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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第7章 百花繚乱、闘技大会
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第49話 死闘!マスクド・ボタン

「ここにきてまさかのダークホース! 前大会覇者を破り、マスクド・ボタンに挑むは初心夢魔(ピュアリリス)率いるチーム、アイリス!」


 そんな実況の声と共にアリーナに入れば大歓声が上がる。

 特に野郎の歓声がすさまじい。


「流石に、マスクド・ボタンでもあの顔に傷つけたら怒るかんな!」


「ヨーコちゃんこっち向いて―!」


「どっちも頑張れー!」


 様々な歓声が飛び交う中で、

 アリーナでマスクをかぶった大男と対峙する一同。

 すると、彼は天を仰ぎ声を上げる。


「みんなー! よく聞け―!」


 しんと、静まり返る会場。


「この頃、国を騒がせていた誘拐事件を起こしていた不届き者は、この無敵のマスクド・ボタンが正義の鉄槌を下した! もう安心していいぞ! 奴らの卑劣な企みは必ず打ち砕く!」


その言葉にざわつく会場。そして次第にそれは再びの歓声となる。


「まじか、流石ボタンだ……」


「延期している間に解決するなんてすげえ!」


「そして! チームアイリス! 正々堂々と勝負だ! まずは、リーダーの少女よ! 観客たちにアピールして見せるのだ! パフォーマンスも勝負のうちだ!」


 ローゼスに誘惑するのよ、と耳打ちをされて背を押される。

 誘惑しろといっても、思い浮かばない。


「大丈夫か! 息を吸って吐いて、落ち着いてアピールをするんだ! さあさあ!」


 ボタンにも心配されて、頭の中が真っ白になる。

 そんななかとっさに、思い浮かんだのは、投げキッスだった。


「あのっ、あのっ……お、応援してください……ね?」


 静かになる観客席。

 やってしまった。そう思って俯こうとしたその時、あふれんばかりの大歓声。


「俺だ! 俺に投げキッスしたんだ!」


「ちげーよ! 俺だ俺!」


「いや、私に対してですね」


「なんだと!」


「やるかジジイ!」


「こいつの全部持ってけ!」


 誰に向けた投げキッスだったかであちこちで乱闘が始まり、騒然とした観客たちにマスクド・ボタンは喝をいれて叫ぶ。


「お前ら! 教えてやろう、あの投げキッスは……俺へだ!」


 ボタンがいうならしょうがねえやと笑いながら、次第に落ち着きを取り戻し、再び歓声を送る。


「さて、パフォーマンスは終わった。にわかに信じがたいが、リーダーの少女よ、凄いぞ! さて……ここからは、力と力のぶつかり合いだ! さあ、構えよ。そしてどこからでもかかってこい!」


「う、うん……よろしくお願いしまず……」


 すうと、深呼吸。


「よしっ、行くよ! 皆!」


 お互いが構えるのと同時に試合開始のゴングが鳴る。


「試合開始! 早速スティックメンが仕掛ける! その素早い連打をボタンが避ける! 躱す! さすがボタン、見事な身のこなしです! ボタンもやられてばかりではありません、ストレートによる見事なカウンター! スティックメンも素早く受け身を取る! ボタンに負けず劣らずの素早い身のこなし!」


「詠唱するボタンに対し、妨害といわんばかりに矢継ぎ早に矢が放たれます。しかしそこはボタン。その鍛え上げられた肉体の前では矢による妨害にびくともせずに詠唱を続けています」


「あれはボタンお得意の『ファイアボール』! 初歩的な技だからこそ、その威力は使用者の実力に大きく左右されます!

上級魔法を使わず、あえてその魔力から放たれる高威力の下級魔法で力を見せつける! 今、放たれた! 味方を守るためにオートマトンのタンクが盾で受け止める! 一撃で障壁が割れた!」


「リーダーの少女の献身もあり、まだ戦線は崩壊してませんが解説のジョンさん。いかがでしょうか?」


「正直、チームアイリスは絶望しているのではないのでしょうか。エリクを破った実力を持つのにも関わらず、ボタンに有効打をいまだ与えられてないのですから。ですが、そこはチームアイリス。圧倒的強者の『個』に対して信頼を築いている『仲間』と共にどこまでやれるか、楽しみです。それに……ボリーさんだって楽しんでいるのでしょう?」


「はい、もちろんです! 頑張れっ、そこっ、そこだー!」


「ボリーさん、楽しみ過ぎです。ちゃんと実況してください」


大盛り上がりの闘技場。試合が始まったばかりだというのに歓声があちこちから上がっている。


***


「くそっ……やっぱアイツつええな…! やることはわかりやすい…いや、『わかりやすくしている』が、その威力も速度もけた違いすぎて、対処が間に合わねえ!」


「あの体どうなっているの? まるで歯が立たないわ!」


「……かなり危機的状況デハ? あの火球一発で障壁が割れました。予選のあの魔法弾よりはるかに強力デス。あの感じですと他の攻撃も受け止められるのは展開につき一回だけカト」


 陽子達は早速苦境に立たされていた。幸い、傷は削っていて皆ほぼ無傷だ。

だが、エリクですら有効打が与えられていただろう時間戦っていてもこちらが一方的に消耗するだけだった。陽子とくろ二人がかりで傷を削り続けて何とか維持していた。


「皆、諦めちゃだめだよ! 次は何とか避けて! 隙を作ったら、私が勢いを削るから!」


 そんな陽子の必死の鼓舞に一同は再び奮い立つ。


「おう! 今度こそは何とかしのいで見せる! これは……ワンツーアッパーか、今だ!」


 後退して避けた直後、サンゼンのいたところに陽子の目には見えないほどの高速の連撃が放たれる。

 その直後、陽子足元からの異音を感じ取り避ける。直後、そこには氷の柱が生えていた。直撃したらひとたまりもなかっただろう。

 その直後、追い打ちをかけようとするボタン。

 素早くアカリが前に出て、さらに足止めするため、ローゼスの放った閃光種があたりを明るく照らす。

 そのとき一瞬見えた、腕で閃光から身を守りこちらを見ていないボタンの姿。

 その隙を陽子は見逃さなかった。


「黒よ! 勢いを『削れ』!」


「ぬうう! なんとキョーレツな減速……! だが、このボタンの前にはこれしき……!」


 一瞬スローモーションになったが、ボタンは再び加速する。


「ヨーコ、よくやった! だが、思ったより効いていないな。それでも……!」


 陽子でも視認できるほどとなった、フックを軽やかに躱すサンゼン。


「ようやく、仕掛けられる! ノーザンライト!」


 鋼鉄の拳から繰り出されるストレートはいくら鍛え上げたボタンといえども、響くものだったらしい。

 始めてボタンに与えた有効打。

 陽子達を応援する歓声がわあっと大きくなる。


「やるな、スティックメンの男よ! だがこのマスクド・ボタンをなめてもらっては困るな!」


 減速しているとは思えない速度でサンゼンをつかみ、ローゼスがいる方向へとぶん投げる。

 ローゼスは跳躍でなんとか回避するが、それを見越したかのような魔法攻撃を受けて撃ち落とされる。


「くそっ、減速しててもあのスピード! ローゼス! 大丈夫か!」


「ええ…なんとか。ヨーコ! なんとしても勢いを削った状態を維持するのよ!」


「わかった! くろ、勢いを削るのをお願いね。でも先に……黒よ、傷を削れ!」


 その後、襲い来るボタンの地面を抉る手刀。減速してなお、見てからだとギリギリの速さ。

 そんなボタンに、必至になって陽子達は食らいつくのであった。


***


「大興奮ですね。実況のボリーさん」


「そりゃあもちろん! チームガーベラの時もすごかったですがチームアイリス、見事な連携でボタンの持ち味であるスピードを削ぎましたからね!」


「しかし、ボタンも減速を補うために気合で加速しています。その膨大な体力の前ではそれもどれほど効果があるか、といったところです」


 観客たちは大盛り上がりだった。陽子の応援を込めて賭けた金が化けるかもしれないというアイリスに賭けた客と、旧来からのボタンのファン。エリクを倒したチームがどこまでやれるか見てみたいリンドウに賭けていた客。ただ純粋にエンターテイメントを楽しむもの。魔族のるつぼと呼ばれるこの都市を表すかの様に十人十色であった。

 そしてそのすべてが、陽子達とボタンの一挙一動に一喜一憂するのだった。


「負けるな―!」


「危ないぞ! よけろー!」


「勝ってくれ頼む!!」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。

 そしてそんな声は、実況席からも響いていた。実況のボリーだ。


「ああっと危ない! やれっ! そこだ! そこだー!」


「……やれやれ、では私が代わりまして実況を――」


***


「なんとか……戦えているな。」


 陽子から傷の手当を受けながら、そう言葉を漏らすサンゼン。

 迫るボタンの正拳突きをアカリが受け止め、障壁の力をうまく使って推し返す。

 そして、反撃といわんばかりにローゼスが矢を浴びせる。


「魔法の構えよ! ヨーコ! サンゼン!」


 ローゼスの言葉を聞いて駆けだす二人。直後、爆炎の剛速球が地面を焦がす。あれは本当にファイアボールなのだろうか、別の何かではないのだろうかと陽子は肝を冷やす。


「くらいやがれ!『ブレイク』!」


 駆けだしたそのままの勢いで、サンゼンはボタンの顔面目掛けて拳を握る。しかし、その拳はかわされた。

 その後の乱撃でもボタンは体の攻撃を受けても顔の攻撃“だけ”はしっかりと避けているのだ。

 まるで顔に攻撃を受けたくないかの様に。


(顔……マスク…もしかしたら!)


 再び力と力がぶつかり合う。衝撃を殺しきれず、吹っ飛んで地面を転がるサンゼン。


「くそっ……皆…アイツ……マスクが弱点だ! どうにかしてマスクに攻撃を当てるんだ!」


「わ、わかったよ! でも、減速してもあんなに速いのにどうやったらあてられるのかな?」


 それを聞いて、ローゼスが何かを言おうとしたが、その隙を突いたボタンの攻撃が発言を許さなかった。

 壁に叩きつけられ、力なくうなだれるローゼス。


「ぐっ、うう……痛い……でも……残念だったわね。『アイビートラップ』」


 そう言って指を鳴らす。

 するとボタンの足下に散らばっていた種が一斉に芽吹き大量の蔦がボタンに絡みつく。


「ぬ、ぬおおお……! だが、これしき!」


 ぶちぶちと力任せに引きちぎっていくボタン。しかしそれこそが大きな隙だった。


「ルナボルト!」


 月光の矢がボタンの顔面、マスクを捉えたのだ。

 どよめく観客たち。実は大会が始まって以来、誰もマスクド・ボタンの素顔を見た者はいないのだ。

 もしかしたら素顔が見れるかもしれないと、注視する。

 多少破けたが、そこから覗かせるものだけでは素顔はわからなかった。

 しかし、少し破けたことに気づいてボタンは大声で笑う。


「は……はっはっは! このボタンがここまで追いつめられるとはな! だが……」


 まだばらすわけにはいかないなと、陽子に向けて放たれる魔法弾。かばったアカリ諸共、吹っ飛ばす大爆発。

 ざわめく観客。陽子の安否が心配なもの、ボタンが勝ったと喜ぶもの、小さいながらもボタンにブーイングを送るもの様々だった。


「ヨ、ヨーコ! アカリ! 大丈夫か! くそっ……!」


「スティックメンよ。お前はまだ立てるのか? オレとお前、どちらが最後に立っているか試そうじゃないか」


 そういって、向かい合う二人。


「一騎打ちか……ああ! やってやる! この熱情鉄拳、サンゼンの、ヒトの意地を見せてやる!」


「サンゼン、かつて終焉の星戦争でグランツィル同盟軍の一人として英雄的戦果を挙げた男。……強者であるお前との一騎打ちができること。光栄に思うぞ!」


 お互いの渾身の一撃を放つ。その衝撃で空気が震えた。

 しんとする観客。どっちが勝った?そんな声があちこちから漏れる。


「くそっ……皆……」


 サンゼンが先に膝をつく。

 しかし、その後にズシンとなにかが倒れる音。ボタンだった。


「見事だ……このボタンを打ち倒したこと、誇るがいい……」


 試合終了のゴングが鳴る。

 大歓声の中、よろめきながら立ち上がり、サンゼンは勝鬨(かちどき)をあげた。


「試合終了……試合終了! なんとチームアイリス、マスクド・ボタンをも打倒しました! すごい! すごいぞ! チームアイリス!」


「解説のジョンさん! そんなこと言っている場合じゃないでしょう! 初心夢魔が!」


「ボリーさん。我々は個人的に賭けることはあっても、あくまで立場上は中立。確かに彼女たちが心配ではありますが、ここはチームアイリスの勝利を、マスクド・ボタンの健闘を讃えましょう。」


「……そうですね。では、次の試合でお会いしましょう。実況のボリーと」


「解説のジョンでした」

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