第44話 鋼鉄のガンスリンガー
「Dブロックの方々、お待たせしました。予選の準備ができましたのでアリーナにお入りください」
そう言われてざわめきつつも控室にいた人々が一斉に動き始める。
「私たちも行きましょう。それにしてもどんな予選になるのかしら……この全員で潰しあいのバトルロイヤル? 距離を取る余裕あるかしら……」
アリーナに入った一同。控室にあんなにいた、それも複数の部屋のライバルたちがアリーナではまばらになるほどの広さで皆が皆、何が起こるのかと。
ごう、と音が鳴り空から降り注ぐ鉄塊。囲いの中に落ちたそれは地面に落ちるとともに、鉄の巨人へと姿を変え、それぞれの手に巨大な魔法銃を手に握る。
「アレは……オートマトン……!? それもあんな巨大ナ!」
参加者と観客はその巨体にざわめく。
その時、観客席の上層の特設スペースにて立つ大男。
逞しく、そして立派な角を一対生やしたその威風堂々としたその姿には恐ろしくも、尊敬すら抱く。
この地の統治者の魔王であった。
「皆の者よく聞けぃ! これより魔王国大闘技大会の予選Dブロックを開催する!」
「ルールは簡単だ! このオートマトン『メガスリンガー君6号』を相手取り、機能停止時にチームメンバーの一人でもアリーナに残っていたチームがトーナメント進出となる!」
あれを相手取るのかと絶望にも似た感情が参加者を支配する
「弱点は背中の機能停止スイッチだ! 参戦した勇気あるものならば、スイッチを守る装甲を突破することも難しくないだろう!」
「しかし! このオートマトンの持つ魔法銃には転移呪文が刻まれている。それを受ければ即座にアリーナの外へと追い出され、失格だ! また大怪我を負った者も安全のため転移される!」
死にはしないと、油断にも似た安堵を見せる参加者たちに魔王は一喝する。
「たかが転移魔法、死なないから大丈夫だと侮る奴から出ていってもらう! 本気で、命がけに立ち向かうものにのみ真に戦う資格がある! 行け、6号! お前の実力を見せてやれ!」
開戦のゴングが鳴ると同時に、稼働の大量の蒸気が噴きあげてその巨大な魔法銃で参加者集団後方めがけて発砲する。その一発で離れれば安心だろうと油断した十数人が開幕追放された。
「なっ、離れる奴がいるのをわかっていたように! おい、アカリ! あれ、防げるか!」
「あれを防ぐにはエネルギー消費が多すぎマス! 一度に数発打ち消すだけで精いっぱいデス!」
「皆、気を付けて! あいつ『偏差射撃』してくるわ! 一方向に逃げてはだめ! 銃口が光ったら切り返して!」
大騒ぎになったアリーナとは裏腹に観客たちは盛り上がっている。中にはギャンブルに興じるものもいた。
「さあ張った張った!生か滅か! 生滅滅滅! さあどうなる!」
生か(トーナメント進出あり)滅か(トーナメント進出なし)その見事な偏差射撃もあって、今回は参加者は残らないだろうという見方が強かった。
「いやあ、大変なことになってますね解説のジョンさん。すでに追放者が全体の二割を超えたそうですよ。」
「はい実況のボリーさん。生存者が多かった前大会・前々大会の反省を生かして、今回は王立研究院の手によってかなりの改良が加えられましたからね」
観客席の上層の一角。そこにはオペラグラスを併用しながら話す、実況と解説の二人組がいる。
一人の男が大槌で鉄巨人の背を叩き、装甲を一枚割る。が、その後に乱射でその男もまた追放されてしまった。
「6号、背中の装甲が一枚割れて、あちこちに魔法をぶっ放す! 装甲はあと二ま……あっと危ない! こっちにも飛んできた!」
障壁に阻まれ、二人の目の前で掻き消える魔法弾。
「ふう、ドキドキですね! 観客の皆さまには当たらないのでご安心を! 今のでだいぶ挑戦者たちはやられたようですね」
「今年開発されたばかりの新機構の四肢非結合型故の回転しながらの乱射ですからね。乱射までは想定できても後方にも及ぶとは思ってなかったでしょう。特に接近戦を強いられる前衛はかなり苦しいでしょう」
「なるほど。あの自由なエイミングにはそんな秘密があるのですね。ああっと、さらに一枚割った! あれは……スティックメン? しかも素早い身のこなしで全弾華麗に避ける!」
「今大会では第二大会ぶりといえるヒト領地…グランツィル同盟からの参戦者もいる様です。実に48年ぶりになりますね」
「なるほど! 戦後復興のためだったのが今では最高の娯楽に! では今残っているチームを確認していきましょう」
一方、陽子達は二回の乱射があってもなお全員アリーナに残っていた。しかし常に動き続けていたのもあって、息が上がっており、特に陽子はアカリに手を引かれながら走っている状況だった。
「クソッ人数が減ってきたから、明確にこっちを狙ってくるようになったな。今だ! 切り返せ!」
二発の魔法弾が縦並びで襲い掛かるのを何とか避ける。
一人でも生き延びればいいと散会した他のチームとは違って、陽子達は連携を崩さないためにもまとまって行動していた。
「くっ、くろよ……疲れを…削れっ!」
相手が魔力をチャージしているその隙に、自分と仲間の疲労を削り、何とか立ち上がる。
「ヨーコ、大丈夫か? だいぶ苦しそうだぞ……だが、相手は待ってくれないな。走るぞ!」
気が付けばすでに二チームしかいなかった。陽子たちのチームアイリスと、見知らぬ魔族率いるチーム野ばら。
巨人はそれぞれの銃で狙いを付けながら弾を放っていく。このままでは時間の問題だ。
そう思ったとき、野ばらの魔族が珍妙な武器と共に駆け出し、放たれた二つの鎖鉄球が片方は魔族を狙っていた手に、もう片方は背中の装甲へと向かう。緩慢ながらも狙うのを止めて、動いて避ける鉄巨人。
「オイラはこの時を待っていた! 唸れッ双陽棍!」
そう言って鉄球が飛び出した棍を横に凪ぎ、それにつられた鉄球が起動を変えて、見事に背中の装甲と手に命中。ついに全ての装甲を失い、機能停止スイッチがむき出しとなったのだ。
「あの乱射が来るな! 持ってくれよ、俺の喰魔壁!」
「なっ、反対側の奴! 手を攻撃してこっちに…! アカリ! 前に出ろ! 十割増しで来るぞー!!」
始まる最後の乱射。それも開幕は両手による射撃が陽子達に襲い掛かる。
それを受け止め続けるアカリだったが、早々に限界が訪れる。
「ダ……ダメです! シールドのエネルギーが!」
「くそっ……やるしかねえ!!」
そう言って、前に飛び出すサンゼン。両拳を構え、周囲の魔力を練った高速ラッシュで攻撃を迎撃し、限界が来たのかぶっ倒れた。
「シールドのエネルギー、回復デス! サンゼン様、後ろに…!」
素早く前に出て、盾を構える。残りの数発を受け止め、何とか乱射を乗り切った。
くたくたになったサンゼンを陽子が手当てしつつ、あのスイッチをどうするかという問題になった。
「あともう少しなのに……! サンゼン、大丈夫……!?」
「クッ……かなり効いたぜこれは……俺は置いていけ。これじゃあ、負担になるだけだからな。」
「だめだよっ、置いてなんか行けない……! アカリ、荷車引く時のアレを使って! 盾は使えなくなるけど……それならサンゼンさんを運びながら避けられる!」
「……わかりました。マスター。怪力モジュール起動。……ですがマスターの疲労も濃い模様。無理はなさらぬように」
「へへっ……本当に優しい奴だ……」
ゴーレムももう後がない事がわかっているらしくアイリス、野ばら両者に狙いを付けながらじっと構えている。
そしてそのまま、お互い動きを止めた。
この状況を見て驚く実況者。
「おおっと、これは? お互いに動こうとしません! ジョンさんこれは?」
「膠着状態に陥りましたね。先に撃てば、発射後の隙を突かれてスイッチを押される。先に動けば、偏差射撃で狙われる。要するに、先に動いた方が負けるわけです」
「なるほど! さあどうする! 誰が最初に動くのか! 決着はもう間もなくです!」
「くそっ……どうする?」
膠着状態のまま、時間が過ぎていく。
「……なあアカリ、俺を投げられるなり転がすなりできるか?」
「? ……ナゼそれを?」
「ローゼス、あの閃光矢の種持っているか? ツタは伸ばせるか?」
「サンゼン、どうしたの?」
「そしてヨーコ、くろは大丈夫か?」
「……無理はしないで、欲しいな」
「まあちょっとばかし雑な作戦かもしれねえが、ずっとこのままよりはきっといいはずだ……野ばらの方が先に動かれてやられて、両手で狙われちゃもう手の施しようがねえし。じゃあ、言うぜ……」
作戦はこうだった
サンゼンがスイッチ側へと投げられると同時に、アカリが反対側に飛び出す。サンゼン・アカリ・陽子達で相手の狙いが定まらない一瞬の隙を縫うように、閃光種を炸裂させ、それと同時に陽子とローゼスが空間を削ってスイッチまで回り込み、念のためにローゼスがこちらを狙っている方の手を蔦で抑え込んだのちに陽子がボタンを押す。
「……できるかしら。でもサンゼンの言う通りね。両手で狙われたらどうしようもないわ」
「……やろう。皆。ローゼスさん、手を握っていて」
「マスターの覚悟しかと受け取りマシタ。やりましょうサンゼン様」
「ああ……いっちょやるか! 駄目だったら駄目でまた館で何か考えようぜ」
「炸裂前の種、いつでも落とせるわ。アカリお願い。」
「ハイ……皆様、ご武運ヲ」
そう言って、サンゼンを構え、投げた。
即座にアカリも飛び出したのちにローゼスは種を落とす。閃光と共に陽子はくろの力を行使する。
「黒よ、空間を削れ!」
回り込み、サンゼンに狙いを付けたゴーレムの手を蔦で縛り引っ張る。
微かに狙いが逸れて攻撃が外れる。
「今だ、ヨーコ!」
スイッチまで駆け寄り手を伸ばすが届かない。杖も用いるがわずかに届かない。
蔦の拘束が解け、陽子へと銃口が向けられる。皆がもうだめか。そう思ったとき、ピという音がなる。
陽子の体を、杖を伝って登ったくろがスイッチを押したのだ。
動力が停止し、ガラガラと崩れ落ちる鉄巨人。
「こ……これは……! 『生』だ!」
水を打ったかのように静かになった闘技場。終戦のゴングが鳴る。
その後湧き上がる大歓声。
魔王が前に出て、拍手と共に歓声に負けないほどに声を大にして讃える。
「見事なり! 強敵を打ち倒し、生き延びた真の猛者たちを讃えよ!! チームアイリス、チーム野ばら、トーナメント進出だ!」
「一瞬でしたが見えました! チームアイリス、見事な連携でしたね!」
「ええ、ええ。私も見ました。狙いを錯乱させたのちに本陣が切り込む。お互いが失敗しないという信頼があってこその作戦だと思います。」
「私たちも生き残った二チームを讃えましょう! 実況のボリーと」
「解説のジョンでした。では明後日のトーナメント本選で会いましょう」