。


「そうか……とりあえず、ついたぞ!」


 たどり着いたそこは、防衛隊が守る、重厚な門によって閉ざされていた。ランタンをかざすと壁は純白だった。

 陽子達はその白さには見覚えがあった。というより、アカリの白さと同じ、イーリスセラミックの色だ。

 タロが言うには、三年前の改修でイーリスセラミックに置き換えられたのだという。


「ルインメーカーの討伐を魔王に頼まれた、通してくれないかしら?」


 防衛隊の兵士たちは頷くと、集光塔の門を開ける。

 指さして、タロは早く行こうとせっつく。活躍して見せると意気込んでいるようだ。

 それを心配して、ローゼスは空回りしないようにと注意する。

 果たして、陽子達は日が昇るその時までに塔の最上部まで行けるだろうか?

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