第3話 勇気を出して
外は眩しい太陽が勇者になったことを祝福してくれているようであった。
「まずは衛兵さんに話を聞くところからかな。何か起きているならきっと一番知っているのは衛兵さんのはず……」
この町には衛兵が二人いる。衛兵といっても都市にいるような大層なものではないが、皆が頼りにしているのだった。
この時間帯なら入り口に二人ともいるだろうと思って町の入り口に近づくが、一人しかいない。どうしたのだろうと首をかしげながら、話を聞いてみることにした。
「えっと……おはようございます。相方さんはどこに……?」
「ああ、それなら農家のおじいさんと一緒に学校の方に向かったよ。チョウフ先生のところに向かったんじゃないかな」
田辺調布。陽子達が通う学校で戦闘を教えている先生だ。町一番の腕利きで強い魔物も一刀の元切り伏せるのだという。そんな先生をかっこいいと思っているのと同時に、戦闘では落ちこぼれの自分は負い目を感じていた。
話を聞くために学校に向かう。今は夏休みで授業はやっていないが、戦闘の自主訓練のために同級生たちがいたりした。
同級生たちに軽く挨拶をしてから階段を上がり、職員室に近づくと声が聞こえてくる。
「ぬんじゃ! ぬんが儂の畑を荒らしとったんじゃ!」
「実際、ぬんを町で見たという話がでています」
「ぬんがそのようなことをするなんて聞いたことがないが……とりあえず警戒を強めるように。私も見回りを手伝おう」
おそらく、町の異変とはこのことなのだろう。職員室に顔を出して頭を下げる。
「失礼します。私も異変の事を調べているんです。詳しく教えてくれませんか?」
それを聞いて話を聞けば先ほど聞こえてきたようなことを聞くことになった。
衛兵とおじいさんが話をする横でチョウフは難しい顔をしていた。
「ヨーコ。何のために異変を調べている? まさか、解決するため……じゃないだろうな?」
「う……そのつもり、だったけど……」
陽子ははっとする。戦える力を手にいれたのはつい昨日の話で、それまでは武器を振るうのも苦手で魔法も使えない、『落ちこぼれ』だったのだから先生の表情にも納得がいくものであった。
「その心意気は感心するが、戦う力がなければそれは無謀というものだぞ」
「わ、私も戦えるようになったから……」
「ヨーコは、年齢に対して体格ができているからな。今からでも戦士として鍛錬を積めば……」
「魔法を使えるようになったんです。それに、不思議な力も」
それを聞いて興味深そうにするチョウフは下の訓練室へと陽子を連れていき、相対する。
使ってみろ、と言わんばかりに。
その圧に押されてわたわたする陽子。魔法の名前は確か……
「ル、ルナボルト!」
杖の先端から月光の矢が放たれ、床に着弾する。
それを見てチョウフは驚く。魔術に目覚められなかった陽子が魔術に目覚めていることに。
しかも、闇の魔法。ヒトの間では失われた魔法。それを彼女が手にしているのだから。
「ふむ……狙いが逸れているが、確かに魔法だ。どうやって会得したかは聞かないでおく。不思議な力というのも見ておきたい。この異変に立ち向かえるか……ぬん相手でも大丈夫か知っておきたいのでな」
そう言われて困ったのは陽子。くろの力を引き出して攻撃するならばどうすればいいのだろうかと悩む。困っているのを見て、心配そうにこちらを見る先生。
「……戦いで重要なのは『心の力』と『活力』だ。それらが欠けると心が挫けて戦いを続けられなくなる。どうだ? できそうか? その不思議な力というのは」
心の力と活力。これだ。そう思ってくろをかざして命じる。黒よ、活力を削れと。
チョウフの体から何かの粒子が抜けていきくろへと吸い込まれていくのを目で見て取れた。
「!? ……確かに、不思議な力だ。確かにこれならば……ぬんぐらいなら自力で何とか出来るだろうな……ふう」
チョウフは床に座り、一息つく。どうやら想定外の力で少し消耗しているようだ。
「先生、大丈夫ですか……!?」
「ああ。少し休めば元通りだろう。とりあえず、あの的で魔法を当てる練習をしてから出発するように。あと何かわかったら私に伝えること。ぬんが町に出るなんて今までなかったからな。何かあるはずだ」
どうやら、戦うことができるのだと証明したようで、周りで見ていた同級生たちが拍手する。
「ヨーコ、いつの間にか魔法まで使えるようになってたなんてすごいじゃないか!」
「ふふっ、ありがとう」
「俺たちも見てるから先生の言ってた通り、的で練習しなよ!」
飛び道具や魔法の練習用の的に相対して、陽子は何度かルナボルトを放つ。そのどれもが的の周囲の床や壁に当たる。
自分は向いてないのかとへこんだが、周りの応援でへこたれずに魔法を撃ち続ける。しばらくそうしていたら、始めて一本、的に当たり、歓声が上がる。
それからさらに撃ち続けて安定して的に当たるようになり、そしてついに的の真ん中を射抜くことに成功してわぁっと周りが沸き立つ。
そして陽子は皆の祝福を背に受けて、ぬんがよくいる場所……ぬんの森へと足を運ぶ。