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第4話 森にて

 ぬんの森へと歩いていくなかでも、陽子はぬんを見かけた。しかし構ってほしそうに近寄ってくるのでもなく、むしろ人を避けて動いているように見えた。


「ぬんってこんなによそよそしい感じだったっけ……もっと人懐っこいというか、こうやって歩いているだけでもこっちを見て様子を見てきたと思うんだけど……」


 そんなぬんの動きに首をかしげながら、陽子はぬんの森に足を踏み入れる。

 この森は実り豊かで、夢見が丘の人々も薬草やキノコなどを採りによく来る場所であった。ほどほどに伐採や採取をして豊かな自然が持続するようにしているいわば里山のようなものであった。

 そんな豊かな自然の中で暮らすぬんや動物とは程よい距離関係で、お互いを害するようなことはなかった。

 ある程度整備されたこの森を調べて回るのはそう大変ではなかった。しかし、豊かな実りはどこへ行ったのか何者かに奪われていた。食べかけが地面に落ちていたりもした。

 そんな森に違和感を感じながらしばらく探索をしていたら、茂みの奥から声が聞こえてくる。


「ぬーん! みんな隠れるぬ! あいつらが来たぬ!」


 その声をたどって茂みに入って奥に進むと知らない広場に出る。

 ぬんの声が聞こえてきたが、ここは一体どこだろうか。そんなことを考えていた陽子だったが、一匹のゴブリンに気づかれ、威嚇される。杖を構えて、警戒する陽子。するとこんなことを口走った。


「ギギッ、コノモリ、オイシイ! コレカラ『魔獣サマ』のモノになる! ジャマモノ、ツブス!」


「魔獣……? もしかして娯楽都市で見た……とりあえず、森を荒らしているのはあなた達ね」


「アラス……? モラエルモノはスベテモラウ! それがゴブリンのヤリカタ!」


「ここの山は私たちだけじゃなくてぬんや動物たちと分け合っているの! そんなやり方はやめて!」


「ヤメテ? ヤメナイ! ジャマモノ、ツブス! コイ!」


 仲間を集め、複数で陽子に迫る。


「ううっ、ゴブリンが三匹……あの時は命がけで戦って、ようやく一匹気絶させたけど……大丈夫かな……」


 思わぬ厄介者を相手にすることになり、しり込みする。


「カカレ!」


 とびかかるのをなんとか杖で受け止め、よろけて転ぶ。すんでのところで攻撃を避けて逃げ回りながら、必死に魔法を乱射する。

 碌に当たらないが、それでもまぐれで数発は当たり、一体のゴブリンが地に伏せた。

 ようやく冷静になって、黒の力で補助すればいいことに気づき勢いを削る。

 その後、もう一体が地に伏せるのには大して時間がかからなかった。

 しかし、最後の一体は尻尾を巻いて逃げてしまい、集中力が切れた陽子は追うことができなかった。


「な、なんとか……なったけど……ううっ、やっぱり戦闘って難しいよ……」


 疲れて、へたり込んだ陽子は何かが近づいてくる気配を感じた。

 杖を握って、何も起きないことを祈る。

 気が付くと、ぬんの群れが陽子を囲んでいた。

 かなり弱いとはいえ魔物は魔物。今この数に襲われたらひとたまりもないだろう。

 ここまでか、と思ったらぬんのうち一匹が声を上げた。


「ぬーん、ぬたちをあの悪い奴から助けてくれたぬ?」


 どうやら、ぬんたちに襲う気はないようで陽子はこの場を切り抜けられそうなので必死に頷く。

 もしかしたら、ぬんたちから何か事情が分かるかもしれないという打算もあったが。


「ありがとうだぬ。あいつらにいじめられるし、大事なご飯を盗られたりしてたんだぬ」


 話を聞いていくと、ぬんが町に現れるようになったのはゴブリンたちから逃げて、食い扶持を繋ぐため、生きるために仕方がなくということだった。


「……畑のおじいさんが怒ってたよ」


「ぬ……ごめんなさいだぬ……でもご飯探すのは許してほしいぬ……」


 それを聞いて考え込む陽子。こうやって意思の疎通ができるとはいえ魔物は魔物。それが街にうろついているのを他の人たちは看過するだろうか。町の人はともかく、外から来た人は駆除しようとするだろう。そして何よりもゴブリンたちがいる限り根本的な解決にならない。


「ねえ、あのゴブリンってどこから来たのかな? ここでは見ない魔物のはずなんだけど……」


「ぬ……そういえば、変わり者のぬんが北の洞窟からゴブリンが出てきたのを見たって言ってたぬ!」


(北の洞窟……温泉洞窟のことかな?)


 夢見が丘の北東、この森の北にはかつては名もなき洞窟があった。

 ある日、冒険者が調べた時に温泉が湧いている事が発覚してからは、町の皆がそこまでの道を整備し、それ以来温泉洞窟と呼ばれるようになったのだが、まだ自分たちが知らない場所にゴブリンや魔獣が潜んでいるのだろうかと陽子は考える。


「ありがとうね。それじゃあ、温泉洞窟に……」


 と、言いかけて陽子は先生の言葉を思い出す。『何かわかったら私に伝えること。』

 ぬんたちが期待した目でこちらを見ている。今すぐいけないせいで『温泉洞窟に行く』とはいえずに少し困る。

 なんとか、助けるからねと言葉を返すことができた。


「ぬんぬん! ありがとうだぬ!」


「そういえば、ここは……?」


「ぬたちの隠れ里だぬ。でも、ここの事は町の人には内緒にしてほしいぬ。でもお姉さんの友達なら歓迎するぬ」


 木の洞や茂みに枝葉で作られた扉があり、確かにぬんが暮らしているのだろうというのが見て取れた。


「そっか……ありがとう。それじゃあ、またね」


 ぬんたちに案内されて、見知った道に出る。

とりあえず、先生に報告をするために陽子は森を出て夢見が丘へと戻ることにした。

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