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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第6章 奏でられるレクイエム
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第45話 トーナメントの幕開け

 大会が終わり、じきに人がまばらになったアリーナで一同は砂の上で横になっていた。

 そこにくろが陽子にくっついて、彼女の手に頬擦りをすると不思議と陽子の体から疲れが抜けていった。


「それって、くろの……ありがとう。くろ。 皆にもやってあげようっ!」


 一同の疲労を削って、アリーナから出ると多くの人が出迎えてくれていた。


「こっち向いて―! いい笑顔!」


「初参加で4人全員残っての撃破の偉業、おめでとうございます! 何か一言ください!」


「他のライバルに言いたいことは?」


「観客に伝えたいことってありますか?」


それぞれが適当に答えていたが、ある記者がこんなことを陽子に質問しだす。


「トーナメント進出おめでとうございます! リーダー、今日は誰と寝るんですか?」


 寝る?と困惑する陽子だったが何を聞いているのか気づいて、顔を真っ赤にする。


「おっ、夢魔ではもう珍しい清純な表情を頂き! ぐはぁ!」


 サンゼンが変態記者を殴り飛ばす。だれもその行動を咎める者はおらず、同類扱いされたくないのか質問攻めはこれまでとなった。


「……蜘蛛の子散らすように逃げていったわね。まったくもう…」


「マアマア、もう邪魔されなさそうでいいじゃないデスカ。 宿に戻りマショウ」


一同が宿に戻る最中にも小さな盛り上がりがあり、宿に向かう一同の写真を撮ったり声援をかける人たちがいた。


「でも……こうやってみんなが応援してくれるってちょっとうれしいかも」


「へへっ……確かにな。最も、どっかの馬鹿みたいなのは勘弁だが」


 そう言って宿屋の扉前で手を振って、様々な魔族で作られた人だかりに別れを告げる。


「おばちゃんみたわよ! 頑張ったわね!」


 給仕のおばちゃんが部屋を綺麗にし終わったのか部屋の前で桶を片手に一同に声をかけた。


「あんたたち、強いんだねえ……ほら皆に飴ちゃんあげるから後でゆっくり食べなさいな」


「お、どうも……あ、それとなんだが……ヨーコがヒトなのは秘密にしておいてくれねえか? 事件が収まるまではそうしたほうがいいんじゃねえかって話になったんだ」


「ええ、ええ。ええよ。気を付けるに越したことはないからねえ……ゆっくりお休み。明後日も頑張るとええ」


「ありがとう……、……おばさん」


 もうばばあですよ嬢ちゃん気遣いありがとうねと言って廊下で通り過ぎて降りていくのをみて、部屋で一息つく一同だった。


「ふむ……そうですか。とりあえず予選は突破できたのですな。お疲れ様でした」


 一同、皆のおかげと思いながらお互いを労う。

明後日からが本番だ。それに備えて、館に戻って体を休めつつもどういう風に立ち回るかを話ししていた。


「わりいなまさかヨーコの背でスイッチに届かないとは……あの時コイツが動いてくれなかったら駄目だったな……本当に危なかった」


 過ぎたことだし気にしてないとフォローを入れる陽子だったが、そういえば気になったことがあった。

今までくろが明確にこちらを助けるように動いたことはあっただろうかと。


「言われてみれば、ヨーコが命じないと基本は何もしないよねこの子……」


「あの後も自分から疲れを削ってくれたおかげで立ち上がれたんだよ」


 興味深いとアカリは考え込む。再会を通して考え方が変わったのでしょうかと推察する。

 それを聞いてなんだやっぱ感情あるじゃねえかと笑うサンゼン。

 ちょっとだけ試してみようかと二つのカップに異なる量の紅茶を注いで

 このカップの中の紅茶が多い方のカップを陽子に運んでと言ってみるが反応しない。

 やっぱ気まぐれだったのかと思ったが、陽子が同じ言葉をくろに投げかけてみる。

 すると、しっかりと多い方の紅茶を陽子の方に持ってきた。


「……これは何かに使えるかもしれないわね」



 それからというものの、練習を続け、くろと陽子でうまいこと連携がとれるように練習をした。

 そのおかげで次の日の夜には多少は陽子も自由に行動ができるようになった。


「くろ、頑張ってるね…! 私も頑張らないとっ、クレセントカッター!」


「いい感じですぞ! 明日はいよいよトーナメントですな! 応援してますぞ、お客人!」


 解散したのち、自室でベッドに寝転がりながらくろを撫でていた。

 撫でようとする手を追いかけるように這うのを見て微笑ましくなって、もっと撫でたくなる。


「ねえ、くろ……私本当に大会で優勝できるか心配だよ……メリーさんと戦った時も迷惑かけちゃったし……」


 と、ついつい弱音を吐いてしまう。

するとくろは陽子の顔に近寄り、優しくほおずりした。


「あはは……くろ……くすぐったいって……明日は結構早いみたいだしもう寝よう?」


 手を伸ばして、くろを抱き寄せて陽子は眠りについた。


 陽子は中庭であおむけになって目覚める。身動きが取れずに恐怖に駆られる。

 月の出ていない夜、見知らぬ女性が歌を陽子に向けて歌っていた。

 中庭から儚げながらも気高いその歌声が紡ぐ歌を静かに聞いていた。

 途切れ途切れで歌詞まではわからなかったが、ほんの少しだけはっきりと聞き取ることができた。

 終わりなき苦しみに、天から来る星により救済を。呪詛に狂いし王に救済を。陽子にはそう聞こえた。


(始めて聞く歌……でも、なんで懐かしく感じるのだろう……)


 そして陽子は気づいた。その女性は泣いていることを。


「ヨーコ! おい!」


(……あれ、なんだか景色がぼやけて)


「マスター! 起きてクダサイ! もう朝食できてマスよ!」


 夢から目覚めた陽子は時計を見て驚く、想った以上に長く寝ていたようだ。


「大変! 急がなきゃ!」


 即座に支度をして飛び出す。皆で飲み込むかのように朝食をとり、急いで鏡を触れて闘技場に向かった。


「チームアイリス、ギリギリでしたね。危うく失格になるところでしたよ。控室で準備をしてください」


「皆ごめんね、私が寝坊したせいで……」


「構わねえって、過ぎたことだし事なきを得たんだしさ」


 予選とは打って変わって、静かにそれぞれが控室で開会式の準備をしていた。

陽子達も準備をする間もなく呼び掛けられる。


「お待たせいたしました。選手入場の時間が参りましたので案内しますチームが呼ばれたら出てください」


 最初に呼ばれたのは陽子達だった。


「では登場していただきましょう、率いる少女は吉兆か凶兆か、グランツィル同盟からチームアイリス!」


 陽子がアリーナに足を踏み入れると歓声で迎え入れられる。中には陽子の名を叫ぶ男もいた。

陽子に続いて他のチームも続々と名を呼ばれて足を踏み入れる。


「魔王国の強豪冒険者たちが手を組んだ! チームガーベラ!」


「楯の男達が久しぶりに参戦! 鉄壁要塞、チームジオグラス!」


「美女たちが集結! されど実力十分、チームスズラン!」


「若き新星たちがここに! 輝ける才能を持つ当大会最年少チーム、チーム野ばら!」


「なんと、レクイエムからの挑戦者がトーナメントに! 今回は何かが違うぞ、チームマリーゴールド!」


「皆のヒーローが再び闘技場に足を踏み入れた! 今回も一人で勝利を手にするのか!? ワンマンチーム、リンドウの入場だ!」


 一人の竜人が足を踏み入れると、大歓声が巻き起こる。

そしてのこるチームはあと一人となった。

何かの到来を期待するかの様に観客は静まり返る。その時、音楽が鳴り響く。


「第一大会からの伝統のあいつが帰ってきた! 皆がお前を待っていた! お祭り男、マスクド・ボタン!」


反対側の門から駆け出してきたのはマスクを付けた大男。

あふれんばかりの大歓声。


「……以上の八チームでのトーナメントとなります。対戦カードはくじにて決定されます。ではチームアイリス、くじを引いてください」


「……と、ここでスポンサーからのメッセージです。商人ギルドより、魔王様公認のギャンブルで優勝者を予想して大金を手にしよう! また、賭け金の一部はトーナメント参加者の参加賞金にもなります。是非応援したいチームに振るってお賭けください」


 と、進行兼実況が宣伝をしているうちに、くじは引き終わり、ギャンブルの予想チケットの締め切りと共にトーナメント表が映写機で映し出される。


「これが今大会のトーナメント表となります! おおっとこれは……前大会覇者とマスクド・ボタンが両方赤チームに…!」


「これはかなり珍しい状況ですね。特に大会初参加で前大会覇者のリンドウに当たったアイリスはかなりの苦境と言えるでしょう」


「万が一勝利したとしても、マスクド・ボタンも控えている可能性が高いですからね。お祭り男などと呼ばれていますが、第一大会からトーナメントに出続けているその実力は本物ですからね」


「そして、今回のオッズとなります。やはりリンドウ・ボタン人気ですね」


「先の大戦での英雄かつ前大会覇者と大会伝統のお祭り男ですからね。期待も人気も高いのでしょう。そして意外なのが、アイリス。意外と賭けられてます」


「Dブロック予選終了の号外の一面のあの表情にやられた方は多いのでは? 負けてもトーナメント進出の賞金として一部がチームに支払われるため、個人的に推したいという人も多いのではないでしょうか? 実は私も……」


 ジョンの咳払いではっとするボリー。


「……失礼しました。大穴はどこだと思います?」


「個人的にはマリーゴールドですね。普段は予選落ちするようなレクイエムの分派の参戦ですが、今回はトーナメント進出。これは何かあるに違いありませんよ。オッズもかなり高く一獲千金のチャンスです」


「第一試合は ジオグラス VS マリーゴールド! 試合の開催までもうしばらくお待ちください!」


 それ以外のチームは控室に戻り、再び試合の準備を行うことになった。

 その時に対戦相手のチームリンドウの人物とすれ違い一瞥される。

 それを見て、サンゼンは、焦燥に駆られた。

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