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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第5章 沈む心と天翔ける船
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第36話 大きな飛躍、影と月

「楽しかったね……写真も撮ってもらったし、海水浴してよかったよ」


「よかったわ。私もいい気分転換になった」


 夜になって街燈があたりを照らすサンモニカの街を歩く陽子は少し遊び疲れたのか、ほわあと欠伸をする。


「とりあえず嬢ちゃん眠そうだし、今日は帰るか。まだもう少しかかるだろうからな。ゆっくり出来るといいな」


 そういって館に帰る一同だった。


***


「おかえり。簡単だけど、ご飯できている」


 館に戻るとメリーが出迎えた。

 ランピィがおらず少しさびしくなった館で夕食を取る。

 ランピィさんいつ帰ってくるかなと、聞く陽子にメリーはさあと答える。


「私もよくわからない。彼は。今にでも帰ってきそうといえばそうだし、もう帰ってこないかもしれない」


「何とも謎が多い奴だな……だが今は信じて待つしかできねえからな明日に備えて寝ようぜ」


「デスネ……ワタシはまた、中庭で思考シマス。そのためにマスター、くろ様を御貸し頂いてもイイデショウカ?」


「うん……いいけど、くろは大丈夫?」


 そういってくろをアカリに手渡そうとするが、そそくさと陽子の手元に戻ってしまった


「……私の部屋でやろう?きっとくろもそこなら大丈夫だろうし」


 そんな陽子の提案にアカリは了承する。

 二人で陽子の部屋に向かうのであった。


「それじゃあ、おやすみなさい。アカリ」


「はい、マスター。良い夢を」


 陽子がすうすうと眠る傍らでアカリはくろに手をかざして思考していた。

 魔法をかき消す生き物、そのようなものがいたかと。そもそも、魔法とはなんであったか。

 休眠中の出来事は仲間にいくつも聞いたが、その答えになり得そうな点と点は存在しなかった。


「くろ様。あなたは一体何者ナノデスか……」


 くろは答えてはくれない。

 相変わらず眠る陽子の傍に寄り添うようにしている。

 魔法をかき消す力で事象をかき消せるということは、世界は魔法で構築されている?

 もしそうならば、このくろは一体何のために生まれたのだろうか?


「……もしかしたら、私たちはトテモ危険な綱渡りをしているのカモしれませんネ」


 短い休眠をとるまで、なにかわかるかもしれないとイーリスのころのことを思い出そうとしていたが

 結局、思い出すことはできなかった。


***


「ヨーコ! ランピィが帰ってきたわ! 話がしたいってみんなを集めてって言っているの!」


「マスター、お目覚めくだサイ。ランピィ様が返ってきマシタ」


 それを聞いて、陽子は寝ぼけまなこをこすりながら支度をして、部屋を出て一同と合流する。


「一日ぶりですな。魔族領の現状確認、してきましたぞ。」


 相変わらずなランピィがそう言って、お辞儀をする。


「……どうだったんだ? なにか掴めたのか?」


 身振り手振りで、大冒険を語りたいところですなと語るが、メリーに簡潔にと止められる。

 それを聞いて咳払いして、話を始める。

 ランピィの言うには、王都で近々開催される闘技大会の話で持ち切りなのだという。

 大会参加のための必要資格は特になく、陽子達でも参加ができるという話だ。

 そして、その優勝者に魔王の太鼓判を与えるという。


「つまり、それに参加して優勝しろと言うの? 魔族相手にやりあったことはあるけど……厄介よ?」


「そういうことになりますな。ですがこの上なくチャンスではありますぞ? 勝ちさえすれば確実に太鼓判を頂けるのですから」


「腕が鳴るな! それで、どうやってあっちに行けばいいんだ?」


「それについては、あらかじめ大会参加者用の宿の鏡につなげておきましたぞ!」


「そうなると、しばらく時間があるわね……そういえば、闘技場って何人で出るの?」


「ちょうど四人ですぞ。それぞれ鍛錬した方がよいかと」


「よし!それじゃあそれまでに修行するか!」


 そういうことでとりあえず伝えましたのでしばらく療養しますぞと腰を抑えながらランピィは立ち去る。

 それと交代するようにメリーが陽子のために魔法書を取り繕って戻ってきた。


「ランピィから話は聞いた。陽子、この本の魔法を学んで強くなって。これは攻撃。これは補助」


 手渡された本の数に苦笑いしながら受け取る陽子にこりゃとんでもない宿題だなあと苦笑いするサンゼン。

 私たちも手伝うからとローゼスとアカリ、そしてメリーにフォローされながらも各々、修行のために解散した。


***


 早速陽子とメリーは中庭でベンチに座って魔法書を読みながら魔法の練習をしていた。


「今は日が昇っているから先にこっちね。闇系列でシャドウハイド。影に隠れることができるようになる。試してみて」


「わかった、やってみる。シャドウハイド! わわっ、沈む!?」


「大丈夫。自分を信じて。もしものことがあったら私が何とかするから」


 影と一体化して、地面に隠れることに成功した。


「なんだか動けないし、ちょっと冷たくて変な気分……これで隠れられているの?」


「ええ。しっかり隠れられている。……そろそろかな」


 影からすうっと押し上げられるようにして再び陽子が現れた。


「上々。もう少し長く隠れられるように、隠れている間も動けるように練習しましょうか」


 メリーの指導の下、練習を続ける。

 隠れている間にも身動きが取れるぐらいまで慣れるころには夕方になっていた。


「うう……結構大変だね……メリーさん、休憩しない……?」


 確かに、無理はよくないとメリーは頷いて、ローゼス達も呼んでお茶会を始めた。

 茶菓子を食べながら、お互いに今まで何をしていたかを話を始めた。


「それで、ヨーコは陰に隠れる魔法を学んでいたのね。私はちょっと姉様に会って、生木で弓を作れないか相談をしていたところなの」


 生木とは、加工されていない自然そのままの木の事だ。

 どうしてそんなことをと首をかしげる陽子にローゼスは説明する。

 生きている枝木ならば、状況に応じて自分の異能で大きさを調整できるようになると。


「わぁ……ローゼスさんすごいこと考えるんだね。でも、弓を作るために枝とか折っちゃったら、駄目になるんじゃないの?」


「そうなのよね……だから姉様になんとかできないか話し合っていたのよ。すると、エルフ達が落ちた枝に再度命を吹き込む術を知っているらしくて、その為に風の谷で枝集めをしていたの」


「ワタシも枝ヒロイを手伝いマシタ」


「そういえば、サンゼンは?」


 首を横に振る二人。どうやら二人は見ていないようだ。


「サンゼンさんだから大丈夫だろうけど。夜にご飯食べるときに合流できるはず」


「ええ。そうでしょうね。それじゃあ私たちは枝集めに戻ろうかしら?」


「ハイ、それではマスター。また夜に会いマショウ」


 再び魔法書を手に取って魔法の勉強を再開する。

 じきに月が昇る。


「大会で勝ち抜くにはルナボルトでは力不足。月派生でこのクレセントカッターを試してみて。三日月と回る刃をイメージして」


「うん……イメージを膨らませて……クレセントカッター!」


三日月の刃が盾を掲げたゴーレムの横へと逸れて飛んでいく。


「ちゃんと形づくれている。今度は精度を上げて狙っているところに当てられるように。でもいい時間。夕飯の支度をするから練習していて」


 何度かの練習の後、なんとかまっすぐに盾を捉えるようになった頃に夕飯ができたとメリーの呼びかけがあった。

夕食ではサンゼンの姿もあった。


「いやあ、腹が減っていたから助かった。俺もちょっと走り込みをしていたんだ」


 走り込みってどこで?と聞くローゼスに、前に寄った考古学ギルドの村まで走り込みしていたんだ。行って帰ってだから、大変だったぜ?と笑うサンゼンにローゼスはびっくりしたような表情を見せる。


「あの村って鏡でつないでいないから、サフランシかサンモニカから走ったの!? 滅茶苦茶やるわね貴方……」


「いやー、俺が強くなるにはこれぐらいしないとなあ。それに一人で走り続けるだけだからそうでもなかったぜ。思わぬ土産もできたことだし」


「土産……何かあったの?」


「ギルド所長のスザンナって覚えているか? アカリの新しいパーツを発掘したらしくてな。それを持って帰ってくれともらってきたんだ。ほら、このバトンみたいなやつだよ」


「バトン……どういう形になるのかな? アカリさん、持ってみて」


 アカリは頷いて手に取る。するとバトンが伸びて魔力がU字状に形成する。

 言うならば、刺又であった。


「コレハ相手を押さえつけるときに使えそうデス。サンゼン様、ありがとうございマス」


「おーいっきにおもしれえ感じになったな! 持って帰ってきたかいがあったぜ!」


「ふう……ごちそうさまでした。夜は危険だし、街で種を買うぐらいにとどめておきましょうか。急成長させると面白い効果を発揮するものがあったりするのよ?」


 そういえば、あの船での戦いでも種が爆ぜるときに閃光を放っていたと陽子は思い返す。

 そのようなことが他の種でも起こるのだろう。興味深げに頷いて、一緒に行く?と提案を投げかける。

 しかし、メリーが待ったをかける。クレセントカッターをより使いこなせるように三日月が出ている夜のうちに練習をしたほうがいいのだという。


「うう……そうだよね、まだ頑張らないと……だよね」


「頑張るなら明日いっぱい休憩させてあげて、メリーさん?」


「構わない。代わりに今日はみっちりやる」


「ナラバ、ワタシが的役を引き受けましょう。マスター、一緒に頑張りマショウ」


 再び中庭で練習を再開する。今度はアカリも一緒だ。安定して盾の中央にクレセントカッターを当てることができるようになってから、応用で飛ぶカッターを曲げて別角度から狙えるように練習したり、滞留することを利用して複数展開したりなど、より実用的にするための練習を夜が更けるまで続けた。


「うう、もう疲れた……」


 よく頑張ったと労って、メリーは陽子を抱きしめる。


「あはは……なんだかメリーさんに抱きしめられるの始めてかも……」


「トリアエズ、今日はもう遅いですし、眠りマショウ」


「ええ。陽子もアカリもお疲れ様。今日はもう休んで、明日は遊んできて」


 部屋で横になればやはり疲れていたのか、瞬く間に夢の底へと落ちていった。

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