第47話 絶対零度のエリク
「皆様お待たせしました第三試合!実況のボリーと解説のジョンでお送りします!」
「Dブロック予選にて見事な連携を見せたチームアイリスと前大会覇者チームリンドウの対戦となります。ジョンさんいかがでしょうか」
「アイリスはかなりの苦境に立たされていると思いますね。あのような連携を常に行えればもしかしたらというレベルでしょうか。なにせ、相手は絶対零度のエリク。終焉の星戦争での防衛成功でその後に大きく貢献したその功績で、戦後に魔王の太鼓判を授かっています」
「皆のヒーローエリク! なんて呼ばれたりもしますね! それはさておき、チームアイリスの方の話もしておきましょう。やはりリーダーの少女の事が気になりますね」
「はい、彼女の持つ力は未知数。特にあの黒い生き物……彼女の使い魔でしょうか。あれの力は、底知れないものがあります」
陽子達は対戦相手のエリクと相まみえていた。
サンゼンの方をむいて一歩前に出る。
「……で、俺の前に再びパーティーを組んでやってきたというわけか。サンゼン」
「おうよ! 俺だってあの日から鍛えていたんだ! それをお前に見せてやる!」
「……威勢はあの時と変わらずか。それで、あのヒーラーはどうした? 赤い眼じゃなかったと思うが」
「あいつは……死んだよ。酒の中毒で。だが俺の心の中で生きている。それを仲間に気づかせてもらったんだ!」
「その迷いのない目……いいだろう。遊んでやる。さあ来い、チームアイリス!」
「何やらあのスティックメンとエリクには因縁がある様子……ゴングが鳴りました! 試合開始!!」
試合のゴングが鳴ると同時に、大きく息を吸い込むエリクを見てアカリは盾を構え、裏に隠れる一同
その後放たれる極寒のブレスがアリーナを、凍てつかせる。
「タロ様、貴方の仕掛け使わせてもらいマスよ」
弱まった障壁が再び強まる。一同は開幕のブレスを乗り切った。
「凌いだか。こうでなければ面白くない」
「おうとも! ヨーコ! アカリの回復を急げ! そしてあいつの活力を削るようにくろに頼んでおいてくれ!」
「黒よ傷を削れ! そしてくろ。活力を削るの、お願いね?」
くろはもちもちと頷くと陽子の頭の上に載ってエリクめがけて口を開ける。
しかしそれに全く動じないエリク。
「……何かしたか? ではこちらから行くぞ」
ローゼスの放つ牽制の矢を軽くかわしながら、エリクは大盾めがけて剣を振り下ろす。
盾で攻撃を受け止め、押し返す。それに続くようにサンゼンの蹴りがさく裂する。
金属同士のぶつかり合う音がアリーナに響きわたる。
再び距離を取る両者。エリクが天へと氷の弾を吐き出す。
「ブルーコメット」
そしてその言葉と共に、氷の弾が彗星の如く、陽子達に襲い掛かる!
いくらかはローゼスが矢で撃ち落としたが、足りずに陽子達の傍に落ち、あたりを氷の床へと変えていく。
「足場を狭めて追い詰めようというわけ? そうはさせないわ! バーニングシード!」
そう言って投げられた種は、氷の床に転がると炸裂して発火して氷を溶かしていく。
「これだけじゃないわよ!」
そう言って、ローゼスは投げた種と同じものを括り付けた矢をエリクへと放つ。
着弾と共に燃え盛るが、軽くブレスを自らに吐いて即座に消化した。
再び距離を詰めての接近戦。攻撃を受け止めるアカリの横からローゼスとサンゼンが飛び出し、それぞれの角度から攻撃を行う。
さらに二人の方を対処しようと後ろを向けば陽子とアカリが攻撃を加える。
それに対しエリクは一掃するように円を描くようにブレスを吐き出す。 最も近くにいたサンゼンは慌てて飛びのくが避けきれない。
「サンゼン、大丈夫!? 黒よ、傷を削れ!」
「へへっ、ありがとな。まだいけるぜ…! おらぁっ!」
地面を殴りつけその衝撃がエリクの地面を突きあげる。
ダメージを負いながらも飛翔したエリクの氷の弾幕が空から降り注ぐ!
「ミナサン、お隠れクダサイ!」
弾幕を遮りながら、皆の疲れを削る陽子。くろは時折顔をだし、エリクの活力を削る。
「……っ!?」
着地したエリクは困惑した、いつの間にこれほど体力を消耗したのだろうか。
「……効いてきたみたいだな。だが、気を付けろあいつにはまだ切り札がある」
エリクは剣を構え、丁寧に剣に息を吐いていく。次第に、剣は氷の大剣と化す。
「くるぞっ! 構えろ!」
「ッ! 速い!?」
大剣を振るっているとは思えないほどの高速の連撃。アカリは受け止めるので精いっぱいだった。
エリクの攻撃を受ける弾く逸らすそして、耐える。もう限界か、そんな時に救いの手が伸びてきた。
「負けないでアカリさん! 黒よ、勢いを削れ!」
「くっ、体が……!」
勢いを削られ、緩慢と攻撃を振り下ろしているところにアカリは素早く槍に持ち替え、拘束を行う。、
「今デス! ありったけを!」
「行くぜ!サザンクロスとノーザンライト…一つにして、『ナイトメアブレイク』!」
「一気に決めるわ! 『デッドリードライブ』!」
ズシンと地面に武器を叩きつける音。 勢いが元に戻り、サンゼン達の攻撃を受け続けてもなお、エリクはまだダウンしていなかった。息を吸い、逆転を賭け、最後の大技を決めるために準備を始めたのだ。
「流石しぶといぜ、エリク……! ヨーコ! アカリ! 最後に決めろ!」
「魔法銃モジュール……出力上昇……マスター。マスターの魔力を分けてクダサイ」
「わかった。……行けそう?」
「ハイ。出力限界突破……解放します」
それはエリクの大技が放たれるのと同時だった。
「ルナ・レイ!」
「アブソリュートブレス」
お互いの強大なエネルギーがぶつかり合い爆発する。
砂煙のあと、アリーナで立っていたのは……
もはや氷を纏っていない剣をを前に突き付けるエリクと
「み、みんな……しっかりして……! まだ、終わってない……!」
爆発の直前、アカリ庇われた陽子だけだった。
勝負は決まったように見えた。しかし……
「シャル……すまない……」
エリクはついに武器を手放し、膝をついた。ざわめく観客。
試合終了のゴングが鳴る。
「な、なんということでしょうか……! この展開を誰が信じるでしょうか! 絶対零度のエリクとの激戦を辛くも制したのはチームアイリス! 双方に盛大な拍手をお送りください!」
困惑しながらも拍手と歓声が送られる。
勝ったのだ。しかし陽子は、ダウンした仲間の事が心配で喜ぼうにも喜べなかった。
「やはり個々の力は強くなくとも連携することで何倍にも強くなる。そのようなことが今回の試合で見せられましたね。特に、リーダーの判断力には目を見張るものがありますね。」
「といいますと?」
「盾に守られて動けない時は仲間の疲労を回復し、猛撃に対しては減衰させ、なによりも的確に味方の回復を行う。他の仲間も彼女への信頼があってこうやって存分に力を振るえるのでしょう」
「なるほど、信頼できる仲間って大事ですよね! 皆さん、次の試合でまたお会いしましょう! 実況のボリーと」
「解説のジョンでした。 次の試合はチームガーベラ 対 マスクド・ボタンです。 ここで休憩が入ります」
***
治療を受けた後、控室で一息つく一同。
「危なかったが……なんとか勝てたな……本当にギリギリの戦いだった。」
「ええ……アカリがヨーコを庇ってくれなきゃ、負けてたのよね……」
「……体が、とっさに動きマシタ。あの爆発をみてマスターを守らねばと」
「そっか……ありがとう。アカリさん」
そんな一同の元にやってきたのはタロだった。
「やあ、試合見たよ。エリクに勝つなんてすごいじゃないか。オイラの仕掛け、役になったかな?」
「エエ、とても」
「流石オイラだ。天才だからな……さてとオイラの次の相手はマリーゴールドか……よし、備えて準備するか」
その時、控室の扉を開けて、黒服の男が現れる。
その時に、微かにピリッとした空気に違和感を感じた。
「これはこれは、ヨーコ様! ブロマイド用の写真が撮りたいのですぐに撮影室に向かうように言われたのでお伝えしに来ました」
「ブロマイド?」
「コレクション用の写真だよ。オイラもさっき撮ったんだ。人気が出るぞきっと…ふふふ」
「写真なら撮られ慣れているし、私行ってくるよ」
そういって、陽子は皆に見送られながら、撮影室へと向かう。
「はいはーい、それじゃあ撮ってあげるわね。じゃあ、こういうポーズとかどう?」
いわれるがままに様々なポーズで写真を撮ってもらう陽子だったが、部屋に飾られた花瓶が突然倒れて割れる。
「わわっ、大変……花瓶が!」
「大丈夫よ。安心して……あれ、なんだか頭が……」
写真を撮っていた男が倒れるのをみて、何かがおかしいと感じ始めた陽子。扉を開けようとするが、閉じ込められていた。風音草で異常を知らせようと手に取るころには次第に自分も意識が遠のいていき――
「……つれていけ。あの男によると、こいつはヒトだ。高く売れる」
「この撮影係はどうします?」
「ほっとけ、こいつもレクイエムの人間だ。この企みを話すことはできまい」
不気味な仮面を付けた魔族の男が陽子をつかもうとするが、くろが必至に立ちふさがる。
邪魔だといって踏みつけにして、陽子を強引に袋に入れて立ち去ってしまう。
残されたのはいくらかの写真とローゼスが陽子に手渡した風音草だけだった。