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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第6章 奏でられるレクイエム
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第38話 闘技大会に向けて

「さて、連携を高めるならばお互いの出来ることをよく知ることからですな。さあ、誰から話をしますかな?」


 ランピィは一同を見る。まるで一同を試すかの様に。


「よし、そういうことなら俺が行くぜ!」


 そう言って立ち上がったのはサンゼンだった。ええ、ではどうぞとランピィは促す。


「よし、俺は、殴って、蹴って、どんな敵でもぶっ飛ばしてやるぜ!この拳で!」


 ランピィはその言葉に頷いて、何かを書きながらサンゼンの言葉を聞いていく。


「ふむ、サンゼン殿に質問がある方はありませんかな?」


「そう言えば、世界樹の時のあれって、また魔力があればできるのかしら?」


 ローゼスの問いにサンゼンは、できないことはないが、反動もきついからああいった大技はいざというときに残しておきたいと答えた。


「まああの時、自爆でもしたのかと思ったし、そんなのをやすやすと使われたら困るわ。ありがとうね」


「ふむ、それならわたくしめも質問を。三人を庇いながらさっき言ったこと、それができますかな?」


 少し考えたがこうサンゼンは答える。


「わりぃ、相手が一人なら何とかなるかもしれないが正直無理だ。とっさに体を広げて庇っても攻撃が脇をすり抜けちまう。」


「いえ、謝ることはありませんぞ。私からは以上ですぞ。では、次は誰が話しますかな?」


 それからランピィは、似たようなやり取りをローゼスとアカリにも行った。


「私は、弓矢の扱いと異能で植物操作ができるわ。接近戦? 一応ナイフなら弓と同じぐらいには自信はあるわ。それと一応、剣も。…えっ、魔法? 姉様からは教わったけど……まあ、無理だったわ」


「ワタシは、この盾で皆さまをお守りシマス。後はクラブと新しいヤリでの白兵戦デス。治療行為? モジュールを検索中……該当ゼロ件。現状のワタシには不可能なようです」


 メモを見ながら考えこむランピィが気になって陽子が声をかける。


「ふむ、最後はお客人。どうです、言えそうですか?」


 他の三人にしたときの様に陽子の発言を促す。


「えっと……私は闇の魔法をちょっとと、音紡ぎ……あとくろの力を使える……これでいいのかな?」


「大丈夫ですぞ。では質問。くろの力で今まで削ったものは? 覚えている範囲で構いませんぞ」


 空間、勢い、意識、魔力、ガスに汚れにと今までの冒険を振り返りながら少しずつ答えていく陽子。

それにうんうんと頷いて、あんなことがあったこんなことがあったと皆で話が盛り上がるのを微笑ましくランピィは見守っていた。


「そうだ…ヨーコ。始めて一緒に依頼を受けた時の事覚えている?」


「うん……竪琴の情報を見つけるために盗賊を……あっ、あの時盗賊の傷も削ったよね!」


 その言葉にランピィはそれは本当ですかお客人と、即座に反応した。


「ええ、私が保証するわ。目の前で見てたもの」


 それを聞くともう何度目になるか、メモに何かを書き加えた。


「そういや……そのメモ、なんだ? 話を聞いてはメモをしていたが」


 そろそろ話してもいいころですなと言って、メモを見せる。

 そこには陽子達の名の横に様々な記号が書かれていた。ランピィの言うには『役割』の候補を書いているのだという。


「ふーん……アカリの名前の横に盾が書いてあるわね。つまり盾役……ってことなのかしら?」


 ローゼスの言葉にご名答!とやや満足げにランピィは答える。

 ローゼスとサンゼンのところには剣、そして陽子のところは空白だった。


「おっと、書き忘れていましたな。 お客人にはヒーラーになってもらいますぞ」


「ヒーラーって街の治療師さんとかだよね」


「確かにそれもありますな。そして、戦場では味方の傷を癒すパーティーの要の存在ですぞ」


 それを聞いて、サンゼンが苦笑いする。ランピィがやりたかったこと。それは役割を固定させて何をすればいいかをはっきりさせるということだった。いわば軍隊式だった。それも少数精鋭型の。


「サンゼン殿には何をするかわかってしまったようですな。連携技などを考えていたのかもしれませぬが、それも仲間……パーティーとしての動きの基本を徹底してからでも十分だと思いますぞ」


 でもよお、とサンゼンはランピィを止める。サンゼンの記憶の中のヒーラーは常に他の仲間に気を配り続ける故に疲労も激しく、休息の間いつも酒に逃げていた。

 陽子にはそうなっては欲しくなかった。

 だが、陽子を怖がらせるようなことは言いたくない。サンゼンは、何とかひねりだした言葉を発する。


「…嬢ちゃんにヒーラーやらせるのは酷じゃねえか?」


 そう言われて、しばらく考えさせてほしいといってランピィは席を外した。


「ランピィ……何を提案するのかと思ったら、軍隊式のパーティー叩き込むつもりだったのか」


 軍隊にもパーティーってあるのね。どういったものなのと興味深そうにローゼスは聞く。


「まず壁役……タンクが攻撃を自分に引き付ける。次に回復役、つまりヒーラーがタンクとアタッカーの維持をするんだ。そして残りの二人はアタッカーで状況を見ながら攻撃を叩き込むって感じだ」


「軍隊式っていうだけあって凄いしっかりしてるのね……強いの?」


「そりゃもう。小さな砦ぐらいなら一つのパーティーで潰せるぐらいには。それぞれの役割以外はほぼ他人に任せていいわけだからな。でもどれも大変なんだよ。例えばタンクなんかは先導しないといけないし、他の奴らが役割に集中できるようにしっかりと自分に攻撃を向けないといけない。それに、いつも攻撃を受ける役割だから怪我しやすいんだ。」


「繰り返しの怪我ハ、病気の原因にもナリマス。出来るだけ避けたいトコロですネ」


「ああ。次はアタッカー。俺はいつもこれだった。相手の能力や挙動をしっかり見ていないといけない。相手がどでかい技を使ってくるとか、奥に射手がいるとかにいち早く気づかないといけないんだ。ぶん殴るにも順番があるってわけだ。大物と戦うときは取り巻きからとかな。場合によっちゃ、距離を取るように大声で伝えたりしないといけないわけだ。トロールとかすごいぜ? 金属製の盾でも一発でひしゃげたりするからな」


「あなたがそういった、誰かを指揮するようなことをするって意外ね」


「こう見えても、気を読み取れるのが、相手のことを知るのに役に立ってたりしたんだぜ? 最後にヒーラー。全員の体の具合を常に管理しないといけない。いうならほらこれ」


 そういって、サンゼンはもうすぐなくなるティーカップを持つ。

 それを見て陽子は無意識のうちに、ティーポットを手に取る。


「お茶……欲しいの?」


「お、おう。もらおうか……こんな感じに、カップの紅茶がなくないようにティーポットでお茶を注ぎ続けるようなものだ。それを注ぐ自分自身のカップも含めて4人分だぜ? それに、紅茶と違って体の具合なんて、パッと見じゃわからねえし……」


「うう……大変そう」


「あと一番大事なのは、自分がやられちゃいけないってことだ。そもそも軍隊のパーティーで誰かが欠けるなんてことがあったらいけないが、特にヒーラーはそうだ。ヒーラーさえ落ちなければ立て直しが効くかもしれないが、ヒーラーが落ちたパーティーはもう終わりだ。せめて皆やられないように、散らばって撤退するしかねえ」


 いつになく真剣にそう語るサンゼンの話を聞いて、陽子は怖くなって俯く。恐らくこうやって教えてくれていることは全て、実際にサンゼンが体験したことなのだろう。もしかしたら、もっと恐ろしいことを経験しているのかもしれない。そう思うとより心に暗雲が立ち込めるのであった。

 陽子が表情を曇らせているのを察したのか、サンゼンは普段通りの笑顔を見せる。


「だけど、な。嬢ちゃんが危ない時は、しっかりと助けてやっからさ」


 その言葉に、どう言葉を返せばいいのか、陽子にはわからなかった。

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